心は雨

私の心にはいつも雨が降っている。ぽつぽつ、ぽつぽつ、とではなくて、ちくちく、ちくちく、と私の心を攻撃する雨だ。心に鎧をまとっている時、盾を構えている時は、容易に防げる。防戦一方だけれど、私の心は傷つかない。しかし、たまには鎧を脱ぎたくなる。盾を下ろしたくなる。身軽で自由なこの身で過ごしてみたくなる。そんな時でも雨は降っている。止むことは決してない。私の心を攻撃し続ける。

周りを見渡してみても、どこにも雨宿りする場所はない。広大なこの荒野、私はたった一人で立っている。草も木も枯れ、動物や人はいなくなった。逃げたのだ。心を攻撃する雨から逃げて、どこか遠くの楽園を目指している。私はここに残った。一人になるとわかっていながら、ここに残った。

かつてはここが楽園だった。雨が降ってもしのげる木があり、屋根があり、家があった。誰も雨に攻撃されることなく生きてきた。しかし私は気づいていたのだ。この雨はいつかすべてを腐らせ、土にかえし、人々を攻撃し始め、なにもかもがここからなくなる、と。雨はずっと叫んでいた。苦しい、苦しい、苦しい、と。私だけがその声を聞いていた。でも、なにもできなかった。苦しんでいる雨の心を癒す手だてがなく、ただただ、その叫びを聞いていた。

雨は今もずっと私の心を攻撃し続ける。私が弱り、朽ち果てるまで、この雨は続くだろう。きっとそれが私ができる唯一の罪滅ぼしなのだ。雨の心の痛みをどうすることもできなかった。今も叫んでいる。叫びながら私の心を攻撃する。私も心が痛い。ここから逃げ出したいと思う。私も楽園を目指したい、と。でも私は本当は知っている。楽園を目指した彼らが今、どうなっているのか。

自分の心しか見ることのできない、感じることのできない、狭い視野、鈍感な感情を持ち合わせた醜い人間たちは、とうの昔に朽ち果てた。雨はすべてを見透かしているのだ。私の心を少しずつ、ちくちくと攻撃するのもまた、私の心を見透かしているからだ。雨には誰にもかなわない。助けることも、倒すこともできない。

本当は人間よりもさらに愚かなのは、雨なのかもしれない。心が痛いからといって、叫び続け、壊し続けた先になにが待っているだろう。なにも、誰もそして、待っていない。雨以外、すべてがここから消滅する。雨、君は本当にひとりぼっちになってしまうよ。私もきっともうすぐここからいなくなる。心がチカチカ点滅してきたから、もうそろそろだと思う。まぶたが重い。目をほんの少しだけ開けるのが精いっぱいだ。今も私の心には雨が降り続ける。私も君も愚かで、お互いこのまここで……。

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