2024パリ五輪 柔道競技・観戦しながら感想分析などFacebookに投稿した長文転載。その9 男子100キロ超級女子78キロ超級。出場できなかった世界選手権優勝・冨田若春や、影浦心・原沢久喜・中野寛太の悔しさを思う。
試合前日 ドンマイ川端さんと鈴木桂治監督の動画を見ながら、100キロ超級選手選考について考えた
今日の100キロ超級の斉藤立だけは、鈴木桂治監督の「個人的気持ち」が、ちょっと代表選考、早めの決定に入っちゃったよなあと僕は思う。批判しているのではない。人間だから。心があるから。この動画を見れば、僕の言うことは分かってもらえると思う。
鈴木桂治監督は代表選考に関して「公平であるように、絶対に国士舘出身をひいきしたと言われないように、むしろ国士舘出身者には厳しく見た」という意味のことをいろんなところで語っていて、それは鈴木桂治監督は自分に厳しい人格者だから、おっしゃる通りだと思うのだが。
しかし、この動画で語られる故・斉藤仁さん(国士舘大学での鈴木桂治さん現役時代の監督で、鈴木桂治さん五輪で金メダルのときの全日本監督、恩師である)との特別な関係、特別な感情。
鈴木桂治さんは斉藤仁さんに育てられ、斉藤仁さんのおかげで金メダルが取れたという思いが強い。ものすごく大きな恩義。
どうしても斉藤仁先生にしてもらったことを、その子ども、斉藤立選手に自分が監督として返したい。同じことをしてあげたいというストーリーが、鈴木桂治監督の中にはあるよなあ。批判しているのではない。人間だもの、それはあるよなあと思うのである。
しかし、やはり100キロ超級代表選考は、もっと長く競争させるべきだったと思う。今年5月の全日本選手権まで競わせたって良かったと思う。リネールをパリグランドスラムで豪快にぶん投げで勝ったことがある影浦心、国際大会でときどき強い太田彪雅、それに五輪でリネールにあと少しのところまで追い込んだ原沢久喜、加えてここ最近いちばん強い、直近の全日本王者、中野寛太。この4人と斉藤立を最後まで競わせるべきだったと思うのだよな。
別に、そのほうが金メダルが取れる可能性が高いと言っているのではない。
それぞれの選手の納得がいかないだろうというとを言いたいのだ。きちんと競わせてもらえなかった。五輪のタイミングでは自分が階級でいちばん強いはずだ、そういう悔しさを影浦や中野や原沢に残してしまったと思う。
僕は五輪の代表について、全柔連は「誰なら五輪で金メダルが取れるか」という目標、それは実は不確かな読み(往々にして間違っている)にその比重がいきすぎていると思うのだよな。①同じくらいの格式の国際大会でみんなに平等に勝負の機会を与えて(これはわりときちんとしている)②五輪に近い国内大会や、なんなら阿部一二三対丸山城志郎のワンマッチみたいな「誰がいちばん強いか直接勝負」の機会を作って(こっちが足りない)、しかも、どちらかといえば②の比重が重い選考にすべきだと思う。
そうでないとそこまでの人生をかけてやってきた選手たちが報われない。気持ちの整理がつかないと思う。(柔道界の人にだけしかその強さを知られていない、でも出るだけの実力がある選手はいる)丸山城志郎は、阿部一二三とそうやって争う機会を得たから、五輪には出られなかったけれど、柔道関係者以外の普通の人たちにも「丸山というのは阿部一二三と同じくらいすごい柔道家なんだ」ということは認知されたわけで。
最後まで競わせた結果、パリ五輪代表はやはり斉藤立になったかもしれないが。そして今日、これから、斉藤立はリネールに勝つかも、金メダルを取るかもしれないが。
そうなったらなおさら、影浦や太田や中野や原沢の「試され足りないまま選ばれなかった無念」のことは誰も考えなくなると思うのだよな。
手続きが足りなかったと思う。結果が出る前だからこそ、忘れないために書いておこうと思いました。
斉藤初戦を見て
斉藤。お父さんみたいな内股だったな。感動してしまった。跳ね腰みたいな内股(遠い方の足付け根を跳ねて、前に投げる。これだとヘッドダイブになりやすい。)じゃなくて、相手の手前脚に、足をひっかけて上げて、水平に相手を浮かしてから、その、軸を回して(牛か豚の丸焼き、串を、軸に回すみたいに)相手を自分の頭から足までの軸に沿って横回す。これだと絶対にヘッドダイブにならない。この技、斉藤仁さんが芸術的にうまかった。その内股である。
しばらくいろいろ見て
超級はきれいな芸術的な技が連発で見ていて気持ちがいいなあ。外国人選手もすごく技がきれい。
素根の準々決勝敗戦を見て
私は今大会の柔道の、代表選考は早すぎ焦りすぎだとずっと批判している。
東京五輪金メダルを取った素根輝、2023年5月の世界選手権でも優勝したので、パリ五輪代表に決定したのは去年の8月。
東京五輪金メダル→2023世界選手権金メダルであることで決定した女子、阿部詩と素根、今回二人とも金メダルを逃した。
この間2023世界選手権後、素根は怪我もあり調子をどんどん落とし、7月グランドスラムトビリシ5位、アジア選手権7位。表彰台にものれなかった。
代わって調子を上げた冨田若春、ウランバートルグランドスラム優勝、アジア大会3位、2024に入り国内体重別優勝。5月つい3ヶ月前のアブダビ世界選手権優勝金メダル。さっき素根が負けたトルコのカイラ・サイト・オズデグルに決勝で投げて勝っている。
世界選手権まで代表選考を続けていたら、冨田が代表になっていただろう。
今の実力(体調含め)では素根より冨田が明らかに上。しかも、その逆転は昨年冬から今年の年明けにはすでにはっきり結果に表れていた。
明らかに代表選考、決定タイミングを焦りすぎ、東京五輪金メダルの実績を過大評価(五輪とは結局は大きな国際大会のひとつにすぎないのに)、知名度とかスター性とかプロモーション効果とかの、競技力以外の価値を重視しすぎた結果である。
今大会後、この点についての評価反省、次の五輪に向けての選考方法、時期の見直しをすべき。その議論がでないようでは執行部失格だと思う。
今大会、男女とも、決勝で海外選手、世界ランク1位、2位、3位くらいの上位者同士、ほんとうにランキングトップ同士の外国人同士対決が多数見られた。
これはどういうことかというと、直近1年の国際大会、グランドスラムや直近の世界選手権にずっと出場し続け、ずっと優勝、またはそれに近い成績を上げ続けた選手がランキングポイントをたくさん獲得して、ランキング1位になっていて、彼らが結局、五輪でも強かったということである。
57キロ級、カナダの出口クリスタなんかはその代表だが、そういう選手がたくさんいる。阿部詩に勝った52キロ級ケルデイヨルバ、70キロ級クロアチアのマティッチ。昨日の78キロ級イタリアのベランデイ、みんな世界ランク1位で、そしてこの五輪で金メダル。
海外の強豪は、日本みたいに「手の内を隠す」とか「怪我を避ける」とか言わず、世界の大会にずっと出て、ライバルと本気で勝負し続けて、最新の技術と戦略を常に磨きあって高めて、それで五輪に臨んでいる。
早くに代表を決めた後は「隠して温存」というのは、元々、海外のライバルたちより日本選手は強いはずという驕りがなければ出てこない発想ではないか。
やはり、代表選びは最後まで世界最高峰の大会に出場し戦って、怪我少なく戦績を残した選手を代表に選ぶのが本道だと思う。
そういう厳しさが必要なんではないかしらね。
素根は早くに選ばれたちゃった中で、怪我とプレッシャーと戦いながら、よく健闘した。敗者復活と3位決定戦、銅メダル獲得を目指して欲しい。
しかし、つい3ヶ月前、あのトルコの選手に世界選手権という最高峰真剣勝負で堂々と技で勝っていた冨田若春選手の無念ということを、五輪をなんとなく見ている人には、知って欲しいのだな。
e-judo世界選手権のときの冨田選評記事を引用。有料記事なので読みたい人は会員登録してください
斉藤、準決勝敗戦を見て
今、最重量級は背負い投げができる選手が世界では主流。特に男子。今回ロシア選手はでてないけど、バシャエフ、ロシアのトップ選手なんかはそう。日本だと影浦。背が低くて背負う。
背が高くても、背負いを出せる選手もけっこういる。日本国内でも王子谷は背負いがうまい。
韓国のキムのほうが強かった。それだけである。
斉藤ももっと、バシャエフ、タソエフ、影浦、太田と本気の勝負をたくさんやって、勝てるんなら代表、勝てないなら選ばないという厳しい選考をギリギリまでさせないとダメだよな。五輪代表争い、最終選考を直前5月の、全日本に勝つことを条件にすれば、そういう対策もきちんとできたのにな。
背負いの強豪に勝った上で、リネールに勝たなければ金メダルには届かない。世界は厳しいな。
最新型はやっぱり影浦や太田のほうだったのだよな。パリの大観衆を、リネールをぶん投げて黙らせる影浦を、もう一度、見たかったなあ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?