幻ポイズン

誰かの笑顔がちりぢりになっていくのが見えて、重たい十字架を背負っていたんだと気づいた。世間の習わしのせいで薄まった愛はそれを祝福する、なぜだろう。ごめんなさいに隠した無数の感情、知られることなく壺に入った。舐め取られた時間と見ぬふりをされた傷口。血眼になって働くもついに潰え、叶わなかった願い。きっと気に入らなかった織姫に食べられちゃったんだ。

飼い慣れた子犬のためではなく、程良い距離の兄弟のためでもなく、守るべきものも名残惜しいものも何一つないのにわたしは生にしがみついている。それはそれは思い切り強い力で何度も。
サンタクロースに裏切られても、センチメンタルになっても、たとえ朝が来なくとも。
こんなにも悲しいのに。なぜだろう。

六畳一間の部屋に踏切の音が、窓ガラスを割りながら響く。今日もまだせわしなく駒が動いているのに、がら空きのエレベーターホールは静まり返っている。一足先にいる成れの果ての自分に電話をかけてしまいたい気分だ。

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