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『墓地裏の家』倉野憲比古

探偵法に独自のアプローチを持った佳作。今後の課題はホラー・ミステリの袋小路をどう回避するか【74】

 本作は夷戸武比古という探偵らしからぬ人物が探偵を務める。彼自体はそれほど個性が強いわけではないが、その推理方法が極めて独特だ。臨床心理学を研究している彼は、物的証拠ではなく、心理学的な(しかもフロイト的な)アプローチで謎の解明に挑んでいくのだ。どことなく、現代的にアップロードされた法水麟太郎のような探偵である。こういったアプローチは今までありそうでなかったから、大変に好ましい。さて、ホラー・ミステリの難しさは、結末が似たり寄ったりになってしまうことにある。つまり、ある程度合理的に謎は解明されるのだが、どうしても論理で説明できない余剰が出てしまい、そのまま物語は終わる―大方こういうパターンなのだ。本作は、そういった弊から、半分は抜け出している。つまり、事件はある程度解明され、ある程度謎の部分も残るのであるが、その残し方にひと工夫が加えられているのだ。そして、このひと工夫が、なかなか前例のないものなのである。この趣向を成立するためには、探偵サイドの人物造形に力を入れることが必須なのだが、そこもクリアしている。ただし、唯一それの《釣り合い》が不均衡に終わった点は惜しまれる。つまり、最初のそれがあまりにも魅力的であり過ぎたが故に、後続のそれが色褪せてしまった(又は陳腐にうつってしまった)感は否めない。この《趣向》を達成する場合、必ずそれらは同等の説得力を持って読者に迫ってこなければならないと私は考える。そういった惜しさはあるけれど、とても楽しい読書だった。美菜さんもかわいいし。

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