『ここではないどこか』


 GHOSTCLUBへ。


 私がその存在を知ったのは、例に漏れずBONの話をTwitterで見かけたことでした。そのときはそこで何が起きていたのか何ひとつわかりませんでしたが、なんだかそれはすごく楽しそうに見えました。VRプラットフォーム上でのイベントのひとつとして捉え、「いつかあそこにも行けたらいいなあ」くらいの気持ちでいました。
 私がVRに求めているのは『ここではないどこかに行く』ことであって、それ自体は今も変わっていません。そのためにPCとHTCVIVEを購入したし、VRChatは可能性のひとつであるだけだし、コミュニケーションはとても楽しいけれど元々望んでいたものではない。真に映画館の観客になれるならそうなりたいと今でも願っています。

私の理想に現状最も近いのはclusterのゴーストアバターです。

 そのときはGHOSTCLUBという言葉は見ませんでしたが、関連してそうな方のTwitterをとりあえずフォローしていって、いつのまにかその言葉を知っていました。けれど、以降特に何事もなく、Twitterで様子を眺めながら日々は過ぎていきました。


 機会は訪れました。その頃は"日記"を提出することが条件でした。何を書けばいいのだろうか。やっぱり文章力とか面白さがないとダメなんだろうか。自分は人に面白いと思わせる文を書くことはできないと知っているのでそれは諦めるとして、せめて中身のある日記を書きたい…が、中身のある一日なんてそう都合よくあるはずもなく、提出できないまま機を逃すことが2,3度ありました。
 いつまでもこんなんじゃだめだ、と思って苦し紛れに書いた日記は、『日常はしんどいけどフレンドが作っているワールドの完成が楽しみで生きています』でした。…これ日記ですか?
 申請はどうやらすんなり通ったようで、ほっと胸をなで下ろしつつ、ドキドキしながらJoinしたことを覚えています。

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 2018年12月15日。GCで撮った最初の写真です。音声デバイスの設定をしないと配信が聴こえないのを知らずに首をかしげていたところ、ブタジエンさんに教えていただいた記憶があります。
 そしてちょうどこの日は…

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 ブタジエンさんによる演出――電ドと呼ばれるもの――が行われた日でした。この時の感動はもう言葉にできませんが、少なくとも私が探していた『ここではないどこか』とは間違いなくここなのだと、そう思いました。そしてその日から、GCの虜になったのでした。

 それからはよく通うようになりました。いわゆるクラブというところには現実を含め行ったことがなく、どういう感じで居ればいいのかもよくわからないまま、最初は周りにいる方々の様子を眺めて真似することにしました。音楽を聴ける公共の場といえば個人的にはライブハウスでしたが、当然(音楽のジャンル的にも)空気感は全然違うので、音楽に身を任せるといってもどうすればいいのかわからず、最初はひとりでギクシャクしていました。DJブースの前の方には熱心に音楽にノっている人がいて、後ろの方には主に会話を楽しんでいる人がいる。ライブハウスとそんなには変わらないのだなあと思うと少し気が楽でしたが、そのどちらにも混ざれない私は自然と真ん中の少し前のほうにぽつんと陣取ることになっていました。鳴ってる音楽も知らないジャンルでしたが、なにせ曲が音がいいので、楽しい時間を過ごしていました。

 思い出もいろいろあって。書ける話としては、3.0が公開されてすぐの頃だったと思います。たまたま(初めてだったかも)フレンドと3.0を訪れたとき、入口廊下に屯していた方々から「ここは君らみたいなカワイ子ちゃんが来る場所じゃねえよ~」「悪いことは言わねえから~」といった形の歓迎をいただきました。今までとは違う場所に来たんだなあと改めて思うとなんだか嬉しかったのです。その後地下へ降りていく私たちへ「楽しんでね~」って言っていただいたのも嬉しかったです。

 場が長く続いていく中で、運営方針が変わっていく時期もありました。例えばクラブ内ではボイスチャットができなくなったときは個人的にすごくありがたく思っていました。元々私は「人が演奏しているときは黙って聴け」と思っているので、このことでGCを更に好きになりましたし、制約のない今でもその空気が続いているのは嬉しく思います。

これが他のクラブにあまり行かない理由の大半です。念のため補足しておきますが会話のための場とかBGMとしてのプレイがあるのも知っていますし、そういう空気を否定するつもりはありません。ついでに話しかけられるのが嫌という意味でもないです(私は人から話しかけられることもまずないのでVoiceを切っておけばいいだけですから)。ただ、それが聴く側の誠意だと個人的に思っているだけです。

 また、クローズドな場になっていた時期は、もう身内だけしか入れないのかもしれないとも思っていました。小さく静かに音楽を聴いているだけなら許してくれないかなあと思いながら最初の頃はドキドキでした。蹴らないでくださってありがとうございます。

 通う、とはいっても毎週熱心に行っていたわけではありません。ただのファンのひとりであったというだけです。毎週開いているという安心感もあって行かない時期もあったし、週末はHMDを被る前に力尽きてしまうことも多かったし、特に中の様子が配信されるようになってからは(作業を優先してしまって)足が遠のいてしまったことも事実です。最近はJOIN戦争にも概ね負けています。
 それに、私はあの場に居るほとんどの方と交流を持とうとしなかったので、その内部で起きていた出来事について何も知りません。例えば――かつて在ったマンションのこと。FANBOXの記事を読んでその存在は知ってはいましたし、面白そうな企画だなあとか思っていましたが、それ以上のことはもちろん当事者しか知らないわけで。また、GCには様々な場――"河"や"霧"など――がありましたが、当時はその名前すら知らないことが多く、界隈の空気感すら碌に知ることはできませんでした。ナンバリングも解体の日の直前まで知りませんでしたし。少し前にその一端を教えていただける機会がありましたが、アレは普通にいちファンとして楽しんでしまいました。

 "持ち込み"とかね。もともとめちゃ良い空間が更にめちゃめちゃ良くなるのですごく好きです。でも私には持ち込めるモノもないし、持ち込めたところで「誰だお前」となるか、Safetyに阻まれるだけです。憧れをただ募らせて、でもそれだけでよかったのです。

 だから私はおとなしく、部外者として、ただのファンとして。許される限りついていこう。そう決めていました。

 決めていたのに。



 "ク"リスマスプレゼン"ド"を受け取ったあの日、何かが変わってしまいました。電ドをみること自体は初めてではなかったはずなのに、前に観たものと何が違っていたのでしょうね。本当にありがたいことです。

 その結果がCiAN0.9での私です。あれもある意味でファン活動のひとつなのかもしれません(?)。あるいは、ファンからフォロワーになった瞬間と言えるのかもしれません。

 でもその1月後に5.0です。あのTeaser映像がものすごく好きで、今も頻繁に見返しています。ここは、私が求めた『ここではないどこか』へ何度でも連れていってくれる。その体験はもう他では味わえない領域のものとなった。ここに来れてよかったと、心から思いました。





 そんな私がなぜVJ装置の制作をすることになったのかというと…よくわかりません(この不用意な発言のせいという説があります)。この頃はこう、実現可能性のないことを適当にTwitterで発言していた時期でした。可能性が少しでもあるなら先に手を動かすので。辞めたほうがいいなあと思ってしばらくは控えていましたが、こういう適当さがありがたいお話を生むきっかけにもなったりするので、なんともといったところです。

 で、0b4k3さんから「CRT触ってみませんか」という(文面としてはただそれだけの)お誘いに、何も考えていないアホな私は吞気な気持ちで現地に赴き、そこで操作方法のお話を聞いていました。
 ひとしきりお話を聞いたあと、0b4k3さんからさらっと「4台目やりませんか?」と。つまり、サイドランプ、CRT、VideoSynthesizerに続く4つ目の演出装置を創らないかと。そんなこと言われるとは微塵も思ってもなかったので、最初は何のことだかわからずきょとんとしていましたが……まあ、なんやかんやで「やらせてください」とお答えしました。


 その日から最初の1か月は、何を作ればいいかをずっと考えていました。とにかく情報を集めるため、今までに自分が作ったもの、見てきたもの、自鯖に集めていた作品のリンク集、ShaderToyやGLSLSandbox、ついでに気になってたアニメや漫画を片っ端から見漁り、きっかけになるものを必死で探していました。そして自分は何をやるべきか、考えていました。
 でも1か月経っても何も思いつきませんでした。いえ、2案ほどありはしたんですが自分の技術的に無理だったのと誠意がないだろとなったので却下となりました。

これは頭を抱えてるとき。
 どうしよう。せっかく誘ってもらったのに私にはやっぱり何もない。途方に暮れていたところ、0b4k3さんからCRTVJやってみませんかというお話をいただきました。

実際に音に合わせて操作するのがめちゃくちゃ楽しくて。ちょっと動かしたら絵がぐっと変化する。見たこともない景色がそこにある。楽しさ100%な気持ちと、「これに並ぶものをつくらきゃいけないんだよな…」という気持ち100%という感じで、割と限界になっていました。

 ただ、少しみえたこともありました。シンセを触っているとき、なぜか『もっと深く』という言葉がが頭をよぎっていました。そういえば、GC鯖の how-to-join のページには 𝘿𝙞𝙫𝙚 𝙞𝙣𝙩𝙤 𝙂𝙃𝙊𝙎𝙏𝘾𝙇𝙐𝘽. という言葉があります。いい言葉ですよね。0b4k3さんの楽曲にも DIVE という楽曲があり、CiANの最初の告知映像でも、もちろんDJの方々もよく使われている曲で、特別思い入れがある曲です。そして、fotflaさんが創ったVideoSynthesizerは流れていくイメージで、奥行感というものはあまりないように考えました(実際はそういう絵も出せそうだし、ある意味でそのベクトルを補っているのがCRTでもあると解しています)。この方向性は考える余地があるのかもしれない。思考を進めることにしました。

 深く潜るという方向、Raymarchingでよく見るトンネルのような方向性。もしRaymarchingをしないとすれば、無限拡大は必須です。でもUVでどうにかするのは以前うまくいかなかったのもあったし、普通にやっても面白くならないだろう。そう頭を悩ませていたのですが。

phiさんが考えたこのお題。無限拡大をやるには持って来いです。なのであのShaderの中核には func() くんがそのまま居ます。

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ここまでくればもうやるしかなくて。fotflaさんのVideoSynthesizerに則りました。だからまあ、あの場にいた3人からいただいたものをすべて繋いでこの子が生まれました。fotflaさんの無限には程遠いけど、違った強さはあると思っています。

 ここまで決まってからも、実際はすぐには手が動かなくて。ここまで来て出来上がったものが大したことなかったらどうしよう。もう後がないような、追い詰められたような感覚で無理矢理手を動かしていました。

 それにね。

消しちゃったけど、「"自分"はどこにあるのだろう」的なツイートもしていました。

これはつまりそういう話で。今もずっと悩んでいますし、きっと永遠に悩んでいくことでしょう。


 何をつくるか考えているとき、つくっている最中に、付随していろいろなことを考えていました。例えば――

 解体について。あれは3.1という場のみならず、それまで文脈も含めて終わらせることだった。という話を何かの記事で読んだのかご本人が話しているのを聞いたのかそれとも私の妄想なのかもうわかりませんが。
 私がCiAN0.9でやろうとしたことは「2019年4月の電ドをひとりで再現する」でした。もちろん結果は違います。あくまで気持ちだけ。

この子の存在がまあそういうことです。
 過去の思い出(というより第一印象かな)を長く引きずりがちな私ですが、それらももう解体されてしまったわけで。私もいつまでもそればかり考えていてはいけないのかなあと思ったりしました。それは今回のこととは違うお話ですが。

これについてはずっと考えているんですけど、でも、やっぱりアレになりたい気持ちもあるんです。答えはまだ見つかりません。


あるいは――

 もしこれを無事に創りきることができて、GCに本当に置かれる日が来たとして。その日を想像してみる。
 客観的にみると、今回のお話も『ずっと憧れていた場に、自分が創ったものを置いてもらえるようになった』ってことになるのでしょう。それに、ついに憧れのfotflaさんとphiさんと同じ場所に立つことになる。私のこれまでの創作活動はずっとGCとは無縁でありました。もちろんその界隈(?)の方々の影響を多分に受けてはいますが、特にお二人を最も尊敬しているのです。単にGCという場にモノを置くというだけでなく、私にとってはむしろそっちの方が怖い。でも一度願ってしまったからにはね。
 アバターにしてもそうで、3人並ぶなら見映え的には幽狐さんがいいのかな~今はますきゃお休み中だしな~とか考えていました。でも最終的にはうちの子といっしょに立つことを選びました。
 同じ場所に立っていたとしても当然並んでなんかいないわけです。だから私は今の私たちとして立ちたい。きっと少しは成長したと思うから。そこで視えるものを楽しみにしていよう。


 他にもいろいろと。自信という概念、とか。最早ここには書けないけれど。時間はありましたから。


 そう、時間はありました。お話をいただいたのが去年の6月だから、13ヶ月か。長いね。その間にもコアメンバーの皆様はどんどん躍進され、GHOSTCLUBはその存在を世界に轟かせていきました。そこに新たにモノを追加しようとしていることへの恐怖たるや、ね。

今ならもう言っていいと思うんですけど、CRTVJ募集的な発言の度に胃を痛くしていました。だってほんとにそんな方が現れたら悔しいじゃないですか。

 今回もReflexさんに3Dモデルを作っていただきました。いつもありがとうございます。めっちゃかっこいい。暗くてよく見えないんですけど。

大まかなデザインは自分でモデリングしました。機能をデザインに落とし込むのは私でもなんとかできるようです。でもやっぱり私程度がモデリングしたものがGHOSTCLUBに存在してはならない。なのでまたReflexさんにお願いしてしまいました。細かいところはReflexさんに全部いい感じにやっていただきました。ディテールの元ネタは私のベースアンプです。これしかないと思ったのです。

 CRTへの映し方はphiさんのアイデアです。自分が作業してるときはこの子があのCRT群にどう映るかをしっかりイメージできないまま持ってきてしまったのですが、組み合わせたとたんに一気に視界が開けたような気がしました。あのCRT群が持っているポテンシャルは想像を遥かに超えていました。やっぱりすごいんですよ、GHOSTCLUBというところは。

 公式サイトのクレジット欄にも私の名前を載せていただきました。作品のクレジットに自分の名前が載ることが小さい頃の夢だったんですけど、このような形で叶うなんて。



 私が言いたいことはこのくらいかな。あとは目撃者である皆様の思うままに。後半は文章としてまとまっていない感がありますが…まあ、全部書くわけにはいかないから断片的になってしまいました。

 最後に。これは私が言っていいセリフなのかわからないけど。これからもよろしくお願いします。

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