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一人歩きする言葉。例えば『陰翳礼讃』。

個展最終日、皆さんがお帰りになってから名残のはなを撮影しました。

さて、作家 谷崎潤一郎は著書『陰翳礼讃』を以下のように締め括っています。

“われわれがすでに失いつつある陰翳の世界を、せめて文学の領域へでも呼び返してみたい。文学という殿堂の檐を深くし、壁を暗くし、見えすぎるものを闇に押し込め、無用の室内装飾を剥ぎ取ってみたい。それも軒並みとはいわない。一軒ぐらいそういう家があってもよかろう。まあどういう工合になるか、試しに電灯を消してみることだ。”

陰翳とはある種のあいまいさや微妙な変化、うつろいの中に立ち上がる美。それは侘び寂びや余白など日本的な美の捉え方に共通し、いずれも時間軸の振れ幅を以って見出され育まれてきたものです。

本展においては、会期を通じて照明を一度も灯しておりません。暑さ対策も基本的には築90年の日本家屋に任せるのみで、時折扇風機を回し、冷たいお飲み物で喉を潤していただく程度。それでも平均して40~50分、長い方で2時間近く、ゆるりお過ごしくだる方もいらっしゃいました。こうして花をきっかけに、昨今耳にする機会の増えた言葉を実体験いただけたことは、ありがたく思えます。

思考の垢を落とし、目詰まりした感受性を掃除するお手伝い。

いけばなを通じて自分ができることってこういうことなのかな。

本の断片のみを切り出した写真たちからでも伝わるものがあれば。

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ありがたくいただき、世界のどこかにタネを撒こうと思います。