金、力、地位、名誉

川崎鷹也の曲に「お金もないし力もないし地位も名誉もないけど、君のこと守りたいんだ〜」みたいな曲があるんだけど、初めて聞いた時は、「は?」と思っていた。金も力も地位も名誉もなくて人を守れるわけがあるか。そう思い続け、スカパーのヒットチャートランキングでどんどん上がって行くのを見て、十数回聞き、それでもまだ、「は?」と思うことが多かった。しかし、声の良さとメロディーラインの良さは無視することができなかった。そのうち川崎鷹也はテレビの歌番組に出るようになり、「ふむ……やはり良い声だな……」などと批評家ぶっているうちに、歌詞の内容はどうでもよくなっていった。そして、テレビの出演回数が増えていくにつれて、驚くべきことに、たまに自分でもメロディーを口ずさむようになった。

で、昨日、フジテレビの生放送の歌番組に川崎鷹也が出ていて、例の曲を歌っていたのだが、めちゃくちゃ上手くなっていた。テレビに出始めてから、どんどん腕を上げている……。アコースティックギターを弾きながら、歌い、後ろの演奏はない。それで一曲聴き入らせる、その表現力。私はすっかり鷹也に魅了されていた。なにより、そう何度も「金も力も地位も名誉もないけど君のことを守る」と言われると、この男の気概は本物だ……、と思えてくるのだ。この人の言うことは多分、本当だ。そして、金と力と地位と名誉では補えない何かが、本当に大切な何かが、きっとあるのだと思う。鷹也は私にそれを教えてくれた。とても勉強になる曲だ。資本主義の中でどんなに成功しようとも、私たちは幸せになれない可能性がある。

資本主義といえば、20年前に偶然観た、北京ヴァイオリンという中国映画が凄く良かった。中国の貧しい、血の繋がりのない父子がいて、十歳くらいの息子は類まれなるヴァイオリンの才能があるんだけど、お金がないもんだからとてもレッスンなどに通わせられる状況にない。のだけど、なんやかんやの親子の愛情や、周囲の協力もあり、レッスンに通い、腕を磨き、ライバルなんかもでき、コンクールに出場することになる。が、コンクールの日取りが父の出稼ぎだかなんだかの旅立ちの日と重なってしまい、少年はコンクールに行くことになっていたのだが、彼は自らの意思によって会場から飛び出し、亡き母親の忘れ形見であるヴァイオリン片手に駅舎を必死で駆け抜け、雑踏の中から父の姿を見つける。そして、二人は人混みの中で互いに向き合い、息子はコンクールで弾くはずだったヴァイオリン協奏曲を弾き、映画の効果としてオーケストラの音が鳴り合わさり、ヴァイオリン協奏曲は親子二人の世界の中で鳴り響く。息子が涙を堪えながらに弾くヴァイオリンは絶唱のようで、嗚咽が漏れるほどに美しかった。

こんな美しさが、こういう貧しさがゆえの絆と美しさのようなものが、金と力と地位と名誉をもってして手に入るのだろうか?私にはなにもわからない。貧しい上に絆もなく、不幸な親子もいるだろう。裕福な上に絆も深く、幸福な親子もいるだろう。だけど、お金も力も地位も名誉もなくとも幸せになれる可能性がある。これは紛れもない事実なのだ。こんな古く懐かしい中国の良さ、みたいなものは今の中国にもまだ存在するのだろうか。ファーウェイの携帯片手に。私にはなにもわからない……。


金、力、地位、名誉






HAPPY LUCKY LOVE SMILE PEACE DREAM !! (アンミカさんが寝る前に唱えている言葉)💞