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自作短歌一覧

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noteで公開済みの自作短歌をまとめました。
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2019年3月の記事一覧

【連作短歌】惑星システム21

ゆびさきで触れた位置からじりじりと歪みはじめる世界の喘ぎ 奇跡から放り出されて着地した砂浜のすな すこしつめたい どんな夢も打ち切りにあうそのときのために集めた銀貨をつかう この惑星(ほし)の軌道がゆらりずれてゆく出逢い損ねた二人のために たましいをぜんぶあずけて次の世の朝がくるのを見つめていたい 地下深く水を浄める小人たち水の濁りを濾過しきれずに 無意識の海に産まれたアメーバが邪念雑念食い散らしつつ 札束が紙屑になる日が来ても来なくてもシステムは続くよ

【連作短歌】月のマイルストーン

穢された月の記憶がよぎる空、あなたの嘘を曝くさきぶれ 語れない罪を負うひと月の夜はつきのひかりにさえ怯えつつ なまぬるい外気に触れて ささくれた言葉にバンドエイドを巻いて ただひとりの闘いひとつ終えるたび拡がってゆくかなしみの染み 弱くあることがさらなる自由へとつづく道には花だけがある 振り返りふりかえり咲く幾重もの花びらの紋、砂に託して 印影のようにあしあと刻みつつマイルストーンを跳び越えてゆく ユートピアまで何マイル? 振り向けば運命だけが見送っていた

【連作短歌】神の箱庭

好きだった歌のたそがれ音符ごと黒板消しで消したい夏だ 敵意よりやさしく嫉妬よりぬるいトマトはすこし熟れすぎている 駆けのぼるほど腐ってゆく人間もかつて信じた夢の果実も 売文屋、かなりや殺しの罪隠し吹けば飛ぶよな言の葉の檻 生き延びろ。闇に愛された徴(しるし)は前髪で匿して駆け抜けろ 誰もみな目を合わさずにビー玉を弾いて跳ばす神の箱庭 なまなまと爪痕いまも癒えぬまま黒塗りにされてゆく文字列(テクスト) 水没の刹那ひそかに愛された記憶を抱いて眠れ、鉄塔

【連作短歌】cyberspace 2017→2016

甘やかなサイバーテロの標的になったVOCALOID(ボカロ)を巡る文字列 私の内部のある種の回路がすり減ってゆく剥き出しの視線の下で 「悪の側(がわ)に立つ」ときこえた電磁波にまぎれて声はすこし掠れて 天上の窓から文字が降りそそぎ それがぼくらの祝祭だった 監視下の L 0 < ə は螽に燃やされて火群(ほむら)となって夜を彩る 野の鳥が文字とリズムを切り裂いて比喩をついばむ歌の風葬 法律も医者も見棄てた妄想を擁(いだ)いて肥ゆる電脳の海