(公財)全日本弓道連盟「中期計画2023~2029」の策定に向けて

※このページは月刊弓道2024.1月号と2月号に分割掲載された内容をまとめています。

策定方針と重点領域

中期計画策定に関するWG(ワーキンググループ)では前号(12月号)において中期計画の概要版を公開し ました。

理念、目的、スローガンの設定

WGが中期計画を策定する上でまず着手したのは、 理念、目的、スローガンを設定することです(図1)。 これは、全弓連が何をするべきなのか、どこに向かっ て進むのかを明確にするためです。全弓連が目指すの は、弓道を通じて社会を豊かにすることだと改めて宣言しています。

中期計画の施策を設定していく上では理念に基づい て考えていく必要があります。でなければ、個々の施 策同士が連携できず、全体として、何を目指していくのかが分からなくなってしまいます。また、弓道人には 自身が目標としていることの上に理念を据えて行動を 起こしていって欲しいという思いもあります。例えば、 全国大会で優勝という個人の目標があるとします。 そ こに、優勝を目指す過程で自身のパフォーマンスを 人々に見せることで感動や勇気を与えたいという考え があれば、理念にある「スポーツ精神の養成」や「社会文化の発展」に寄与する行動を取っていけると考え ます。

理念は、全弓連の「定款」第3条(目的)に書かれて いることをベースとして設定しました。そして、この理念を基に目的を具体化しました。

スローガンについて

今回、中期計画を策定するにあたって新たにWGで 作成したのがスローガンです。中期計画を通じて、弓道に関わるすべての人々がそれぞれの立場で一つの方向に向かうべく設定しました。

一つ目のQuality (質)については、弓道が有する伝統 文化としての価値を如何にして高めていくかが重要と なります。弓道は長い伝統を有しており、それ自体に 意義があります。一方で、伝統に固執するだけでは進 歩が無く、時代に取り残されてしまいます。そこで、中期計画では、新たな発想を取り入れながら、弓道を盛り上げていくことが伝統文化としての価値を高め、弓道人のクオリティー(質)をアップしていこうと考えています。

2つ目のクオンティティー(量)については、弓道に関わる人々の数を増やしていこうと言うものです。これまでの全弓連の施策では、主に弓技や審査に実際に参加して、弓を引いている(弓道家)の増加が図られてきました。今回のスローガンでは(弓道人)とし、弓道をする、見る、支える、弓道に関わる全ての人々の増加を図っていきたいと考えています。

現況分析と「改革大綱」のレビュー

以上のような方針で中期計画の目標と施策を7つの 重点領域(①組織運営、②財政、③審査、④競技、 指導・講習、⑥広報普及、⑦国際)ごとに検討したわけですが、この7つをどのように決めたのかを説明し ておきます。

WGでは、まず現況分析を行いました。全弓連の組 織構成、登録者、有資格者、事業構造、財務状況につ いて調査・分析を行い、全弓連という組織の全容把握 を試みました。登録者と財務状況については特に皆さ んに知ってほしいと考え、概要版に「データで見る全 弓連の現況」として示しています。

続けて、「改革大綱」のレビューを行いました。その 結果、事業運営に関わる課題は順調に改革が進んでいたものの、組織運営に関しては、課題(問題点)自体の 把握不足もあり、勢い、その進捗についても停滞がみ られました。日常の業務推進体制の効率化、財務体質 改善の具体策提示、広報活動の構築、国際関連の課題 への着手、検討が必要と認識されました。

加えて、社会の変化によって新たに生じた課題とし て、コンプライアンスの徹底及びガバナンスの一層の 強化が求められています。少子高齢化の進展による社 会構造の変化を踏まえ、若手人材の登用、ジェンダー ギャップの解消、ジュニア対策(少子化による競技人 口減・部活動の地域移行)などについても検討する必 要があると考えました。

これらの課題を認識し、WGで議論した結果、7つの重点領域を設定するに至ったわけです。

7つの重点領域

概要版では7つの重点領域を示すと共に、その横に 目標を示しています。要点を絞って、具体的な施策と 共に説明していきます。

①組織運営

組織運営で第一に掲げているのが「山組織基盤の強化」です。組織基盤が固まっていないと事業運営に支障が生じますし、そもそも中期計画での施策も十分に実施できません。「改革大綱」のレビューで日常の業務推進体制の効率化が課題として認識されたため、委 員会・部会の活動体制の構築、事務処理作業の効率化、 会員管理システムの始動による会員の利便性向上、全 弓連事務局の体制整備などの施策を考えています。

次の、「2ガバナンス・コンプライアンスの徹底」は、 特に次の「3加盟団体の段階的な法人化達成」と関連 が深いので合わせて説明します。

WGでは適正なガバナンスの確保、加盟団体(地連) 及びその構成員間におけるコンプライアンスの徹底を 図ることに加えて、弓道の社会的位置づけを考慮し、 加盟団体の法人化を推進したいと考えています。その方法は、調査を行い、

①法人化を要求、

②法人化を推奨、

③法人化を将来的に検討

の3つのグループに分け①に該当する加盟団体から重点的に支援していくというものです。法人の種類や規模については各加盟団什 の実態に応じたものとします。

法人化にあたっては、追加費用や事務作業などの 負担が生じます。しかし、①となった加盟団体の組織財政規模を考えれば必要な取り組みです。むしろ、 法人化を契機として、より発展していけるという姿勢 持てるように、法人化を図った加盟団体にはインセンティブを与えるなどして、加盟団体の主体的な取り みを積極的に支援していきたいと考えています。

② 財政

財政では、「⑴健全な収支バランスの達成」、「⑵審査関連収入への依存からの脱却」を目標としています。

令和4年度の全弓連の収益の4%は審査関連収入で す。この収益を競技、講習、助成といった公益目的事 業に充当しています。コロナ禍で審査会が開催できなかった令和元、2年度は赤字運営となりました。

審査に頼る財務体質は、全弓連の運営が不安定にな る要因になり得ますし、審査そのものの質を変容させ てしまう可能性も多分にあります。そのため、「改革大綱」でも重点項目として設定されていました。

また、今後は弓道人の量的な増加に向け、広報普及活動の原資も確保したいと考えます。

これに対する具体的な施策としては、加盟団体との 協議、理解を経て、詰めていくこととなりますが、会 員登録制度の改革も視野に入れた会員費の見直しを検討していきたいと考えています。

現在、全弓連は加盟団体から分担金を徴収していま すが、その金額および区分の変更を検討いただきたい と考えています。

③審査

審査では、

⑴審査の公平性、透明性の確保

⑵審査申し込み手続きの効率化を目標としています

⑴については、これまで改革大綱において実施した改革を踏まえ、審査評価基準に基づく着実な審査施行を継続すべく施策を立てていきます。加えて、改革大綱で継続・未着手となっている、海外居住者の審査制 度構築、審査料・登録料の扱い及び金額検討、称号の 定義の明確化と取得方法などに取り組んでいきます。 ⑵については、審査関連事務手続きの効率化を図り、 現場の負担を軽くしていく方法を考えていきます。

特に、弓道家の方々にメリットがあるのが⑵です。
①組織運営で述べた会員管理システムを構築することによって、各会員が例えば全弓連HP上からマイペー ジにログインし、オンライン・キャッシュレスで審査申込ができるようになれば、弓道会・支部・地連の審査・会計担当者の負担はぐっと減ります。

審査については、全体的な施策として利便性を高め関係する人々の運営上の負担を軽くしていく方向で作 めていき、受審者やその指導者が審査そのものにより 集中できるような環境づくりをしていきたいと考えています。

④競技

競技では、

⑴弓道競技大会の着実な施行と効率化

⑵競技力向上(世界大会での団体優勝の継続)」を目指します。

⑴については、「改革大綱」で実施した競技に関する改革が着実に施行されていることを確認するため、定期的に競技大会ごとにレビューを行うことを考えてい ます。また、効率化については、審査関連事務手続き の効率化と同様に競技大会もオンライン・キャッシュ レスで申し込みが出来るようにシステムを構築し、利便性の向上を図っていきます。

⑵について、これまでも全弓連では「競技力向上」(2)について、これまでも全弓連では「競技力向上」

を掲げてきました。本中期計画では、はじめて世界大会を目標とします。世界大会で日本が優勝し続けることは、競技力向上という目標を達成するのみならず、今後一層進んでいく弓道国際化の流れの中で日本の存 在感を示し続けていくためにも重要です。第4回世界 弓道大会(2024年2月)、第5回世界弓道大会での団体優勝を目指します。

そのためには、全体の競技力を底上げし、これまで以上に選手層を拡大していく必要があります。選手層 を拡大するためには、より多くの方々が競技大会への 参加に魅力を感じ、積極的に参加してもらえる方策を立てていく必要があります。競技大会のレビューを行 い、必要に応じて競技大会の再設計を行っていきたい と考えています。

指導・講習では、「山)指導者が継続的に学習できる 環境や情報の提供」、「(2)若手・女性指導者の育成」を目標とします。

⑴では、指導者としての資質向上に寄与するコンテンツやプログラムの開発を行っていきます。例えば、 初心者指導で効果的に用いることのできる視覚教材の 作成や、時間や場所を選ばないオンラインを中心とす るプログラムの開発です。弓道場外でも学びを継続で きる環境を創り出すことで、弓道に関連する知識を蓄 えられるようにします。また、実技のみならず弓道文化全体に対する興味関心を高めることで、弓道家とし ての質をあげていきます。こうしたプログラムの提供 は、講習会などへの参加機会が少ない地方や遠隔地の 方々の学習機会の差を埋める役割も果たします。

(2)について、指導・講習では全体として人材育成を 目指すわけですが、その中でも重点的に育成を図りた い若手と女性指導者の育成を掲げます。「データで見 る全弓連の現況」からわかるように、指導者層の平均 年齢は高い傾向にあります。これは一般区分登録者に おいて50代以上が50%を占めていることが一つの要因 とも考えられますが、弓道の伝統を次世代に継承して いくという観点から言えば、若手弓道家を将来の指導 者として育てていくことが不可欠です。また、女性指 導者の育成も大きな課題です。全弓連登録者全体で女性は52%を占め、男性より多いにも関わらず、範士に女性は15%しかいません。

若手・女性指導者を育成すべく、研修会やモデル事 業の実施を計画していきます。その際には、弓道の実 技及び指導のみならず、将来地連の運営や全弓連の委 員会・部会で活躍できるような次世代リーダーを育成していくという視点も取り入れています。

⑥広報・普及

広報・普及については、具体的な施策を説明します。 1つ目は、HPの拡充、SNSの開設及び運用です。 インターネットの利便性・即時性を考慮し、HPコン テンツの増加、SNS (YouTube、Faceb ook、X(旧Twitter)、noteなど)によ る情報発信強化を図ります。これらは不特定多数に対 して幅広く広報・普及が行えるツールとして実証され ており、早急に取り組みます。

2つ目は、「全国弓道実態調査」の実施です。広報・ 普及活動を効果的に展開していく上では、科学的なデ ータを基に、広報・普及対象に適切な形で戦略的に実 施していく必要があります。例えば、全弓連登録人口 の半数は高校生 (53%、約7万人)が占めていますが、 その大半が卒業後に弓道から離れています。その理由 が何かが分からなければ、高校卒業後の弓道離れを防 ぐための広報・普及活動は効果的なものになりません。

3つ目は、月刊「弓道」の電子化、データベース化 です。月刊「弓道」は、弓道の広報・普及を図る上で 非常に重要なツールです。そのため、まずはその質を 向上させる必要があります。続けて、多くの方に読ん でいただけるように電子化を図ると共に、過去の発行 分を検索できるようにデータベース化を図っていきま す。なお、紙版については全面廃止とはせず、価格を 検討した上で希望購読者への配布は継続する形を取り たいと考えています。

以上のような広報・普及活動を展開するにあたって は、積極的な提言さらには実行能力が求められます。 ・デジタル化に対応できること、社会に対して全弓連の 活動を発信する最前線となることから、特に多様性を もったメンバーが必要とされます。そのため、広報・ 普及の施策実施にあたっては、公募によってその人材 獲得を目指すことも検討しています。

⑦国際

国際では、

⑴国際弓道連盟への実務・財務的支援の継続

⑵国際弓道連盟運営体制の確立

を目標とします。

早期に対応する必要があるのが、国際弓道連盟事務 局の設置および専任の職員雇用です。国際関係の事業規模は年々拡大しており、その実態を見れば、全弓連 が全ての運営・管理を荷う時期は終わりに近づいてい ます。国際弓道連盟加盟団体から相応の負担をいただ いた上で、事務局の設置、諸規定の制定、財政基盤の 確立などを行うべく、全弓連としては国際弓道連盟運 営体制の確立のための支援を行っていきます。

外国講習会・審査会については、従来通りヨーロッ パ、アメリカ、アジア・オセアニア地域に全弓連から 指導者を派遣して実施することを考えています。その 時期、場所、回数等については、当該地域の加盟団体等と相談の上、決定していきます。

実施体制

ここまで中期計画の内容について説明してきました が、最後に実施体制についてその案を提示します。

本中期計画を実施していく上では、全弓連だけではなく地連や関連組織を含めた実働体制の構築が重要となります。特に、主体的かつ実行力を有する人材が必 要となり、その確保が求められます。また、中期計画後の2030年以降も見据え、長期的な観点から全弓 連や地連で活躍できる次世代リーダーの育成も必要となってきます。

そこで、人材の確保にあたっては、これまでの委員 会・部会で委員として活動する枠組みに加えて、副業・ 兼業形式での人材確保を予定しています。有償の仕事 として、中期計画の各種施策の立案・実施・管理・評価を行っていただくというものです。

2024年度中に人材確保を進めると共に、中期計 画の施策を実行できる体制となった時点でWGは解散を予定しています。そして、WGメンバーは委員会・ 部会に所属し、個別の施策に関与していく予定です。 以降、中期計画の管理は法人運営委員会の下で行う予定です。



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