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その間だけは


受験生の弟が進路や将来について話していた時、流れでふと私と同じ職業にしようかなぁと言うので

「私は家を出ても一人で生きていけるようにこの仕事を選んだけど、今思ったら、お前くらいの時はもっと夢を見ておいてもよかったなって思う。好きなことして生きていったってええんやで」

と伝えたら

「でも好きなことして生きるのは堅実な仕事してからでも遅くないやろ?俺は、それでいいと思うから」

と言われた。

そんな、まだ暖かかった季節のことを思い出す。元気にしているだろうか。

塾の行き帰りに寒くないようにと贈った上着を、肌寒くなってからはとりわけ気に入ってよく着ていると母が教えてくれた。

どんどん大きくなっていくが、私の中の弟はまだ手を繋いだり一緒に眠っていた頃のまま、私だけがその思い出の中に置き去りにされている。


仕事が辛くて辞めてしまいたいとか本当はもっと違うことがしたいといつも思いながら、そんなことは言い出せずに月日が過ぎていく。

あの時「そうか」と返した私の顔は、ぐしゃぐしゃに歪んでやしなかっただろうか。



「私な、ほんまは天文学者になりたかってん。楽しいねん、星のこととか考えんの」


母親以外の身内に初めて伝えたことを弟は少し驚いた顔で聞いていた。
天文学でも科学でも数学でも、何か新しいことを教えると目を輝かせていた少年、ずっと似ていないと思っていたけど、最近目元が似てきた青年、そちらはどうですか。


写真で目が赤く光る理由や√を教えたのは私だったけど、人に人が救えるという当たり前で信じがたい事実を教えてくれたのはお前だった。

私は、お前のことを考えている間は、赦されているような気がするよ。