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顧客の「使えてますよ」はなぜ信じてはいけないのか?

BtoB SaaSのカスタマーサクセスで顧客とミーティングをしていると「御社のツールちゃんと使えてますよ」と顧客から言って頂けることがあります。普段「御社のツールなかなか使いこなせないんですよ…」と言われることが多いカスタマーサクセスからすると嬉しい一言ですよね。でもこの顧客の「使えてますよ」という言葉はそのまま鵜呑みにしていると思いもよらない失敗やチャーンに繋がることがあります。今回はその理由と対策について私の経験を元に解説していきたいと思います。

顧客の「使えてる」はどこから来るのか

利用者としてツールを使えているor使えていないという感覚は分解すると「実際の利用率/想定の利用率」によって決まります。

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使いこなし感覚が1より大きい、例えば想定として100くらいこのツールを使わなきゃと思っているところに対して、実際120ほど使っていれば使いこなし感覚は1.2となり「使えている」となります。逆に使いこなし感覚が1より小さい、同じ100という想定に対して実際が50くらいなら使いこなし感覚は0.5となり「使いこなせていない」という感覚になります。

利用率と使いこなし感覚はどのように推移するか?

ではこの実際の利用率と想定の利用率は、ツールへのロイヤルティと共にどのような推移を辿っていくかというと概ね下記のようになります。

2020-08-30 17_16_10-PowerPoint スライド ショー - [プロダクト連携.pptx]

実際の利用度の成長カーブはもうちょっと曲線的かなと思いますが、ここでは簡易化のため、1顧客の成長推移というより顧客分布に近いイメージで書いています。

実際の利用率は、ロイヤルティに沿って高くなっていくのでここは特筆すべき点はありませんが、ポイントは想定の利用率。「このツールはこれぐらい使うものかな」という想定はロイヤルティが低いうちは実際より低めに出て、理解が深まりロイヤルティが高くなると実際より高くなります。これにより使いこなし感覚はどのように推移するかというと下記の太線になります。

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点線のラインが想定利用率と実際利用率が一致している「1.0ライン」で健全な状態なのですが、図を見ると分かる通りその左右に合致していないゾーンが存在します。

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この2つのゾーンにいる顧客こそ、カスタマーサクセスにおいて放置してはいけない状態になります。これがどういう状態なのか、そして放置するとどうなるのでしょうか。

危険ゾーン1:使ってないのに「使えている」

これがまさにタイトルにもある「使えている」と発言する顧客の状態です。説明すると「実態としてはツールをあまり使っていないにも関わらず、そもそもこれくらい使わねばという想定水準がかなり低いがために『使えている』という感覚に陥っている状態」となります。

様々な機能があり価格もその水準で設定されているのに、一部の限られた機能しか使われていない。ただ、その機能のためにあるとしか顧客も思っていないので「使えている」という発言になる、というイメージです。

「使えている」と発言する顧客は、たしかに発言通り実際使えている状態もあるのですが、この危険ゾーン1の顧客も多分に含まれています。その場合顧客の発言には「(正直今は限定的な使い方しかできない。だからその限定的な使い方だけでいえば)使えている(ので支援は不要)」という意味合いが含まれているケースもあります。

この危険ゾーン1の状態を放置すると、いずれ「価格に対して享受している価値が見合わない」といった社内判断がなされて、突然「解約します」という連絡がきたりします。場合によっては「使えているので特に支援は不要ですよ」という連絡があった翌月に解約の連絡が来るということもあります。

危険ゾーン2:使ってるのに「使いこなせていない」

危険ゾーン2は「本当はかなり使いこなせているのに、本人の『本当はこれくらい使わないといけないのに』という理想が高いがゆえに使いこなせていないという感覚になっている状態」のことです。

この状態は「実際は使えているのだから良いのでは?」「理想が高いから良い兆候なのでは?」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、実はこちらも放置するのはよくありません。

この状態を放置すると何が起こるかと言うと、「使いこなせていない」という現場の利用者の感想だけが顧客の社内で独り歩きしてしまい、社内でのコストカット圧や人事異動に伴う再整理などと絡んだときに、決裁者目線で「現場が使えていないなら解約しよう」という、いわば解約という結果ありきの判断の後押しをしてしまうケースが発生してしまうのです。

本来は顧客にとっても意味があるツールで実際に解約すると大きなデメリットがあるにも関わらず上記のような判断が起こるのは、SaaS提供側としてはもちろんのこと、顧客の事業への成功にコミットしているカスタマーサクセスとしても防ぐべき事態なのです。

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3つの対応方針

さてこのような予期せぬ解約を回避するためにどうすればよいのでしょうか。これはゾーン1・2で共通していて

①利用実態をデータで把握し
②ファクトベースで顧客に利用率を提示し
③利用方法や事業にとっての価値をすり合わせる

ことに尽きます。

①利用実態をデータで把握

顧客から「使えています」あるいは「使いこなせていません」という発言があっても、それを鵜呑みにしないことが大切です。もちろん発言そのものは真摯に受け止めましょう。ただしその発言がどういう状態から行われているものなのかを正しく理解しなければいけません。

そのためにも社内のデータで、実際の利用率がどの程度なのかを必ず確認しましょう。そうすれば顧客が危険ゾーンにいるのか、あるいは問題ないのかの判別がつくようになります。

顧客からの言葉というのは強力なので、特に面と向かって言われたフロントのカスタマーサクセスほど、その言葉に引きずられがちになります。だからこそそれを客観的に判断するデータが大切になります。もしいわゆるOps的にデータ管理を専門とするCSチームがあるなら、そのチームの大きな役割の1つだと思います。

②ファクトベースで顧客に利用率を提示

データで利用状況を把握できたら、そのデータを元に利用実態を顧客とすり合わせましょう。使いこなせている・使いこなせていないというのはあくまで個人の感覚です。それをそのまま議論の軸にしていると水掛け論になります。なので定性的な感覚を議論の軸とせず、誰もが理解できる利用データというファクトをベースに議論することで、顧客と共通な認識を得やすくなります。

これにより、使いこなせていないと言っていたけど実はよく使っていた、使えていると言っていたけど、実はもうちょっと使ったほうが良い、といった現状や課題の認識がすり合い、対応方針について健全に議論することが出来るようになります。

利用率のデータの提示方法は、顧客の状況や文化によって慎重に考えましょう。例えば「利用率が高い」という同じデータでも、ある顧客は「素晴らしいね」と感じるのに、別の顧客は「非効率なのでは」と感じるということもあります。そのデータを元に何の認識を醸成したいのか、という意図を持って適切な形式とメッセージで提示することが重要です。

③利用方法や事業にとっての価値をすり合わせる

利用データというファクトで認識がすりあったら今後についての議論です。

ゾーン1の場合はもうちょっと利用する必要がある、こういう利用をすればもっと価値が得られる、という方向性に持っていく必要があるので、その利用方法の理想像、それによって事業が得る価値を提案をしていくことが大切になります。

ゾーン2の場合は実は使っていただけているということ、それによって事業にとってこのような価値があるということを認識して貰う必要があるので、それをはっきりと顧客に提示しましょう。実際に事業にとって価値があり現場でも活用されているということが明示的になっていれば、決裁者も無碍にはツールを解約しようという判断にはなりません。

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以上が顧客の「使えていますよ」をそのまま信じてはいけない理由と、その対応方針でした。日々のカスタマーサクセスに役立てば幸いです!

Twitterでも日々カスタマーサクセスの知見と試行錯誤の結果をつぶやいていますので良ければ御覧ください。

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