わたしの75セントとクラッカーおばあさん

目覚ましを10時にセットして寝付いたのに、起きたらまだ8時だった。今日は休みなのになぁ、と思って二度寝して、満足スッキリ、起きてもまだ8時45分だった。最近は本当に朝自然と早く起きる習慣がついてきた。日本にいたころの自分には考えられない。

いつものように朝ごはんにシリアルを食べ、だらだらパソコンを眺めて、気付いたら私より遅く起きたはずの隣の部屋の住人は外に出ていた。

やっと重い腰をあげ、昨日の夜から準備していた洗濯袋にさっきまで着ていたパジャマを放り込み、家から徒歩1分のコインランドリーへ。

平日朝のコインランドリーは人気もまばらで、店のおじさんに10ドルを1ドル札5枚と5ドル札1枚に両替してもらい、さらにそれを両替機で25セントコインに替えた。両替機は10ドル札も対応しているのだけれど、すべて25セントになって出てくるので、最近は店のおじさんおばさんにお札を崩してもらうということを覚えた。

去年の8月、強い日差しと街の強烈な匂いにまだ違和感を覚えていたころ、初めてコインランドリーで洗濯したときに近所のドラッグストアで買った洗剤はちまちま節約しつつ使っていたら、日本に帰るときになっても余っていそうで、今日はいつもの倍いれた。近所のスーパーで2.49ドルだった柔軟剤なんてもっと余っていて、どばどば投入した。

いつもColdモードで使っていたけれど、アメリカに来てとにかく服が片っ端からぼろぼろになっていって今買い替えに追われていることを思い、初めてDelicateモードで洗濯してみることにした。

一旦家に帰って、オレンジの皮むきをして、洗濯が終わるのを待つ。気付いたら11時半を過ぎていた。またコインランドリーに戻り、乾燥機にいれるか、それとも部屋干しするか迷い、乾燥機にいれることにした。

冬の間、乾燥機を使っていたからか、前述のようにとにかく服がぼろぼろになって、もう部屋干し党員に戻ろうと思っていたのだけど、春の変わりやすい天気の中で部屋干しなんてしていたら乾くまで何日もかかるだろうなぁと思ったのと、コインランドリーのおじさんへの感謝のチャリティの気分もあった。

洗濯ネットから下着を出すこともせず、乾燥機には25セントコインを3枚入れて、こちらも初めてDelicateモードにセットして、3人掛けベンチの端っこに座って待つ。ああ、Kindle持って来ればよかったな、でも家に帰るのも面倒だな、と思ってスマホでニュースを読む。25セントで8分間なので、合計24分。

するとベンチの反対側に座ってきた中国人のおばあちゃんが声をかけてきた。中国語ではなくちゃんと英語で話しかけてくれているのに、本当に、何を言っているのか全くわからなかったけど、とにかくクラッカーを食え、ということはわかった。ちょうど12時前で小腹もすいているし、と1枚もらって、おばさんと並んで食べる。そのあいだ、何をしゃべるでもなく、ただ二人で乾燥機を眺めながら、クラッカーを食べる。

するとおばあさんは"You eat more."という。もっと食えというその言葉に甘えてジップロックからもう一枚クラッカーをもらう。その間にも、おばあさんは何台も稼働させている乾燥機の様子を伺い、乾燥が終わったものを収納し、乾いていないものはまだ動いている乾燥機の中に放り込むなどしていた。

そうして戻って来たと思えば、"your cracker"という。クラッカー、全部お前のものだ、ということだ。いやいやそれは、と私が遠慮していると、家にたくさんあるからと言うので、その言葉に甘えてもらって帰ることにした。

おばあさんの乾燥機のうち1台が終了の合図を告げ、私の乾燥機もその仕事を終えた。

私は無造作に洗濯袋に自分のそれをつっこみ、おばあさんに"Have a nice day"と告げ、家に戻りながら、残ったクラッカーを食べた。

洗濯は全然乾いていなかった。ただ少し温まっただけだった。結局、部屋干しをする羽目になった。

だけれど、なんだか、私はとても満たされた気持ちで、おばあさんのクラッカーが入っていた、今は屑しか入っていないジップロックを捨てたのだった。


2016-04-08 ニューヨーク・クイーンズにて