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みどりの窓口を廃止した方が良い理由

ここ数年で急速にみどりの窓口が減っている。そして、世間一般の意見としては「窓口を減らすな!」、そしてJR東日本の喜勢新社長が「窓口削減の凍結」を発表した際は「社長よくやった!」が鉄道ファン・非鉄道ファン双方ともにそういった意見が大半だった。大半がこんな意見な中で大変言いづらいが、交通機関で働いた経験の私の意見は「え、廃止やめちゃうの?それは違うのでは」である。

なぜそんなことになるのか。まずみどりの窓口の係員の仕事というものは、マルス端末が触れることで鉄道ファン的には面白いという側面もあるが、基本的には駅員の他の仕事に比べて「やりたくない」部類の仕事という感覚を持っている人が多いなと感じた。なぜみどりの窓口の仕事をやりたくないのか。
それは「ミスをしてしまうとリカバリーをするのがかなり大変」という場合が多いからである。
例えば普通乗車券を払い戻しをする際は、手数料は220円なので、手数料220円のボタンを押してマルスに投入すれば手数料が差し引かれて戻ってくる。しかし、災害等の理由で払い戻す場合は手数料が不要なので、手数料0円のボタンもある。これを押し間違えてマルスに投入してしまうと…。
終了である。無慈悲にも誤った金額の払戻額が機械から出てくる。投入した瞬間に気づいても遅い。乗客に戻す金額は正しい金額を返せたとしても、手元には金額の誤差が生じる。大抵、こういった機械のちょっとした操作ミスに関しては「取消」のような項目でやり直せるが、マルスにはそれができないことが多い(特に払い戻し)。取り消せないならどうするかというと、最後に一日の売上を締め切った後に、売り上げの誤差が出たのでと報告書を書いて、売り上げを訂正する書類を書いて、上司に報告…。そんなのやってられないので、特に払い戻しの際は入念な注意のもとで払い戻すか、POSという機械を使って払い戻すと時間は倍以上かかるものの、取消の操作ができるのでそちらで行うという形になっていた。

こんなこともあった。「大人の休日倶楽部パス」というフリーパスがある。前日までの購入で4日間乗り放題になるフリーパスだが、使用開始前に1回まで使用開始日の変更ができる。使用開始当日になって、「明日から使用開始に変更したい」という方が現れた。そのくらいはお安い御用なので、明日に変更した切符を作り、お渡しする。その後、明日使う列車の指定席も取れるので取ろうとすると、満席で取れず。他の時間にするかと思ったら、「それなら今日から使用開始でいい。元に戻してくれ」とのこと。これはまずい。
「大人の休日俱楽部パス」は前日までの購入なので、当日から使用開始というものは発券できない。窓口だから裏コマンドで出せるという機能もない。乗客が最初に持ってきたものはマルスに投入して変更の操作がされたのでもう使えない。どうにもならないのでどうにもならないと説明して理解していただくしかないが、乗客は納得しない。お手上げなので上司に指示をあおぐと、最後の手段、「この切符は明日からとなっていますが、係員の誤りなので本日から有効です」と書かれた書類を添付して使ってもらうという結果になった。この対応をするのに時間がかかり、精神力も使う上に、窓口の列は伸びていき、後ろで待っている乗客のストレスも溜まっていき係員への当たりも強くなる。負のスパイラルだ。
通常の対応で出せる切符を売っていくだけだったら全然良い。しかし、このような「時間のかかる対応」に当たってしまったときのダメージが大きすぎる。それもみどりの窓口をやりたくない理由の一つだろう。

そもそも、飛行機や高速バスなどは乗客自らがネット予約をして乗車券を購入するのが基本だ。乗客が自ら操作して購入すれば、日付や時間などの誤りがあったとしても、自分で操作した結果なので、自分のミスだと諦めがつく。しかし、みどりの窓口だと、乗客が申し込みをして、係員というワンクッションを挟んで購入という形になる。係員を挟むので、より乗客にとって良い提案ができる可能性があるというメリットもあるが、それを上回る誤発行やそれに伴う苦情のリスクがある。切符の日付や時間の間違いというのはよくあるパターンだ。苦情を防止するために、必ず乗客に申込用紙を記入してもらい、それを記録に残すというのを基本的には行っているが、乗客が申込用紙を書き間違えていたとしても、一旦苦情が駅に来る。そうすると申込用紙の束をひっくり返して責任の所在を調査する。たまに係員が打ち間違えているという場合もある。そうしたらさらに大変なことに。全て乗客のセルフで完結していればこんな対応も必要ない。

窓口推進派の意見としては、「窓口でしかできないことが多すぎる」とのことだが、果たしてそうだろうか。一番話題に上がるのは、最長片道切符のような複雑な経路の乗車券、補充券だろう。しかし、これは制度上出せるというだけで、もうこういった補充券の時代は終わりだと思っている。最長片道切符の申し込みがあると、数日間かかりますと一旦お預かりして、ルートの距離を足して運賃を調べて、間違いがないか入念にチェックして、やっと発行となる。最長片道切符はロマンのある切符ではあるものの、発行までにどれだけの人の時間外労働と人件費が発生しているのかといつも思う。この対策に、最長片道切符だけは一定の需要があるのでJRがルートを定めて特別企画乗車券としてボタン一つで発行できるようにして、他は補充券となる乗車券は廃止、機械で出せるものしか乗車券は出せません、複雑な経路を乗りたい場合は機械で出せるように区切って購入してください。または、どうしても欲しい場合はそれにかかる人件費に相当する額の高額な手数料の徴収。これで何も問題ないだろうとよく思う。ちなみに私が勤務していた駅の窓口で出札補充券の乗車券を販売したことは3年半勤めてゼロである。一度だけ、鉄道ファンではなさそうな乗客に、やや複雑な経路を申し込まれたことがあったが、「この切符は手書きの切符で発行に数日かかります。途中で分割すれば機械ですぐに出せます。」と説明したところ、納得されて分割した乗車券を購入していただいた。複雑な経路の乗車券というのは鉄道ファンの趣味で買いたいという需要が99.9%で、どうしてもそうしなくてはいけないという場面はほぼないだろう。

他には「団体乗車券」。これは特に学校の遠足などで一定の需要があり、窓口が廃止されると痛い例だろう。しかしこれも、以前勤めていた私鉄の駅では改札に申込用紙があり受付・発行を行っていたので、みどりの窓口でないと必ずできないものではない。いずれ改札で発行するなどの対策がされるのではないかと思ったら、2023年、団体乗車券のネット予約・郵送受取サービスが開始。予想の斜め上を行く便利さになった。

次に「障害者割引」。これも近距離のものであれば従来から券売機で小児用切符で代用が可能という扱いをしているし、長距離のものについても2024年2月からえきねっとで購入が可能になった。それに伴い、車いす対応座席の購入も可能になった。

さらには「払い戻し」。そこそこの頻度で発生する事案の割に、窓口でないと不可能なので不便とよく言われていた。ただ、そもそも切符をえきねっとで予約し、乗車する直前に受け取るようにすれば、ネット上で払い戻しが可能で窓口に行く必要はない。この扱いは何年も前から変わらず行われているので、私も日程の変更などは多々あるものの、わざわざ窓口で変更や払い戻しを行うことはほぼない。しかしついに、2024年4月、指定席券売機が切符の払い戻しにも対応した。

もう一つ「株主優待」。従来は割引証を回収して窓口で発行だったが、2020年より指定席券売機で利用可能となった。似たもので、「ジパング割引」や「学割」があるが、こちらに関してはJR東一社の努力だけで何とかなるものではないので対応が難しいものの、窓口を使わずに購入できるよう、鋭意対応中であろう。

そして最後に「通学定期」。これも、駅によって対応が異なるが、そもそもみどりの窓口ではなく係員が券売機を操作することによって購入が可能である。通学定期のシーズンはゴールデンウィークの1ヶ月前と重なり窓口が混雑するので、要員を配置して券売機でも購入できるような対応をしている。それがさらに、2024年4月より、通学証明書の確認が1年に1度ではなく、入学時のみ1回に変更された。これにより、係員が対応する回数は1/3になり、かなりの混雑の解消が見込めるだろう。また、そもそもこの通学定期の購入の混雑も、入学式がある特定の日に大幅に混雑し、少し日にちをずらせば全く混雑していない。数日間購入をずらして少しのあいだは通常の運賃で通学し、4月10日頃に購入するとか、3月中に購入(ただし通学証明書が入学式前はもらえない場合もあるが)すれば並ぶ必要もない。わざわざ混む時期に並んでいる人は、別に嫌々並んでいるのではなく、入学式というイベントの流れの一環で、一つの思い出として、並ぶ時間に今後の学生生活への思いを親子で語りながら楽しく並んでいるのではないかと思う。

この、「別に嫌々並んでいるのではなくてイベントとして並んでいる」という観点はあまり語られないが、実際はそういう感覚の人が今となっては多いのではないかと感じる。ディズニーランドのアトラクションも、並ばない方が良いけど、並ぶ時間も含めてディズニーランドで思い出だから、「なんでこんなに混んでいるんだ」と苦情は言わないだろう。鉄道ファンは鉄道に乗車する機会が異様に多いので感覚が狂っているが、一般的な家庭では新幹線に乗る回数は年に1回あるかどうかである。私の両親も鉄道ファンではないので、高2になって自分でお金を払って新幹線に乗るまで、一度も家族旅行などで新幹線に乗ったことはなかった。そんなものである。年に一度あるかないかの新幹線や特急に乗るというイベント。そのために滅多に使わないであろうえきねっとなどのネット予約を使いこなせというのは確かに酷だろう。ただ、そういった方々は、並んで切符を買うということにそんなに不満は抱いていないのだろうというのが私の考えだ。その列に、並ぶことに不満を覚える鉄道ファンなどが混ざってしまうのでややこしいことになってしまう。このマルス端末で発券した券が欲しいとか、そういった趣味で窓口を利用したいという需要も分かるが、そういった趣味で窓口を利用したい場合は列に文句を言う筋合いはないだろう。

今後みどりの窓口はどうあるべきか。高速バスや航空券は電話予約や窓口購入も可能だが、大抵は割引が適用されずに割高な料金となる場合が多い。やはり、そういった係員を介して購入できる仕組み自体は必要だ。しかし、「窓口でしか買えないものを買う」場所である必要はない。むしろ、「ネットや券売機の方が買えるものが多いが、操作に不安がある方向けに、最小限の商品のみを販売する」方が窓口の理想の形ではないか。以前は高速バスのチケットやディズニーランドのチケットもみどりの窓口で買えたがここ数年で廃止になっている。取り扱う商品を徐々に縮小する流れは今後も続くだろう。

ここ数年において、上記で例を挙げた「従来は窓口でしかできなかったものがネットなどで購入可能になる」ことが急速に進んでいる。それにより窓口の利用者が減れば窓口の削減が可能になる。みどりの窓口の削減は一時凍結となっているものの、ネット予約を便利にすることは窓口を削減しなくてもできるので次々と新たな施策が登場するだろう。一部、使いづらいと言われている「えきねっと」も、使いづらいと言われていることは承知だろうからリニューアルも検討しているだろう。今後の窓口のあり方の変化に期待である。

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