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ネパール、標高1300メートルのコテージ、悪の誘惑よりもセンベイ布団の中を選ぶ

今から20年近く前、ネパールに行ったときの話。

ネパールの首都カトマンズから西に200キロの町ポカラ。
ヒマラヤトレッキングの拠点である。
トレッキングといかないまでも、ヒマラヤの峰々が見えるサランコットの丘までのハイキングコースもある。

とにかくヒマラヤの峰々が見たかった。
「サランコットの丘にいくとよい」
カトマンズのツアー会社で勧められた。

「サランコットに行くなら日帰りじゃなくて、コテージに泊まればよい」
と勧められて、丘の近くにあるコテージ宿泊付きの現地ツアーに申し込んだ。

カトマンズからポカラに到着した翌日、所定の旅行代理店の前に集合。
地元のネパール人ガイドに引率されてハイキング開始。

ハイキングと言っても、結構高低差はある。
どちらかえと言えば高校生ぐらいの頃の登山合宿に近いかな。

参加者は私と日本人大学生(男子)2名と私の合計3人。
地元ガイドとアシスタントの2名が付き添う。
途中ギブアップしそうになったら、荷物はアシスタントの若者が担いでくれるらしい。

山並みを楽しみながら、ゆるゆると丘を目指して歩く。
見事な風景が目の間に広がる(写真なし)。

途中、山向こうでパラグライダーをやっているのが見える。
3時間ぐらい歩きコテージに到着。

コテージと言うとしゃれているが、こじんまりとした山小屋。
ダイニングと部屋があり、部屋に案内される。

なぜか我等3名ひとまとめで同じ部屋に入れられる。

「私、女性なんですが」と話してみるが、他に部屋がないとのこと。
(多分ないわけでないだろうが、布団がなさそうだ)
仕方がないのであきらめて男子学生と同じ部屋で泊まることにした。
ベット3台しかない部屋で、3人でベットを割り振り荷物を置く。

日が暮れてくると日中が嘘のように寒くなってきた。
部屋には暖房もない。

寒くなったのでダイニングに向かう。
こちらは暖房はない物の、台所で火を使っているから寝室よりも暖かい。

私がネパールを訪れたのは1月。
さすがにネパールが日本の冬より暖かいと言っても、それなりに寒い。
しかも山の上(標高1000メートル以上)だから更に寒い。

ダイニングで座っていると、チャイを勧められてそのまま晩御飯に。

晩御飯はダルバート(ご飯と豆のカレーとスープ)のみ。
夕べポカラの町で泊まった時、宿の付近で食べた晩御飯も同じようなメニューだった覚えが・・・。
どうもあちらではご飯と味噌汁のような位置づけに近いようだ。

食事を終えて、雑談タイム。

しばらくおしゃべりをしていたが飽きてきたので、私たちは部屋に戻った。

部屋に戻ると寒いのといつでも眠れるように準備を整え布団に潜り込み、
ととりとめのない話をしていた。

お互い布団にもぐりこみ、天井を見ながら。
まるで病院の大部屋のようだ。

話をしていると、ドアをノックされた。

ネパール人の現地ガイドが部屋に入ってきて、声をかけた。

「よろしくない」お誘いである。

男子学生たちは好奇心から再びダイニングに向かった。

私は好奇心以前に布団から出るのが寒い。
トイレに行くのも面倒なぐらいだもんな。

断ると、チャイもあるよとガイドは話を続ける。

チャイは魅力的だが(体が冷えているので)、またトイレに行くのも難儀である。
丁重にお断りする。

ひとり残されたせんべい布団の中、小さく丸まって眠りについた。

そして翌朝、朝食を終えて宿を後にして丘に向かい歩き始めた。

歩いている途中、日本語で男子学生にお誘いの感想を聞く。

「布団の中で寝ていた方がよかった」とぼそりとつぶやいた。

そしてそれ以上は、多くは語らなかった。
「なるほどな」
誰もが無言でしばらく丘を目指して歩いた。

歩けども山は見えてこない。
ようやくおぼろげにかすんだ山が見えてきた。
尋ねると、この時期、かすむことが多いそうな。

それはともかく、おぼろげながらもヒマラヤの山々を見ることはできた。
いちおうの目的は達成だな。

今でもこの時のことを思い出すとき、
おぼろげに見えたヒマラヤの山並みよりも「せんべい布団と寒い部屋の出来事」を思い出す。

思った以上にインパクトがあったんだな、この夜の出来事は。

※注意:冒頭の地図はGoogleMapsより引用。


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