専門委員会の活動について 指導委員会の役割と 目指すもの


全日本弓道連盟内に新たに指導委員会が設置されました。変化する社会状況の中で 弓道界はどうあるべきか一様々な視点から検討を進めます。加藤出全日本弓道連盟会長と岡崎廣志指導委員会委員長が、その役割と活動について語り合いました。

全日本弓道連盟会長
加藤 出
指導委員会
岡崎 廣志

指導委員会設置の目的は何でしょうか。



岡崎 3年に及んだ新型コロナ禍 の中、一般社会の通念、常識も変 わってきました。パワハラ、セク ハラ行為の徹底した防止はもちろ ん、LGBTQへの理解・配慮等、 個々人の人格を認め多様性を重ん じることが求められています。全 日本弓道連盟としてもコンプライ アンスを徹底し、これまでの慣例 にとらわれず様々な案件を見直し ていくことが大切です。弓道に関 わることを多方面から見直し、提言することが指導委員会の活動の柱となります。

加藤 社会通念はどんどん変わってきています。弓道界も守るべき 伝統の中で、時代に応じた変革を なさないといけません。全日本弓 道連盟創立80周年に向けた中期計画が始動する中、指導委員会の皆 様には弓道界の将来を見据えた提 言をお願いいたします。弓道振興 の先々を考えたご提案に期待しています。委員会での活発な意見交 換を経て、連盟の会員の皆様が不 安なく稽古に励め、長く弓を続け られるためのバックアップをしていただきたいと思っています。

岡崎 長年多くの大会を見てきましたが、ここ最近、競技者全体のレベルが下がっていると感じています。コロナ禍で思うように進まなかった事があると思いま すが、私としては、自らが考えて 理想の射に近づくという思いが薄れていると感じます。講師、指導 者の意見に追従するあまり、個性を消してしまった弓が多いと思う のです。初心者は先ず、指導者の 教えの通りで良いのですが、有段者のレベルでも感じることが多くなりました。

加藤 この人はどんな弓を引くのだろうか、という期待があって見 ますが、あたりさわりがないというか皆同じに見えてしまうことがありますね。

岡崎 弓に自己主張がないのです。 レベルの高い大会では、見る者に訴えるものがないといけないのです。そつなくまとまっているが見る人に感動を与えない。昔の話はよくありませんが、各選手のスタ イル、個性が強くありました。現在の選手は上手です、が皆同じように見えてしまう。しかしこれは、選手だけに問題があるのではありません。「こう引けば評価される」「こうすれば 文句を言われない」という考えを芽生えさせてしまったのです。
 そうさせてしまったのは、我々、指導者の責任でもあるのです。指導者は自分の教えを伝えたい、その気持ちは大切ですが、学ぶ側には、その人なりの個性があり、体格もばらばらです。あるレベルに達した方なら、指導の中から、自分は こうしてみようと考えるべきなの です。しかし、昇段審査があり、教えられた通りに弓を引くことが求められてしまう。そうしないと受からないという現実的な問題もあります。

 画一的な弓になってしまうこと の要因の一つには、現在の弓道界 の育成システムにも問題があると 思うので、それを探っていく必要 もあるかと考えています。

加藤 講習会の指導方法も、「こうしなさい」という指導者からの押し付けではなく、「こうしたらいかがでしょう」「こういう方法もある」といった双方向性なものに変えていく必要があるかもしれ ません。

岡崎 決め付けない、押し付けないことが大切です。練習生が自立し自主性を持って弓道に臨めるよ うな指導でしょうか。どの武道、 スポーツでも上からの一方的な指導はなくなりました。指導の上で、 選手自らに考えさせ、自分なりに 改善していくということが一般的です。弓道界に於いてもそれが求 められています。
 講師の先生方も、受講者・練習 生が自分たちの教えに従っている かどうかで判断するのではなく、 その弓が素晴らしいか素晴らしく ないかで評価するようになってい ただきたい。そのためには自信と 自覚を持って、自分の意見を発言 できるようになっていただきたい。
 これまで培われてきた指導方法、 講習会の在り方に修正すべき点は ないか、時代に即したものになっ ているのか、弓道を学ぶ方のため になっているのか等、今後検討していきたいと思っています。
 現在弓道を愛好している方は大 きく分けて、健康維持のための弓道、楽しめる弓道、スポーツとしての弓道、高みを目指す武道としての弓道の4つの側面があると思います。すべての方に対して向き合うのが全日本弓道連盟の役割です。

 但し、多様な愛好者に対しての指導システムが、現在の状況に合わ なくなってきたのではないでしょ うか。弓道に興味を持って始める 方の多くが体験教室に参加します。 そこで、先ず入退場の厳しい所作 等を学ばせようとすることに重要性はあるのか、と思います。「まずは楽しく引かせなさい」と。学ぶ方のレベルに応じた指導をする こと、初心者の方には弓道への興 味を広げていただき、弓道をすることが楽しくなることで、より上 を目指すようになってもらえると思うのです。

加藤 現在の段位構成による講習会システムはよくできています。 が、弓道の多様性が進む中では無無理が出てきたのかもしれません。講習会の新しいあり方は、今後時間をかけて検討し、確立していきたいですね。

岡崎 弓道人口の中で多数を占める高校生、学生の皆さんを大切に することも課題の一つです。せっ かく弓道を選び、稽古を続けてく れた方が学校卒業後、弓道から離 れてしまわないようにするにはどうしたらよいか、検討していかな いといけません。

指導委員会への期待、課題是正へのお気持ちをお聞かせください。



加藤 公益財団法人として、全日 本弓道連盟は社会通念に沿った団 体であらねばなりません。よき伝 統は継承しつつ、変えるべき点は 変えていくという勇気も必要です。 活発な意見の交換を経て、弓道界 の将来のための有意義な提案を期待しております。

岡崎 初心者に対する私の教えは 「明るく、楽しく、思いっ切り」 です。高みを目指すにも楽しくな ければ続きません。せっかく弓の 道に歩みを進めたのなら、人生の中で基本的なモノの考え方になることを弓の中から得てほしい、と 思うのです。時代にそぐわない従 来のやり方・慣例は見直していく必要があります。弓道振興のために大いに議論を交わし、前へ進ん で行きましょう。

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