見出し画像

松柳

1月13日

昨日、そんなに仲も良くないのにも関わらず、その人を選んで共に映画を見た。

久々のアニメーション映画を見たわけだが、たまにこうしてアニメーション映画を見ると、アニメ技術の進歩を感じてすこし感動する。
バトルシーンが特に目立って力の入れられた映画だったのだが、とりあえず色使いもストレスなく綺麗で、些細な動きにも演出が加えられていて素晴らしいと思った。

しかし、やはりそこまで仲のいい相手ではないので、感想を十分に伝えられず、口数の少ないその人を気遣ってしまい、帰り道をバスの行き交う明治通りを静謐なものにしてしまった。

だがしかし、わたなべの花札ブームは止まらない。
そんな良く知らない相手だろうと構わなかった。
学校の近く、イカしたあの喫茶店「朝倉」へその人を連れ込み、一戦洒落込むことにした。無理矢理。

その人が言うに、その昔「サマーウォーズ」を見て花札を覚えたいと購入したのにも関わらず、辺りの人が花札を知らないばかりに手をつけないまま、今も実家に眠っているという。

サマーウォーズを見てから、花札をやりたいと考える人は、私の世代では非常に多いようだ。

しかし、これがなんだかんだで初めての花札なその人は、相変わらず口数が少ないながらも相槌を打って私の説明を聞いていた。

感情の上下のないその人が本当に理解してくれているのか、本当にこんな所で花札などをしていて良いのかは、その顔から伺うことはできなかったが、いつもしているマスクをその時ばかりは外してくれていて、なんとなく嬉しかった。

一月から十二月まで、全4枚、そしてそれらを組み合わせた「役」の点数を競い合う勝負。と説明するも、大抵それだけでこいこいを理解する人はいない。
なんて言っても花札は前情報が多く、絵柄も繊細で、単純なトランプやUNOとは違ってそれぞれを判別するのに時間がかかる。

しかし、一度説明しながらこいこいを始めれば、理解が追いつき、じわじわとおもしろくなっていく。心理戦、運、ついでに頭も使えるお得なゲームは、ちょっとハマると抜け出せない。主に私が。

一通りの説明を終えて、実際の勝負へ。
三ヶ月戦をする。

一回戦、なんということだ、その人は突然芒に満月、菊に盃、桜に幕を揃えた。
これはやっている人しかわからないとは思うが、かなり圧勝である。私だったらこいこいしない。

と思えば次の瞬間には、桐に鳳凰、柳に小野道風、松に鶴を畳み掛けて揃えた。
この状況は、こいこいというゲームの中でこれ以上ない得点を得られる「役」を揃えた状態だった。

なんと、先ほど教えたばかりの相手に、私は手の打ちようのないほどに負けたのだった。

とんでもないやつに、教えてしまったと泣いた。軽く。
溶けたコーヒーフロートをすすり、三ヶ月戦を3回ほどして店を出た。
いやあ、これだから花札はやめられない。
ついでに三回中二回負けた。

一月なのに、外は柳に小野道風のような空気だった。
朝は雪が降っていて、雨に変わったせいだろうな。

そして、よく分からないその人との仲が多少は深まったような、そうでもないような。
いずれにしても、私の手の届く人ではなかったのだと思った。
一戦以上交えたとしても、なにも芽生えないこともあるんだな。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?