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第98位『闇のカーニバル』中薗英助

〝文学的想像力の深層スペクトル〟の深化を目指すスパイ小説の論理的バイブル

【内容】
 国際政治の裏側で暗躍する者たちの実像と、彼らの葛藤を描き続けてきた第一人者に依るスパイ・ミステリィ論のエッセンス。

【ここが凄い!】
 スパイ・ミステリィは、その発生から文学と近い位置にいた。少なくとも、キリスト教圏においては、国家への裏切りはそのまま神への裏切りに均しく、その裏切りを〝彼〟が赦し給うか否かという問こそ、グレアム・グリーンが終生問い続けた文学的主題であった(余談ながらその延長線上に遠藤周作『沈黙』が存る)。グリーンを信奉する氏が、純文学作家からスパイ小説作家、つまり〝エンターテイメント〟作家へと転向を余儀なくされたのも故なきことではないのである。そして、その屈託と矜持とも相持った本書は、発表から半世紀が経過しようとする今日においても、未だ古びることがないスパイ小説の教本足り得ている。

【読みドコロ!】
 当然、第1章「スパイ・ミステリィ論」及び「二人のスパイ小説作家」が全体の白眉である。特にキム・フィルビィという稀代の二重スパイを補助線にグレアム・グリーンとジョン・ル・カレの〝対決〟を描いた箇所の迫力は素晴らしい。一方、後半部は所々で発表したエッセイを寄せ集めた感が拭えず、やや雑然とした印象だが、それでも夢野久作を語った一節などはこの作家の文学的ルーツを知る上で実に興味深い。

【次に読むのは?】
 本書を読んでキム・フィルビィに興味を持った方には、ベン・マッキンタイアーのノンフィクション『キム・フィルビー―かくも親密な裏切り』(中公文庫)が絶対オススメ。また、近年の(といってももう10年以上も前だが)スパイ小説論として直井明『スパイ小説の背景』(論創社)がある。

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