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ある国の物語(無料改訂版)

祈り人と祈りの力

ある国に「祈り人」がおりました。
祈り人はその国とその国の民が幸せであるようにと祈るのが仕事です。
その国で一番大きくて立派な屋敷に住み、その一番奥の神聖とされる場所で正座したまま身動きせずに、ただ一心に祈るのが彼の一番重要な仕事でした。
その国は長い長い間、祈り人の祈りの力で守られていました。

それは戦で功績をあげる者にも、国の仕事をする役人にも、頭の良い学者にもできない事だったので、人々は彼をその国の王として、あがめ、奉りました。
だから王は自らの手で田畑を耕して作物を育てずとも食べることが出来たし、自らの足で道を切り開かずともみこしに乗って旅をすることも出来ました。
その祈りの力は彼の子孫へと血によって伝えられるので、彼の血筋以外の者の血が入らないように同属の者の中で婚姻を繰り返し、その力を大切に守っていました。

それ故、その国の天候や、地震や嵐などの天変地異や疫病は、王の祈りの力が弱いからだと言われてもいたのです。
王の行いが悪く、親や先祖を大事にしない、つまり、その祈りの血を大事にしない事が、天を怒らせ災いを引き起こすのだと。

だからそれを知るその国の民は、王と王の血筋の者を大切にしてきたのです。
王ではなく、自分たちの住むその国を守るために。

開く国と閉じる力

時が下り、政(まつりごと)だけを戦人たちが引き受けるようになりました。
王は祈る事だけに力を注げるようになりましたが、戦をする者たちは、いつしか王の祈りの力の大切さを忘れるようになり、「国のために」ではなく、「自分たちのため」の祈りを求めるようになりました。

その国は海に囲まれ、ほかの国の影響を受けにくいので、国も祈りの力もかろうじて守られてきましたが、時代が下り、その国に色々な国からの者たちが訪れるようになります。
見たことのない姿、言葉、行動に全く慣れていなかったその国の人々は恐れ、その国に他の国の人々が入ってこないようにしました。

それでも一度垣間見た世界を眩しく感じるものは後を絶ちません。
自国より大きな国や、自分たちとは違う文化を「優れた国・文化」とし、国を開こうとするものが次々現れ、国を2分する戦の末に国が開かれました。
王は再びその国の政もするようになり、王の名のもとにいくつかの他国との戦いが起きました。
最後の大きな戦いで負けたとき、王は「祈るものではない」とされてしまいました。
けれどとっくに、祈りの大切さも、祈りの力もほとんどが失われていたので、王たちは祈る事より他を大事にするようになっていったのです。

祈りの力は、ただ、血の中にだけ守られていました。
その血だけが、祈りの力を宿す、最後の灯となっていましたが、それがどれだけ大事な事かを知るものは王の一族にですら、ほとんどいなくなったのです。
何故なら、他の国はそうしていないからです。
「平等」と「一律に同じにすること」を混同し、他国の「素晴らしい」文化や技術を取り入れるのに夢中になった人々は、その祈りの力の大切さを忘れていきました。
もう誰も、自分たちの国がどんな国だったかを知るものはほとんどいなくなりました。

宇宙の大神

それを遠い遠い世界から見ている宇宙の大神がおりました。
その王の国から届く祈りを、長い間の友からの手紙のように楽しみにしていた彼は、祈りが途絶えたことを気に病んでいたのです。
何故なら最初の「祈り人」である王を生んだのは、大神の娘だったからです。

だから、王の国を少しだけつついてみることにしました。
すると、その国はグラグラと大きく揺れました。
それでも祈りは届きません。
がっかりしてため息をつくと、今度は大きな台風が起き、悲しくて涙を流すと洪水や津波が起きました。
何度繰り返しても王からの祈りは届きません。

それはそのはずです。
「祈り」は、ただの「儀式」になり、王は祈る力を無くしていたからです。
祈りの力の大切さが判らなくなった王が、いくら作法通りに祈っても、もうそれはすでに祈りでは無く、王の国は次々に災害や疫病におそわれるようになっていきました。
祈りの力を持たぬ王は、今も大きな屋敷に住み、奉られて生きています。

祈りの力とは「守り」の力。
守りを失ったその国が、その後どうなったのか、それは判りません。
ただ、宇宙の大神は今も、王からの祈りとして、長い間の友からの手紙が届くのを待っています。

王の名や力を騙るものが祈りの振りだけをしているのを滑稽だと思って笑うのにも、もう飽きたようです。

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参考
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