4月5日、キエフ郊外のブチャでの「虐殺・ジェノサイド」の衝撃が世界に走った今朝のNHK BSワールドニュース、BBCとドイツZDFとウクライナ自身のウクライナ国営テレビで、報道の仕方がどんなに違うか。日本はどれに近いかな。

 過去の歴史、第二次大戦の満州や、独ソ戦の最中でのソ連軍、そしてロシアになってからのチェチェンやシリアでやったことを思い出せば、ロシア人は、ロシアの軍隊と言うのは、どうしてもこういうことをやってしまうのだな、と僕も思う。ロシア・ラザロフ外相の「ウクライナのでっちあげ」主張は無理があるよな、と思う。

 そう思うのだが、このことをどう報じることで、どういう国民感情を醸成して、この戦争の納め方をどういう方向にもっていこうとしているか、ということは、やはり米英と独仏とでは報じ方が違う。それをきちんと把握したうえで、NHKはじめ日本での報じ方を見る。戦争が始まって以来やってきた、この手法は、ブチャでの虐殺というニュースが中心となった今朝のワールドニュースでは、BBCとZDFとウクライナ国営テレビを較べてみた。

BBC

 スタジオ、メインキャスター女性の、このナレーションから始まる。
「ウクライナのゼレンスキー大統領がキーウ近郊のブチャを視察しました。ロシア軍が市民を殺害した証拠が残る街です。大統領は戦争犯罪、そしてジェノサイドがあった。動物以下の扱いだ。とロシアを非難しました。ロシア軍が撤退した町で市民がどのようなめにあったのか明らかになってきました。アメリカのバイデン大統領は戦争犯罪として裁判を行うべきと述べました。ロシア側は遺体の映像は作られた偽の映像であるとして市民殺害ヘの関与を否定しています。ウクライナからフォスター記者のレポートです。衝撃的な映像が含まれています」
ブチャの町、映像防弾チョッキ軍服のゼレンスキー大統領、兵士と、それを取り囲む報道陣。
「恐れていたことが現実になりました。4日、ブチャの町に入ったゼレンスキー大統領は恐ろしい光景を目にしました。閑静な町だったブチャに、今、あるのは、破壊のあとと多くの遺体です。街は二度と消えることのない傷を負いました。」
ゼレンスキー大統領に多くのマイクが向けられる。
「ロシア軍は市民に対し、動物以下の扱いをしました。何千人もの人が手足を切断され、拷問を受けました。言葉にするのが難しいくらいです。」
画面は替わって、日記に、細かい文字でびっしりと書き込んだページをめくる映像。短髪というかスキンヘッド若い青年にインタビューする女性記者。青年はスキンヘッドだが、やさしく知的面立ちで、「国粋主義者」みたいなかんじではなく、心優しい青年に見える。室内でテーブルの上に日記帳。
ナレーション「ブチャを逃れたというドミトロさん。日記や撮影した写真を見せてくれました。」一瞬映る、ドミトロさんの自家用車の向こうに戦車の写真。ドミトロさん。「ロシア軍の戦車が見えたので、一枚,撮っておこうと思いました。」次は、火を噴く住宅のスマホ動画。次は、酷く破壊された自家用車。「クルマの中で人が死んでいるのが見えました。誰かに危害を加えた人とは思えない。自転車に乗って、死んだ男性もいました。」
日記のアップ、ナレーション「ドミトロさんは、毎日見聞きしたこと、感じたことを書き記しました。自分の身に危険を感じても、書き続けたといいます。今、生きているのは幸運だとドミトロさん。」記者の質問。「自分の最後の言葉になるかもしれないと思って書いたのですか?」ドミトロさん「そうです。」


大統領一行が破壊された軍用車両に近づく映像、さらに画面切り替わり、走行する戦車の映像のアップ。
ナレーション「キーウ近郊のいくつもの街をウクライナは奪還しましたが、他の場所では激しい戦闘が続いています。」
激しく破壊された街で途方に暮れる市民の姿、歩き回る兵士。「東部マリオポリでは今も数万人の市民が身動きが取れずにいます。」マリオポリ副市長の自撮り動画「あの画像をみんなが見ました。人間がやったことではありません。彼らはけだものなのでしょうか。どうしてあんなことができるのか全く分かりません。」
高層住宅が完全に破壊しつくされた街を、走る車から撮影した映像。「ウクライナの南部、東部での戦闘は続いています。同じく、破壊され尽くした高層ビル、住宅を空撮で捉えた映像。「これらの地域で戦いが終わった時、どのような惨状が明らかになるのか、まだ、分かりません。」
(ここまでわずか3分)

スタジオに戻って、バイデン大統領が両手を広げている写真を背景に。
「アメリカのバイデン大統領は、プーチン大統領を戦争犯罪人だと呼び、キーウ郊外で殺害が起き、集団墓地が見つかったことを受けて戦争犯罪として法で裁くことを求めました。戦争犯罪の証拠を集める困難さと、立件の可能性を探ります。
高速道路で燃え果てた自家用車の映像から、ドローン空撮で、高速道路で車から降りた男性が射殺される映像。(1週間以上前に、夫婦が射殺されるニュースで使われたもの)
「ロシア軍の撤退と共に、残虐行為が明るみに出ています。キーウ郊外では戦火を逃れようとした男性が車を出で戦車を見た直後に射殺されました。」
庭に埋めた子供のことを話す女性(これも昨日から何度か使われた映像)「一人息子の亡骸を自らの手で埋めた女性がいました」
防衛安全保障研究所です。専門家インタビュー映像「ロシア軍の過去の戦争の掃討作戦、反乱鎮圧作戦のパターンです。目的は、自分たちに従わないもず抵抗する者をコミュニティの中で厳しく処することで、住民を恐怖に陥れることです。抵抗を続ければ住民全てが代償を払うことになると示すのです。」
ここで一転、古いモノクロのニュースフィルム、法廷のようす。音楽も古い音質のバイオリンのクラシック音楽。
「1945年ニュルンベルグ裁判は、政治および指導者の責任を追及した前例です。これが国際刑事法で侵略を犯罪とし人道に対する罪などの新らたな概念が認められたときです。」
今度はカラーのニュースフィルム。やはり国際法廷。
「この概念が再び取り上げられたのが、1990年代のユーゴスラビア戦争についての、オランダ・ハーグの戦争犯罪法廷の設置です。何年もかかりましたが、主要な政治、軍事指導者が裁かれることとなりました。ボスニアのセルビア勢力指導者カラジッチ氏は自らの手で人は殺したことは無くても犯罪をさせた責任を問われ、以来、収監されたままです。」映像はカラジッチ氏の顔アップから、空爆される街の映像。そこからプーチン大統領執務室の映像に切り替わる。「プーチン大統領が同じ運命をたどることはあるのでしょうか。国際戦争犯罪法廷の検察官は、それができるのは侵略犯罪に限定して訴追された場合のみだろういう一方で、現在ある国際刑事裁判所には訴追の法的能力がないと指摘しています。」
人権弁護士専門家のインタビュー映像「各国政府が独別法廷を設置する方法を探っています。戦争犯罪や人道に対する犯罪に比べ、侵略犯罪は立証しやすいのです。プーチン大統領はすでにどういう目的を持ち、その理由を明言していますが、ウクライナで進行中の事態に法的根拠はありません」

古い国連安保理のニュース映像。「ユーゴスラビア戦争の特別法廷設置の場合は国連安保理の全会一致で決まりましたが、今回の場合、ロシアと中国の拒否権のために不可能です。」記者の映像。「ユーゴスラビアは、体制変革で新しい政権が国際法廷に協力し、証拠集めや元指導者の引き渡しを行いましたが、プーチン大統領後のロシアが西側の捜査に協力したり、現在の政権エリートを引き渡すとは思えません。」

古いニュース映像。サラエボの戦果の中で何度も身をすくめる女性と子供たち。

の映像「平和への移行期には裁判が必要です。サラエボの狙撃兵により自ら負傷し、7歳の息子を亡くした女性は当時法廷で証言したいと語っていました。」女性「私にとって大切なことなのです。息子にとっても、証言したからといって息子が生き返るわけではありませんが。求められれば、いつでも証言しますよ。証言すること自体が大切なのです。」

トータル7分のニュースが、BBCらしく、練りに練られたドキュメンタリー番組のように構成されている。

初めの「ロシア軍が市民を殺害した証拠が残る街です。大統領は戦争犯罪、そしてジェノサイドがあった。動物以下の扱いだ。とロシアを非難しました。ロシア軍が撤退した町で市民がどのようなめにあったのか明らかになってきました。アメリカのバイデン大統領は戦争犯罪として裁判を行うべきと述べました。」、これが事実です。という強い断言。証拠がある。けだもののような行為だ。プーチンは戦争犯罪者だ。それが事実なのに、卑怯にも「ロシア側は遺体の映像は作られた偽の映像であるとして市民殺害ヘの関与を否定しています。」と弁解している。見え透いた嘘を。という強い非難。

まだ事実は確定していない、というスタンスではない。もう事実は明らかだ。それなのにロシアは否定する。あとはどうやって戦争犯罪として裁くかだけが問題だ。ニュルンベルク裁判でも、ユーゴ戦争でも戦争犯罪者は逃げられなかった。プーチンも絶対に逃がさないぞ。困難はあるが、絶対にプーチンをさばいてやる。そういう気持ちに、見ている人を強く限定していく、感情的に「プーチンを、ロシアを許さない」という気持ちにする。まだ停戦しているわけでもないし、プーチン政権を倒す、倒れる道筋など見えているわけでもないのに、「プーチン後のロシアの政権が」、とロシアが敗北し、プーチン政権は倒れ、そして戦争犯罪者として国際法廷で裁かれる運命にあるのだ、ということが必然の未来である、と見ている人の頭の中をしていく。BBCの報道が「実によくできた情緒的プロパガンダだ」というのは、これを見てもよくわかる。

 初めに言った通り、私も、ブチャの虐殺はロシア側によるもので、戦争犯罪だということには全く賛成だ。しかし、そうであっても、ウクライナ市民の犠牲をこれ以上ふやさないためには「プーチンを倒す」前に「まず、停戦」しなければならない。停戦のためには、「東部の戦線」に無限に武器を送って戦闘を長引かせずに、キエフ近郊からロシアが撤退したこのタイミングで停戦交渉をいったんまとめる方向で、トルコもフランスも動いている、後に見るが、ゼレンスキーも「戦いつつも交渉を続けている」と同じ場所でのインタビューで語っているのに、そのことにはBBCは全く触れない。

 このBBC報道で触れられていないこととは何なのか。ドイツZDFを見て以降。

ZDF

スタジオの男性メインキャスター
「ウクライナのブチャで惨殺されたとみられる住民の映像は、軍事侵攻の新たな段階を示しています。
西側諸国はロシアに対して戦争犯罪として非難していますが、ロシア政府はフェイクであると退けています。殺害が事実であるとなった場合、より厳しい制裁課すべきだという圧力が強まるでしょう」

この最初の10秒のコメントが、BBCと全くニュアンスが違うことがおわかりいただけただろうか。

「惨殺された住民」、受動態で、誰がやったかを初めの一文は言っていない。惨殺されたのは事実だが、誰がやったかはわからない。西側諸国はロシアがやったといいい、ロシアはフェイクだと否定している。

次に、もしロシアがやったのだとしたら、の先が、BBCは「戦争犯罪として国際法廷で裁く」という、短期的には実現可能性の低い、勇ましい理想論に時間の大半を割いたのに対して、ZDFは「新たなより厳しい制裁」という出口に話を向けるのである。このコントラストをよく覚えておいてください。BBCは「戦争犯罪者として、プーチンを裁く」、ZDFは「より厳しい制裁」。

キャスター「まずはキーウ州の状況を見てみましょう。いくつもの地域からロシア兵が撤退しています。先週の水曜日にブチャから撤退したとロシア故政府は表明しています」スタジオのモニターに地図が表示される。「首都キーウから誇制35キロのところにあり、進行前の人口は2万7千人でした。アイゲンドルフ記者が4日、現地で取材することができました。」

ここもBBCとの違いを確認。BBCでは地理的位置も人口もなく、「閑静な住宅地だったブチャは」という。ZDFの「事実」に対し、BBCは「情緒的(形容詞的)」描写。論文と文学、ニュースの作り方の基本が違うのである。

ここから現地映像と現地記者レポート。破壊尽くされた街と、燃え果てた軍用車両。ロシア軍のものなのか、ウクライナ軍のものなのか不明。住民の衣類が散乱しているが遺体はない。
「ロシア軍が撤退したばかりのような様子です。ただ、この周辺に放置されていた住民の遺体はすでに収容されています。これらの映像はほとんど耐え難いものです。」
荒れ果てた街路、壊れた軍用車両の前を歩く女性記者二人。
「ウクライナの内務省は主に世界中の女性ジャーナリストにこの状況を記録してもらうために招きました。」
町の中で取材陣のインタビューを受けるゼレンスキー大統領の映像
「ゼレンスキー大統領もブチャに来ました。女性が暴行を受け、家族が処刑されたことを語って、いかに心を痛めているのかが見て取れます。」
「戦わなければならないが、同時に交渉もしなければならないとのことです。」
ゼレンスキー大統領の言葉。「私はウクライナの国土に平和を取り戻すことができると確信しています。ウクライナは軍事侵攻の中で生きていくことはできません。我々は21世紀のヨーロッパにいるのですから」

さて、ここで、BBCが報じなかったことがいくつも出てくる。
まず、「ウクライナ内務省が世界中の女性記者を招いて取材させた」ということ。膠着した占領状態が続いた中で、女性への暴行も数多く生じた。若い男性を殺し女性を暴行する。ロシア兵への嫌悪感、ケダモノ度合いを、より強く世界に発信してもらおうという戦略的取材の設定だったらしいことが伝わる。もうひとつゼレンスキー大統領の「それでも和平への交渉は進めようという強い意欲」。ロシア兵への残虐行為に強く憤り、嫌悪感を抱きつつも、戦い続けつつも、停戦から和平に向けた交渉も続けるのだ。求めているのは平和なのだ、というメッセージ。なぜBBCはこのことを伝えずに、一足飛びに「戦争犯罪人としてプーチンを裁く」という方に飛躍するのか。停戦交渉の相手はプーチンなのだから、「戦争犯罪人」として憎みつつも、まずは交渉相手として、話し合いの相手としてゼレンスキーはプーチンと対面し、会話する必要があるのに。こういう疑問は、BBCの報道だけを見ていると心に浮かんでこないのである。

 ニュースの先を続けよう。
「平常時には郊外で運行しているバス二台で、内務省はロシア軍が追い出された地域に女性ジャーナリストたちを案内しました。道路のあちこちに燃え尽きた民間人のクルマや、ロシア軍の破壊された戦車が見られます。」郊外の道路を抜け、画面は転換。カメラは林の中に掘られた、遺体をまとめて埋めてある(なかば露出している)大きな穴の上に、取材陣が集まっている映像。土から出てしまっている、遺体の手がアップで映る。
「この村ではウクライナの内相の顧問が、ロシア兵に殺害されたと確信している家族の姿を我々に見せました。」
顧問の男性が怒気も露わに語る。「人間の屑どもが、家族全員を殴り拷問し、殺害しました。彼らはその責任を問われるでしょう。この恐ろしい行為を行ったものを全員見つけます。」
記者「ゼレンスキー大統領はブチャを、ロシアによるウクライナ人へのジェノサイドのシンボルだとしました。世界はこのことを見るべきで、ウクライナは正確に記録しようとしています。いつかこのことが国際司法裁判所で審理されるかもしれません。」
映像はロシア軍の破壊され放置された戦車。

戦争犯罪者として「いつの日か裁いてやる」という強い決意は伝える。しかし、それは「けして忘れない決意」であって、そのことを躍起になって、今、追及すべきことと、ゼレンスキー大統領は語っていない。ZDFの報道からはそう伝わる。BBCを見た印象と、だいぶ違う。

ニュースはスタジオのメインキャスターに戻る。
「ブチャの残虐な映像が大きな怒りを呼び、西側諸国はロシアに対しより厳しい制裁を今週にも行うとしています。ガスと石油の即時禁輸を求める声が多いものの、ドイツ政府は保留のままです。」

ドイツ国会議事堂の映像にかぶさるナレーション「ブチャの衝撃がドイツ政府に対するロシアからのエネルギーの禁輸への圧力なっています。ロシア原油やガスにEUは毎日7億ユーロ以上を払っています。輸入の即時停止には、ドイツはあまりにロシア産に依存しすぎていると経済相は語りました。」
ハベック経済相「我々は全てをもとに戻し方向を変えます。つまり禁輸を可能にする条件を整えるため毎日努力しています。」
ナレーション「経済相は夏までにロシア原油の輸入は半分に、石炭は完全になくすとしたものの、ガスはむずかしいと語りました。」
野党CDUのワドプール議員「経済相の話ははっきりしません。代替品が出てくるまで待ちましょうと言っているわけですが、カタールからの供給が始まるまで何年も待っていたら戦争が終わってしまいます。」
映像は外務省に切り替わる。ナレーション「一方外務省はブチャの残虐な行為、ロシアの情報院と思われる外交官40人の国外退去を発表しました。外相はつぎのように書いています。彼らの仕事はドイツに保護を求めてくる人たちへの脅威であり、我々はこれ以上容認できない。と四日午後ロシア大使に伝えた。」
映像はガスプロムの旗、ガスプロムの口上に切り替わり「そして夕方、ネットワーク庁が、ガスプロム・ゲルマニアを信託統治することになりました。ガスプロムはドイツ子会社を売却したばかりですが、売却先は不明。ドイツのエネルギー供給のリスクです。」再び経済相です。「ドイツ政府はドイツの安定的なエネルギー供給確保のために必要なことを行います。ロシア政府の恣意的な決定にドイツのエネルギーインフラを晒さないことも含まれます。EUとドイツ政府の第五次制裁パッケージ、エネルギー禁輸は入りませんが、プーチン大統領支持者に対する商取引や金融取引のさらなる制約が含まれます。」
ニュースは替わって「シュタインマイアー大統領は自らのロシアに対するエネルギー政策の誤りを初めて認めました。」「ノードストリーム2プロジェクトへの固執は明らかに誤りだった。しがみついていた、その話をロシアは信じていなかったし、パ-トナ―国(アメリカのこと)からは警告されていた」と大統領は語りました。

またまたニュースは替わって「ロシアへのエネルギー依存から脱却するために、また温暖化目標を遵守するために、風力発電の拡充を急いでいます」とこの後、風力発電の長く詳しいニュースになる。そらにその後、ハンガリーのオルバン首相が選挙で与党が圧勝2/3を占めた。、独裁的でEUとの摩擦が懸念され、ロシアとも関係が深い。一方、セルビアでは温厚なナショナリスト、現職ブチッチ大統領が勝利。セルビアのEU加盟を目指しつつ、プーチンとも良好な関係を保ちたい、という人だと伝える。

 さて。ドイツにとっての対ロシア問題は「経済制裁=エネルギー禁輸、それがすぐにはできない」ということに、ドイツのニュースは、結局そこに落ち着いてしまう。ドイツの関心は、直接的なウクライナでの戦闘よりも、ドイツ国内のエネルギー政策を、どう「脱ロシア」化するか、そういう難題のもととして戦争を捉えているのである。ウクライナに古くなり過ぎた旧式兵器を上げて、今年度から軍事予算を増やして、装備を新しくしよう、ということにはなつたものの、今回のウクライナ戦争で、軍事的に積極的な役割を果たそうとは、ドイツはひとかけらも考えいないのである。BBCの勇ましく情緒的な正義の実現に拳を振り上げるような内容と比較すると、「国民生活のためのエネルギー確保」という難題に頭を悩ませることに終始しているのである。だから、ブチャの虐殺の行くさきも「戦争裁判を裁く」という方向は未来のために置いておいて、直近の制裁と、停戦合意に関心が向かうのである。必ずしもドイツが正義だというのではない。各国とも、その国益からしか戦争は報道されないということである。

ウクライナ国営テレビ

 では、ウクライナ国営テレビは「戦争犯罪人を国際軍事法廷で裁け」と声高に叫んでいるかと言うと、そういうトーンではない。「現実を、正確に知ってくれ」というトーンなのだな。戦争があまりに悲惨でもあるのだが、それでも40日も続くと、ある程度日常が戦争と重なってしまっている、そういう気分がニュースにも出てきている。

 詳しく全部文字起こしはしないが、ブチャの町の惨状を、ブチャの町の葬儀屋さん、葬儀責任者へのインタビューで伝えるという、BBCともCNNとも違う切り口になっている。ロシア占領下の3/10に、初めて路上の遺体を15体回収した、後ろ手に縛られ頭を打たれていた。ロシア軍はウクライナ人の遺体回収には消極的で「寒いからほったらかしておけ」と許可してくれなかったが、「ロシア兵の遺体も三体、放置されているから収容しなければ」と言ったら、許可してくれた。冷蔵庫が壊れていたので、遺体はひどい状況になってしまった。ブチャでの死者数は最近は悪できているだけで350体くらいで、多くの人は家の裏庭などに埋葬されているので正確な死者数は分からないと葬儀屋さんは語る。ロシア軍が撤退したので、街の中を回って、きちんと埋葬してあげようとしているようである。

 話題は北東部のトスティアネツ、一か月ほどロシアに占拠されていた。靴店を経営していた男性、ロシア兵が店を占拠し、はいていたスニーカーから、温かいブーツなどに勝手に履き替えて持って行った。店や住居にいたウクライナ人を追い出して、まず食品店やスーパーの食品を食べ尽くし、なくなると一般住宅の地下倉庫なとの食料品を食べた。あいつらが何をしたのか、しっかり見てほしい。店も住宅も全部破壊していったよ。「ウクライナの兵がロシア軍の制服を着てやった(ロシアのプロパガンダ)は言わないでくれよ」という、生活実感に溢れた証言。家族、彼は町に留まることにして、親戚と一緒に暮らしている。と子供や女性たちの姿が映った。

 このウクライナ国営テレビの「ロシア軍占領の実態」の生活感ある報道と較べると、ブチャのジェノサイドというのが、ブチャで特に過酷なことが起きたのか、世界に悲惨さを発信するために、ある程度、特に悲惨なところを見せたのか。ブチャの葬儀屋さんのインタビューも、たしかに人口2万7千の町で、今わかっているだけで350人、もっとたくさんの人が裏庭なんかに埋められているというから、それは大変なことが起きたのは確かだが。「15人のウクライナ人の遺体を回収するしないのときに、ロシア兵士も3人、遺体が放置されていた」という、きっとそんな具合だったのだろう。BBCの放送ではロシア軍の被害についてはひとつもコメントが無かったが、ドイツZDFとウクライナ国営テレビを見ると、ロシアの破壊された戦車や軍用車両もたくさんあり、ロシア兵の遺体も放置され、そのように被害が甚大だったからこそ、ロシア軍は撤退したのだろうことが分かる。

 「ブチャの激戦の双方の被害者が出た」ということと「ブチャのジェノサイド」ということと、「無法者の占拠の中、葬儀屋の仕事を続けた市民もいたように、戦争の悲惨が日常生活となっていること」など、戦場、占領された街の様々な側面、BBCだけではわからないことが伝わってくる。

 僕はZDFの前半部分、ジェノサイドに対する怒りと、「いつか告発してやる」という決意を秘めつつ、停戦の交渉も進めて、ウクライナの地に平和を早く実現したい、そのためにはプーチンと交渉しないといけないのだ、というゼレンスキー大統領の複雑な思い、というのに西側諸国は寄り添うべきだと思う。それと「だから俺が戦犯だと言っただろう、」とまた調子に乗るバイデン大統領のスタンスや、「プーチン退陣後」のような今すぐには実現性の薄い未来を熱心に語るBBCの報道姿勢には、違和感を覚えるのだよな。

 しかし、日本の、例えばNHKのニュースウォッチ9なんかの報道スタンスはというと、ほぼBBCに近い。出来の悪いBBCみたいな報道だよな。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?