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【性教育ってどうして大事?】性行動を分析している教授に聞いてみました

性に関する情報はネットや本など自分で調べないと、なかなか十分に得られないですよね。さらに、得た情報が正しいのかも分からないというリスクもあります。

そこで今回は性行動を研究している武蔵大学の林雄亮教授に、「性への向き合い方とこれからの性教育」についてインタビューさせて頂きました。


武蔵大学社会学部 林雄亮教授

こんにちは、今日はインタビューよろしくお願いします。性の話と言えば、テレビやネットで「最近は性に対して消極的な若者、いわゆる草食系が増えた」と耳にしますが、本当に“草食系”は増えているのでしょうか?

確かにそういう話はよく聞きますよね。
しかし、一概に「若者の草食化が進んだ」と言ってしまうのは間違いです。

確かに2000年くらいから2010年代を通じて、キス経験率や性交経験率など、性的なことに対する関心がすごく低下してきていているというデータはあります。その一方で性的にアクティブな若い子たちっていうのはずっと存在し続けていて、むしろ中学生くらいのデート経験率とかは昔に比べてちょっと上がっているんですよね。
 
そのため「性に対する意識が分断化している」と言うのが正しいと思います。
 
それは意外でした。ただ、やはり多くの若い人たちの間で性に対する関心が低くなってきているんですね。
 
そうですね。しかし私の肌感覚だと性に対する関心が低くなったというより、性に対するイメージが悪くなったという印象が強いです。
 
特に若い女性の間では、嫌悪感に近いようなネガティブなイメージをかなり強く持っている人が増えていて、これが性行動を抑制する原因にもなっていると思います。
 
もともと1980年代とか1990年代とかって、年齢とともに性的なものに関心を持つのは当たり前だった時代なんですよ。そうでなくなったのは、2000年代に入ってから。
 
昔は同調圧力が強かったので「なんだお前、そんなことに関心もなくて何か変じゃないのか」みたいに思われたのかもしれないですけど、今は「どっちでもいいんじゃない?」となっているようです。
 
そのため性に対する「分断化」がより進んでいるんですよ。
 
確かに環境の変化と一緒に意識も変わったかもしれませんね。
そういった状況でどのような性教育をしていけばいいんでしょうか?
 
少し難しい話ですね。というのも、先ほどもお話ししたように今の若い子達の間では性に対する「分断化」が起きているためです。
 
全体的に草食化が進んだり、活発化が進んだりしていれば教育もしやすいんですけど……。こうした点も考慮した上で、学校が様々な子に対して行う性教育として最も適切なのは、「ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンス」に定められているような包括的性教育だと思います。
 
具体的にはまず「人を傷つけることはしちゃダメ」など、きちんとした人権意識で基礎的な知識の土台を作るのが大切です。その土台が出来上がったうえで、体の違いや妊娠についての知識の教育だけでなく、性交、避妊、ジェンダー、人権、多様性、人間関係、性暴力の防止なども含めた包括的性教育を行うのがよいでしょう。


現在の保健体育の授業では「男女の心の違い」とか「異性と親しくなりたいという欲求が思春期には出てきますよ」など曖昧なものが多いんですが、科学的な根拠や研究結果を使用して包み隠さずにしっかり教えていくことの方が重要なんだろうなと思いますね。
 
包括的性教育が重要なんですね。一方で、世の中には「性教育をしない方がいい」と思う人もいるのではないでしょうか?
 
実は「性教育をしない方がいい」と考えてる人って、すごく少数派なんですよ。「何らかの性教育はやった方がいいだろう」と思っている人が大多数なんですが、その振れ幅が大きいからそう見えるんですよね。
 
いずれにしても、多くの人は「性犯罪の被害を受けたりとか加害者にならないっていう予防的措置として性教育をやった方が良い」と思っています。
 
望まない妊娠とか性感染症の話からデートDVの話とかもそうなんですけど、割と一般的に認知されているような被害よりもう少し手前の部分。人間関係や性的マイノリティに対する考え方など、そういう人権的な知識を含めた性教育が行えるといいですね。
 
なるほど、確かに犯罪防止の面でも性教育は大切ですよね。
 
そうですね。肌感覚ですが、最近では性犯罪に関するニュースの報道が増えていたり大々的にクローズアップされることが多い気がしませんか?
 
ニュースだけ見ていると「性犯罪の数が増えたのかな?」と思うのですが、実は強制性交だったり強制わいせつの件数はゆるやかに減少しています。(参照:男女共同参画白書 令和3年版)
 
それなのに報道が増えているということは、世の中が性に対して関心を持っているということ。関心を持つ人が増えれば性教育の重要性も増すはずです。

また性犯罪に関していえば、誰も被害者になりたい人はいないし加害者になりたい人もいないわけです。わざと「犯罪を起こしてやろう」っていう人を防ぐのは難しいですが、ちょっとしたデートDVとかは小さいころからの正しい性教育によって防げると思います。こうした意味でも「体の違い」だけを教える現在の性教育より、「人間関係や人権」についても学べる包括的な性教育を行うのが良いのではないでしょうか。
 
そうですよね。実際に今って性に対する不安があっても、恥ずかしくて身近な人に相談できない場合も多いと思います。
 
実は身近な人に相談できなくても、性に関する相談の窓口自体はいっぱいあるんですよね。保健室の先生、NPO、学生相談室や自治体など、無料で悩みを相談できる場所が身近にあるはずです。

ただ、そういった窓口があることを知っている子は少ないのかもしれません。そのため課題点は窓口を増やすことではなく、窓口があることをどうやって知らせるかですよね。
 
知らせ方としてもっとも良いのが教育だと思います。学校の授業の一環で「こういうことで困ったら、こうするんだよ」みたいなそういう1コマがあっても良いですよね。
 
確かに授業でなら、多くの子に伝わりますよね。性の相談と言えば、性に関して興味があり過ぎたり無さ過ぎたりすることでコンプレックスを抱くこともあると思うのですが、これって自然なことなのでしょうか?
 
どうなんでしょうか。
私はお医者さんではないので、正常か異常かどうかは正直分かりません。
 
しかし日本全国で大規模な統計的調査をしている中で「興味があり過ぎる」とか「無さすぎる」という人ももちろんいますが、だからと言って非常に特殊な性行動を経験していることはそんなにありません。
 
もしかすると「興味があり過ぎる」、「興味がなさすぎる」ってことが、思春期など一時的なものかもしれないし、その興味が「病気かな?」と思うんだったら、窓口とかに相談してもよいと思いますよ。

今回インタビューをしたのは:林 雄亮 教授
武蔵大学社会学部教授。著書に『若者の性の現在地』(勁草書房、2022年)、『青少年の性行動はどう変わってきたか』(ミネルヴァ書房、2018年)などがある。
 
 


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