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世界陸上8日目いやもう泣いて、驚いて、見ていてよかったー。女子やり投げ北口榛花選手。男子400m、マイケル・ノーマン選手。女子400mハードル、マクローフリン選手。

世界陸上8日目

いやもう泣いて、驚いて、見ていてよかったー。

女子やり投げ北口榛花選手。

前日予選、64mを一本目で投げて、予選通過条件を越えたので一本しか投げていない。結果、予選1位で通過。

 これ、男子走り幅跳びの橋口選手と同じ。予選一回目で予選通過記録を越えて、結果、予選一位で通過。

 男子走り幅跳びとか女子投擲とか、日本人が五輪/世界選手権決勝に残るだけで快挙の種目で、予選一位通過というのは、本当にすごい。

 しかし、橋口選手は、決勝1回目2回目でファール、3回目でやっと記録を残したが普段なら普通に跳べる8mを越えず4回目以降に進めなかった。

 だから、まず北口選手は、1回目で、「9割がた」でいいから、4回目以降に進める記録を残しておくのが大事なんだよな。と思って見ていたら、62m7㎝、2回目終了時点で3位。これなら、3回目終了時点まで8位以内、4回目には確実に残れそう。

 2回目から5回目、北口選手は、記録が伸びなかった。槍の角度とか、助走のなめらかさとかが、なかなかうまく合わない。

 それでもまだメダル圏内だったときまでは、投擲の間の時間、ニコニコリラックスしながら他の選手とおしゃべりしたりしていたのだが。

 4回目に中国・劉選手に抜かれ4位に落ち、5回目にアメリカのウィンガー選手に抜かれ5位に落ち、表情がどんどん険しくなり、コーチと話すときも不安を隠せない雰囲気だった。

 こんな感じでは、6回目、無理かな。女子の投擲って、わりとだんだん疲れてきちゃうから最終投擲で大逆転、なんてめったに起きないもんな。ここまで、よくがんぱったよ。そんな気持ちでテレビを見ていた。

 投擲前のルーティーン。やりをもって、ぐっと後ろに引く動作が、なんとなく、いい感じ。「ため」をうまく作れそうな予感。

 助走開始。助走は、どうかな、まあまあか。やりが伸びた。バーチャルでフィールド上に描かれている銅メダルラインあたりに突き刺さる。

 ここまで2位だった劉選手の記録をわずか2センチ抜いた。 記録が出た。63m27。この時点で2位。そのまま観客スタンド最前列のコーチのもとに走る。笑顔、大喜び。このままメダル確定か。

 しかし、北口を抜く可能性のある、アメリカ、ワグナーと中国の劉がこの後に控えている。直後、投げた地元アメリカのウィンガーが大投擲。64m05。北口を抜いて二位。北口は第三位。さっき投擲直後コーチのところに行った北口は、嬉しくて泣いていたみたいだったのが、この瞬間、テレビカメラがアップで抜いた北口の表情はやっぱり泣いているのだが、眉間にしわを寄せて、不安そう悲しそう困っていそうもっと投げられなくて悔しい、そういう表情。もう。泣いても笑っても不安そうでも表情が豊かなので、見ていて面白いっていったら悪いか、ものすごく感情移入する、より、いや、なんかすごくかわいらしい。

 次の5位リトルもここまで63m22。北口の記録と5センチしか違わない。北口同様、一本目にこの記録を出した後、2回目から5回目、失敗し続けている。流れからすると、なんか6回目にベスト記録を更新しているから、もしや。不安。人の失敗を願ってはいけないのだが、正直「超えるなよ」と念じてしまう。

 投げた、槍がひょろひょろと上に上がり過ぎる。失敗投擲。

コーチと話している北口、もう不安で顔がバッテンになってる。

最終投擲は、一回北口を抜いた、中国の劉。東京五輪の金メダリスト。

 中国女子は投擲が強い。今までのイメージでは、中国女子柔道なんかと一緒で「13億人もいれば、ものすごく大きな体の力持ちがいるよな」という、ガタイのいい選手が多かったようなイメージがあるのだが。この劉選手、投擲の選手とは思えない、ほっそりとした体形と顔立ち。そう、どんどん話は脱線するのだが、今大会の女子円盤投げ。優勝したのは中国の馮彬選手。この選手も、なんか、タレントの柴田理恵さんのようなお顔立ち、メガネかけてるだけじゃん、かもしれないが。いや、なんか、雰囲気、陸上投擲選手、っていう感じじゃない雰囲気で、北欧やNZ、AUSあたりの、ガタイがよくて格闘技やってもめちゃくちゃ強そうな、という選手たちと雰囲気が違って、「喧嘩が弱そうなのに投擲が強い」という、ニュータイプ。面白いなあ。と思って見ていたのでした。

 話を戻そう。劉選手、槍の投げ方もなんか、助走のとき、たいていの選手は肩の上に槍を構えてから走り出すのに、この劉選手、やりを下にもったまま、ちょっとジョギングしてきまーす、みたいに走り出してから、走りながら肩の上に槍をかまえるという、「脱力系」フォーム。

 この最終標的は、ちょっとファールぽい(線を踏み越えたように見えた)上に、槍がふらふらと上がり、失敗スロー。北口選手の銅メダルが決まった。

 まだ観客席コーチのもとにいた北口選手、顔を両手で覆ったので表情見えません。ていうか、もう号泣で、顔がバッテン。

 観客席脇で、競技後すぐに首にかけてもらう模擬メダルをもらい、日の丸を掲げて、あれ、とフィールドの方を見たら、金メダル、銀メダルの、オーストラリア、バーバー選手、アメリカ ウィンガー選手が並んでカメラマンたちに写真をとってもらっている。

 北口選手、あわてて、フィールドの方に駆け戻って、金銀のふたりと抱擁、写真におさまりました。

 日本人女子、投擲競技、史上初のメダル。競技展開としても最高に面白かったし、北口選手の顔の表情だけでなく、全身の仕草まで、喜びも不安も、感情が全部まるだしになる様子、天真爛漫というか素直というか、その姿にひきつけられた女子やり投げでした。(この後のインタビューも表彰式も<とても良かった。)

 北口選手、銅メダル確定直後に行われた、男子400メートルのマイケル・ノーマン選手。今季世界ランク1位、全米選手権も優勝。優勝候補として登場し、堂々の金メダル。おかあさんは日本人で全中優勝、中学で初めて11秒台を出したけれど、高校大学ではけがで結果が出なかった。アメリカ人の陸上選手と結婚して、マイケルノーマン選手は生まれも育ちも純然たるアメリカ人だが、やはり、なんか応援してしまう。見事な金メダルでした。

 北口選手の銅メダル、ノーマン選手の金メダル。ここまででお腹いっぱい大満足。だったのが。

 デザートは別腹、まあ入るだろう、くらいの気持ちで見た女子400mハードルが凄かった。メインディッシュでした。

 今大会、まだ、どの競技でも世界記録が出ていない。

 アメリカのマクローフリン。TBSは今大会、注目選手を「7大超人」といって取り上げているのだが、いやほんとにこのマクローフリン、桁違いの超人でした。

 東京五輪400mハードル金メダリスト。世界記録が少なかった東京五輪も世界新で制している。世界記録を4回更新していて、直近、全米選手権決勝でも世界記録を更新。その記録か51秒41。。この決勝、歴代51秒58のムハマド、三位のオランダのボル、52秒03も出場しているのだが、この三人が極端に速い、52秒台で走る選手はほとんどいない。54秒台で十分速い。53秒台だととてつもなく速い。52秒はありえないほど速い。そういう競技だと思ってください。

 だいたいハードルなしの400mのことを考えてね。日本女子の400m、(ハードルなし)の日本記録が51秒75(丹野和美)

 マクローフリン選手、ムハマド選手、はハードルを跳びながら、ハードルなしの日本記録より速く走っているわけだ。特異体質なんだと思う。

 いや、丹野選手だって速いのよ。僕、高校一年まで陸上部なんだけど、その陸上部でいちばん400mが速かった男子先輩が52秒くらいで、高校一年入りたての僕ら新入部員は、「短距離やりたい奴も長距離やりたいやつも、まず、400mで1分を切ること。専門はそれからって言われて、それが死ぬほどきつかった。1分切ると「やったー」というより、苦しくて死んだ。400mって、そういう感じなのだよ。いろいろスポーツやったけど、格闘技で、みぞおちに本気のパンチをもらってダウンしたときと、400mを全力で走り切った後というのが、「肛門に力が入らなくなって、上からも下からも全部出そうになって、立ちあがれない、苦しい、死ぬ、二度といやだ」という苦しみツートップだと思います。

400mっていうのは、人間の生理的能力・特性として、「無酸素運動」での限界が300くらいで来る。(個人差はある)

 筋肉の中に蓄積されているエネルギーだけで筋肉がパワーを発揮できるのが300mまで。燃料を使い果たすイメージ。

 最後の100mは、酸素を補給しながらエネルギー源を分解して運動する「ゆっくり系」に、生理的には移行しなければいけないけれど、それだと速度が極端に落ちちゃう。

 なので、400m走でもそうだけれど、400もハードルというのは、ペース配分というか、300mを越えて最後の直線で、たいていヘロヘロになりながら、ハードルを跳ぶのも大変だし、走るのも「生理的限界に挑む」というような、肉体と根性の超きつい種目なのだな。

   400mとか、400×4リレーとかで、最後の直線で失速する選手がわりと多くて、そこで抜く、抜かれるドラマが起きやすいのは、こういう競技特性、人類の生理的特徴のためなんだな。

 というわけで、話は戻って、今日の、この、女子400mハードル。

 さて、優勝したマクローフリン選手のタイムは

50秒68.異次元驚愕の世界記録。自分の1か月前の世界記録を0.73も更新。えーーーーー。ありえない。

 世界記録の更新っても400mくらいの距離だと、もう、100分1秒単位でされていくもんじゃないの。なにこれ。

 最後の直線のふたつのハードルを跳ぶのも、ゴールまで走り切るときも、ひとかけらも「ヘロヘロ感」がない。

 もちろん、走り切った後は、トラックに座り込んでいるけれど、競技をしている最中は、まったく乱れない。

 いやもうほんとに「超人」でした。二位のボルも52.27のシーズンベストなんだけれど、びっくりするほどの大差がついていた。

 ほかにも、若者だけで走った日本男子100×4リレーとか、いろいろあったけど。

 いやもう、世界陸上、面白すぎる。

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