『推理小説批評大全・総解説』 序

  序
                          松井 和翠  

 本書は、表題の通り、推理小説に関する古今の批評七〇本を集纂し、それぞれに解説を付した書物である。
 本来であれば、序文の役目として推理小説における評論の必要性を十全に述べるべきであろうが、それは以後七〇本の解説文の中で、ある時は直接的に、ある時は間接的に、またある時は断片的に、そして多くの場合暗示的に示唆してあるはずだから、賢明なる読者諸氏にその解読を願い、ここでは選定基準の大凡を述べるに止める。
 選定の基準は左記の三項に重点を置いた。

一、質の優先
 選定にあたっては、先ず作品、つまり批評文の質を第一義に置いた。ここでいう質とは、端的にいって、現在読んでも十分に通用するか否かということ、現代の机上に置いても語り得るに足る豊穣な内容を持つか否かということ、現役の作者・評者・読者に緊張を強いる言説であるか否かということ…etc. よって歴史的価値は可能な限り眼中に入れぬよう努め、その価値判断に関しては(私の能力が許す範囲内において)客観的であろうと努めたことはいうまでもない。

二、原論・作家論・作品論・その他
 第一義を大きく犯さぬ範囲において、原論・作家論・作品論・その他の比率が均等になることを目指した。

三、文学と推理小説
 本書は「文学と探偵小説」という主題が長い縦糸となって全体を貫いている(この理由はあとがきで述べる)。その結果、創作論や懐旧的な随筆の類が抜け落ちてしまっていることは遺憾であるが、決してそれらの価値を軽んずるものではない。

 以上、本文に入る。


〔凡例〕

一、収録作品は原則一人一作とし、配列は初出年次による。
一、作品名・作者名の後に作品を象徴する一文を引用する。
一、傍点及び読み仮名は原文を踏襲する。
一、原文を一部省略する場合は(…)で示す。
一、引用文は《 》で示す。
一、解説文の後に、作者プロフィール、初出、底本をそれぞれ付す。

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