シン・エヴァンゲリオン劇場版で初恋にケリを付けよう

※本稿後半には『シン・エヴァンゲリオン劇場版』のネタバレを含みます。


はじめに

 自分は『新世紀エヴァンゲリオン』の放送終了後に生まれており、『序』や『破』はDVDで観て、友人に誘われて『Q』を高校時代に観に行ったレベルなので、他のnote記事を上げられている方ほど、『エヴァ』というものに人生を握られたとかそういうことではない。

 一応新劇場版は観ているし、旧劇場版など周辺情報も把握しているのだが、『エヴァ』に対する熱狂というのはどこか「歴史」の一ページであって、自分のことではないと認識している。自分のことのように熱狂を体感しているのは、『進撃の巨人』や『冴えない彼女の育てかた』あたりだが、それも数年待たされている、とかそういうことじゃないので、比べ物にはならないのだと思う。

 しかし、人生を左右されたという意味では、『エヴァ』という作品は自分の心に深く突き刺さっている。というのも、初恋――中学時代にできた初めての彼女が、彼氏よりも渚カヲルの方が好きと公言する人だったからだ。

 では、少し初恋について触れようと思うが、ちょうどここに初恋に関して書いたエッセイがある。これは「カクヨム」のコンテスト用に書いたのだが、要項を読み間違えていて没になったものだ。なので、ちょうどここで供養することとしよう。


初恋のはなし

 初恋、という言葉がある。

 初めてした恋のこと、とストレートな言葉であるが、これを自分の記憶に当てはめてみると中学時代に辿り着く。

 厳密にいえば、幼稚園とか小学校のときにも「○○ちゃん、好き!」みたいな気持ちがなかったわけでもないのだが、それはlikeとloveの違いがまだ分かっていなかった子ども心ということで。

 ともあれ、中学二年の夏、所属していた吹奏楽部の女の子のことが「好き」と認識したのが恐らく初恋であった。

 その恋心とやらを認識してからの行動は早く、映画デートに行って、告白して付き合うことになった。まぁ、一年以上同じ部活だったわけなのでお互いにどういう人間かは把握していたはずで、そこもすんなり行ったのであろう。お互いにオタクということもあり、共通言語もあったわけなので話も弾んだ……ように自分は認識している。

 ただ、その関係というのも、しばらくして破綻が訪れる。中学生の初恋だ、そんなものどうせ終わりが来るに決まっている、と今だったら思うのだが、その終わりというのが唐突だった。

 春休み中の部活の昼休み、唐突に呼び出されて行ってみれば、「私、好きな人ができたの」という言葉。

 そもそも部活内でいちゃつくとかそういうこともしていなかったので、呼ばれたときにも疑念はあったのだが、そこで出された言葉は「俺のことが好きじゃなかったんかい!」という叫びにも似た気持ちを産む。

 しかし、どう答えていいのか分からない自分は「そっか……」くらいしか言えなかったと思う。正直、ここは覚えていない。ただ意気消沈していたことだけは覚えている。

 しばらくして、元カノとなった女の子と、そのクラスメート男子が一緒に歩いて帰っている姿を目撃する。聞いてみれば、ちょっと前に告白して付き合ったのだとか。そうか、それはめでたい。

 だが、何故俺と付き合っているときには「一緒に帰る姿を見られたら恥ずかしいから、土曜日の部活のあとくらいにしよ!」とか言っていたのに、今は一緒に帰っているのだ。

 田舎の中学生の噂話といえば恋バナしかないのだから(偏見)、彼女らの噂話というのも自然と自分の耳に入ってくる。その内容はどれも自分と彼女が付き合っていたときにはしなかったし、させてもらえなかったことだった。

 その後、とある事件に巻き込まれて、自分は半月入院することとなる。顎の骨が文字通り割れて、手術をしなくてはならなくなったのだ。

 吹奏楽部の部員が、大会も近い中学三年生の初夏に半月いきなり入院することになったのだから、彼女は部活の友だちと一緒にお見舞いに来た。ここまではありがちだよな、と思いつつ、友だちがいなくなった後、彼女と俺は病室内で一対一となる。

 なにかあるのか、と思えば、彼女から「ごめんね」という言葉が。

 恐らく、いきなり振ったことに対しての「ごめんね」だったのだろう。

 それでも、こっちは顎の骨が折れて、歯も何本か失われているのだ。なんなら突然の入院に気が動転している。そんな中でいきなり謝られても心の準備は出来ていないし、どう答えていいのか分からない!

 確かここでも「いいよ」くらいの素っ気ない答えをしたと思う。正直、覚えていない。

 しかし、この答えが病室の外で聞いていたであろう「友だち」曰く「あんな言葉はよくなかったよ!」と言われ、退院後部活に戻ってみれば彼女の友だちたちからは無視ないし執拗な嫌がらせを受ける身となってしまった。

 整理してみよう。

 初恋が実って、同じ部活の女の子と交際がスタート。

 ただ、恥ずかしがりやな彼女なので、できる限り彼女の意に沿いつつ、デートを重ねていた。

 しかし、部活中にいきなり「好きな人ができた」と振られてしまう。

 それは彼女のクラスメートで、何度も放課後に一緒に帰宅する姿を目撃した。

 そして入院中、恐らく振ったことを「ごめんね」と謝ってきた。

 だが退院後、対応の悪さを彼女の友だちから責められ、部活内で孤立する、という流れだ。

 ……今思い出してみると、あんまりではないだろうか。どこで選択肢をミスったのか、神様に問いただしたい。フラグはどこだ。

 この後、高校に進学してからまた彼女はできているのだが、このときのトラウマがあってか、いちいち「○○していい?」と尋ねてから手をつないだり、なんなりしたりするようになった。いきなりしても嫌われるからね、仕方ないね。

 だがそれはムードもへったくれもない。高校最初の彼女にはそういう理由で振られている。

 それにこのときと同じく「恥ずかしいから誰にも言わないでね! 私も言わないから」と高校三年生のときに付き合った彼女にも言われたのだが、後々聞いた話によると余裕で友だちに付き合っただの、何しただのと話していたらしい。

 このことから結論付けるに、彼女だからってなんでも信用していいわけではありません、ということである。

 だとしても、どうせ彼女ができたら、なんでも信用してしまうのである。

 ……いや、できる予兆はなにもありませんが。

『シンエヴァ』でケリを付ける

 さて、ここまで読んでいただいた文で、私の初恋についてはなんとなくご存じいただけたと思う。そのまま本稿を読み終わるまでは覚えて頂いて、ページを閉じたと同時に記憶を抹消してほしい。俺がこっぱずかしいからだ。

 ここまで書いていた初彼女だが、オタクと文中にあった通り、彼氏よりも渚カヲルが好きと公言する女の子だった。推しは石田彰。初デートも石田彰が出るから『劇場版 銀魂』。口を開けばカヲルくんかアスラン・ザラの話で、観ろ観ろと言われていた。

 といっても中学生に旧作アニメは観づらいもので、レンタルビデオに手を出す前に破局を迎えている。別れた理由は前述のとおり。正直、喉の奥にずっとその骨が詰まっているのだが、その骨の一つが「渚カヲル」という存在だった。

 話を戻すと、『Q』を観に行ったときに初めて渚カヲルと対峙した私は、「遂に来たか……」とかつての恋敵と対峙する気分になっていた。もちろん初彼女が私の次に付き合ったのは渚カヲルでも石田彰でもない。クラスメートの爽やか男子で、本ばかり読んでいたヒョロい自分とは比べ物にならない優良物件である。しかし、心のどこかで自分は渚カヲルに負い目を感じていたのだ。

 『Q』でカヲルはシンジくんからDSSチョーカーを引き受け、それによって死に至る。正直なところ、「遂に死んだかやったぁ!」という気分であった。ろくでもない。でも、初彼女を盗った憎き恋敵なのである。そう思うのも致し方ない。

 しかし、私が喜ぶのと同時に、カヲルとともにエヴァを動かしていたシンジくんは、親友を失ったと鬱になる。そりゃ、親友を失えばそうなる。だが、翻って言えば、自分の恋敵が死んで鬱になっているんだから、シンジくんは私の初彼女のような気持ちになっているのでは……と思ってしまったのだ。

 そんな何と言えばいいのか分からない、初彼女のカップルの一幕を見せられて、その関係にどう決着が付くのか分からないまま八年待たされた。

 しかし、その八年の間で自分が『エヴァ』にどういう想いを抱いていたかはよく覚えていない。偉大な作品だからとか、なんとなくの気持ちで初日のチケットを取った。ネタバレされたくないし……とか消極的な理由だったが、見終えた今ならその気持ちがわかる。

 つまり、自分が『シンエヴァ』を観に行った気持ちとして正しいのは、「初彼女が私を捨てて付き合った男が死んだので、その後どうなったのか見届ける」、そして「自分の初恋にケリをつける」というだったのだ。

 さて、そのケリはどうなったのか。シンジくんは鬱のまま登場し、第三村に身を寄せたものの、何も口にせず、アヤナミは村に親しみ、アスカはケンスケと仲良くなり、ミサトの子どもももう大きくなった。そこからの展開は……中略する。

 ともあれ、ラストシーン。シンジくんはマリと駅から走りだし、ホームにはカヲルとレイらしき姿が見えた。

 自分はこのシーンを観て、戸惑った。正直なところ、シンジくんはアスカかレイを選択すると思っていたのが一つ。そして、カヲルがレイを選んだことがもう一つだ。

 話を正そう。カヲルが初彼女の彼氏だったとするなら、シンジくんが私の初彼女である。なら、双方が別の人を選んだというのに、私はまだ『エヴァ』に初恋の幻影を見続けていたのか? もう十一年経っているのに? まだ初恋にケリを付けられていなかったのか、という気持ちが頭の中を過ぎったのだ。

 そうか、自分はまだケリを付けられていなかったのか、だからあんなエッセイを書いたのだ。そう腑に落ちて、もう初恋を振り返ることは止めようと思い至ったのが、昨夜のことである。

 ということで、ここまで駄文で申し訳なかったが、『シンエヴァ』を観たことで自分の初恋にケリは付けられた。これからはフラットな気持ちで、『エヴァ』という作品に接することができる、そう感じている。

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