辺境の地から
こだまさんのエッセイ、『ずっと、おしまいの地』。この作品は「おしまいの地」シリーズの完結編となる3作目である。
怪しい何かに目覚めた母、チェンソーを振り回す父、10年以上夫に自分の誕生日を告げられなかった著者、生まれ育った場所やその後の人生で過ごした場所、娯楽が何もない辺境の地「おしまいの地」での出来事をエッセイと日記にまとめた作品である。著者は作家活動を周囲に隠している。そのため、恥ずかしくて忘れたいこと、誰にも言えないような秘密、苦い思い出が隠すことなく書かれている。
著者はどうしてこんなに辛くてしんどい話を笑いに変えられるのだろうか。先生のお葬式、猫の死、祖母の口癖、父の終活、直角に曲がった指、全ての話が笑わせてくれる。笑わせてくれるだけではない。「なんとなく大丈夫なのかもしれない」という気持ちになれる。不謹慎だが、父の就活の話では大笑いした。父親、とてもぶっとんでます。
僕が一番共感したのは、「きょうが誕生日だってずっと言えなかった」という話だ。同じようなことを現在進行形で体験している。僕も自分の誕生日を声を大にして言うことができずに、相手に気づいてほしいと思ってしまう。僕の誕生日はもちろん、年齢すら把握してない知人がいる。ただの薄い関係だと言われたら、それでお終いなのだけれど。君の誕生日にはホールケーキがあるのに、僕の誕生日は存在すらしていない。プレゼントとかじゃないんです。ただ認識がされたいだけなんです。今年の誕生日はカレンダーに思いっきり大きな赤丸をつけるので、認識してください。
「直角くん」という話で、著者はこのように書いている。
僕も自分のことを好きにはなれない。好きとか嫌いとかではなく、おもしろいかどうか、という新たな視点を発見することができた。
この作品は誰かに伝えるためではなく、著者自身のための言葉の集まりである。しかし、著者から受け渡された大切な言葉によって、読者である僕たちは肯定される。
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