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目蓋との境に闇が満ちるときからだは粒子となって散らばる イヤホンをしたまま夢に降り立って、エイトビートで駈ける草原 曲調が緩やかになる風音とやさしく睦みあう夜想曲(ノクターン) 近づくと幽かに土をふるわせてジムノペディが湧き出る泉 チャンネルが替わって夢は第二章、旧い校舎に制服で立つ どこまでもつづく廊下のリノリウム窓のかたちの光沢を踏む 黒板にヒエログリフの伝言が残されたまま朽ちる教室 図書室は黴のにおいに包まれて誰も読まない『レ・ミゼラブル』 色褪せたマル
こころにもない音ばかり瞬いて今夜しずかに言葉を殺す 腐敗した肉の獣に正装を着せてきらきらさざめく思考 諦めたあとの優しい沈黙が未明の白を閉ざしつづける 生きている人をどこまで愛せるか問うように日は朝をはじめる 血みどろの語彙をあつめて血まみれの隻語をつづる炎天の乱 飛語による陵辱、雅語による差別 昏れゆく国を生きるわれらに 枯れてゆく言葉を誰に手向けよう みどりのゆびをもつきみの手へ
透明な糸をつたって曲技団(サーカス)の夜から夜へとわたる白蜘蛛 風を呼ぶ桜の声は重低音バッドニュースは遅れて届く 早春の傷癒えぬまま息を継ぐタンポポの孤独デイジーの罠 淡色のかなしみ手ざわりもあわく夕光(ゆうかげ)に溶けのこるシロフォン いっせいに菜の花たちの深呼吸だいじょうぶここで生きてゆけるよ 図鑑にはない花の名を知りたくて風に尋ねるように春雷 細胞がふるふるふるえるやさしさできみの路地へと風を届ける まなうらに春の面影はてしなく梢にしがみつく桜蘂 単調な