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第93位『歌舞伎は花ざかり』小泉喜美子

歌舞伎を愛し、ミステリを愛した才媛の〝白鳥の歌〟

【内容】
 愛してやまない歌舞伎を、まるで一流のミステリ小説を読むように語った小泉喜美子、最後の書き下ろしエッセイ集。

【ここが凄い!】
 氏の批評の中から、内容が重複する『やさしく殺して―ミステリーから歌舞伎へ』(鎌倉書房)や才気溢れる時評集『ミステリー歳時記』(晶文社)ではなく本書を選ぶのは、単に遺稿集だからというセンチメンタルな理由からではない。彼女は歌舞伎を〝読む〟際、そのドラマツルギーの中に、明らかにミステリと共通する要素を見出している。例えばそれは〝どんでん返し〟であり、〝トリック〟であり、〝悲劇性〟である。そして、彼女はそれらのものが決して小手先芸的なものではないことも、またお涙頂戴的なものでもないことも、よく知っている。そして、それらがミステリというメカニズムを駆動する際に必要不可欠な原動力であるということも。

【読みドコロ!】
 何より「『熊谷陣屋』の〝聖域〟その他」「『奥州安達原』小論」「『寺子屋』考」の三篇が素晴らしい。いずれも歌舞伎をミステリ的に読み解いて間然とするところがない。特に前の二篇は本書にしか採録されておらず貴重である。

【次に読むのは?】
 氏のミステリ観を理解するには『メインディッシュはミステリー』(新潮文庫)が最適。また、歌舞伎とミステリを跨ぐ書として、本書の序文を寄せている戸板康二の『小説・江戸歌舞伎秘話』もオススメ。ちなみに文庫版の解説者は小泉喜美子その人である。

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