パスポートを無くしたけど次の日戻ってきた話
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パスポートを無くしたけど次の日戻ってきた話

 記憶が薄れないうちに書いておこうかな、とふと思いまして。

 九州で人気パン店を経営されているI社長ご夫妻とは今年で9年くらいのお付き合いになる。2012年に私が企画したドイツ視察旅行にご参加いただいてから、ご夫妻だけのプライベート旅行の企画やアテンドをご依頼いただくようになった。
 とても気さくでご親切なご夫妻で、これまで4回ほどヨーロッパ各地をご案内させていただき、私も一緒に楽しませてもらった。
 ハプニングが起こることも時々あり、ストラスブールではレストランで料理が出てくるのが遅くて、ホテルのあるバーゼルまでの最終電車を逃してしまい、ドイツを経由して帰ったり、ミュンヘンの石畳を歩いていて私の靴底が壊れ、つま先が靴から飛び出してしまった時は、さすがのI社長も驚き、ちょうど通りの向かいにあった靴屋を指し、「あそこで靴買いなさい!」と言ってくれたり、9月にスイスへ行った時は山頂で初雪に見舞われ、マッターホルンもユングフラウもツェルマットも吹雪の中で姿が全く見えなかったり。

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                      (I社長と私)

 2015年9月の旅行の時は、お祭好きなご夫妻のお気に入りミュンヘンのオクトーバーフェストへもう一度行くことになった。他はドイツから出て違う国へ行きたいとのご希望で、移動時間が短いウィーンとプラハを提案し、ご了解を得た。
 オクトーバーフェストは旅の最後のお楽しみにするとして、ミュンヘンの展示会を見た後まずウィーンへ向かう。
 ウィーンでは乗り物好きなI社長の希望で馬車に乗って市内を巡ったりと、限られた時間の中でもそれなりに悠々と過ごし、翌日はプラハへ。

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 ウィーンの空港の機械でチェックインすると、なんと次に乗るプラハ-ミュンヘンのフライトのチェックインまでできてしまった。ぴっくり。さらに驚いたのは、搭乗ゲートでパスポートチェックがなかったことだ。オーストリアとチェコの中だから無くていいのか、それともEU圏内ってどこもそうだったっけ?
 プラハへはあっという間に到着、タクシーでホテルへ向かう。チェックインしようとすると、レセプションの係からパスポートの提示を求められる。Iご夫妻にパスポートお願いします、と伝え私も自分のショルダーバッグの中を探る。
 ・・・ん?パスポートここに入れたはずなのに、という定位置のポケットにパスポートが見当たらない。あ、ウィーンで飛行機乗る時チケットと一緒にがさっとバッグに入れたからこっちかな、とチケットが入っている方を見るも、そこにもない。
 いやいやそんなはずないし、とがさがさバッグ全体をいじくりまわしてみるもやはり出てこない。狐につままれたような気持ちで信じられなかったが、Iご夫妻はすでにパスポートを出しているし、レセプションの人は私のを待っている。「ちょっと見つからないんですけど」というと「パスポートなしではお泊りいただけません」という。それもそうか、ううむ、とひるんだ瞬間、パスポートの自分の写真が貼ってあるページの写真を撮っておいたことを思い出した。ホテルの人に説明すると、パスポート番号さえわかれば十分だという。
 パスポート番号を伝えて無事チェックインし、Iご夫妻と観光に出かける時間を決めて部屋に向かう。部屋に入るなり荷物をひっくり返して本当にパスポートがないか調べた・・・がやはりないものはない。
 ウィーン空港でチェックインした後、チケットと一緒に持ったつもりがそうじゃなかったのかもしれない、ということはウィーン空港にあるのかも?と思い、パソコンを開いてネットに接続し、ウィーン空港のサイトを開く。落とし物というメニューがあったので、そこで問合せのメッセージを書いて送信。
 出かける時間になったので、ホテルロビーへ急ぐ。心配そうにIご夫妻が大丈夫かと聞いてくる。もちろん心配で気が気じゃなかったけれど、お客様に自分の不注意でご心配をかけるとは何という失態、という悔しさのような気持ちもこみあげてきた。ウィーン空港に問い合わせたので返事を待ちます、と平静を装いプラハの町へ繰り出す。

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 ピルスナー・ウルケルを飲むならここ、という「金の虎」へ行ったり、そこで隣り合わせた人に美味しいお店を聞いてはそこで食事をしたり、天文時計を見たり旧市街を散策したり、久しぶりのプラハはやはり楽しい。

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 翌日はプラハ城を見学。カレル橋やお城へ登る坂道も楽しく、お城の外では何かのイベントらしく屋台が出ていたりと賑やかで、Iご夫妻もご満悦の様子。

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 午後はミュンヘンに帰る予定のため、名残惜しくもホテルに戻る。プラハ空港に向かう時間までメールチェックをしようとパソコンを開くと、ウィーン空港からメールが!
「あなたのものと思われるパスポートが見つかりました。お預かりしておりますので、ウィーン空港までお越しください。あるいはご指定の空港までの飛行機でお送りすることも可能です。その場合はご希望の空港名とお客様のお電話番号をお知らせください。」とある。よし!!! やった!!!!!嬉しさで叫びたい気持ちでいっぱいになる。Iご夫妻にもその旨を伝え、タクシーに乗った。
 タクシーの中で考えた。これからミュンヘンに行くのだからミュンヘン空港までパスポートを送ってもらえばいい。ウィーンからプラハへ来る時はパスポートチェックがなかったから、もしかするとプラハ空港もないかもしれない。
 危機感が薄いのか、楽観的なのか、自分の置かれている状況を把握できない性格なのか知らないが、私はなんだかいつもどうにかなるや、と思っているふしがある。I社長もこの後プラハ空港でどうなるか面白がっていた。
 プラハ空港に着く。ウィーンでプラハ-ミュンヘン行のチケットは取れているからまっすぐ搭乗ゲートへ向かうのみ。入口にはガタイのいい強面の係員さんが立っている。
 そしらぬ顔をして通り抜けようとすると、すかさず「パスポート拝見」。あーやっぱりダメかー。鞄からパスポートを出すふりをして、でもなぜか見つからないんですけど、というと「パスポートなしで旅行するとは何ごとですか!?」と怒られた。「だってないんだもん!」と怒られて少し逆切れするも、通してはもらえない。やむを得ず、そのミュンヘン行のフライトに乗るのは諦め、スーツケースをIご夫妻に託し、先にミュンヘンへ向かっていただく。

 さてどうするか。まずチェックインカウンターに行って、パスポートをウィーン空港で無くしたこと、でもパスポートの写真はあること、を説明し、それでどうにかミュンヘンへ行けないか聞いてみる。するとお待ちくださいといって確認してくれたが、EU圏の人間ではないのでダメだという。
 こうなると方法は一つ、パスポートをプラハへ送ってもらうしかない。ウィーン空港の落とし物預かり所へ電話する。プラハ空港へ送ってほしいというと、親切にそれは大丈夫、でも送ったらその後の責任は取れないので、それを了解した旨の一筆をメールで送ってほしいと言う。
 椅子を見つけて座り、パソコンを開け、プラハ空港のWifiに接続する。メール画面を開いて言われた内容をメールし送信。その間に次のミュンヘン行のフライトを調べる。この日のフライトは満席で次の日の午前も確かなかった。フライトがないなら高速バスだ。その頃すでにヨーロッパ中に安く移動ができるバスが定着していた。私もすでに何度か利用したことがあったので、予約は慣れていた。その日の夜中にプラハを出て明け方ミュンヘンに着く便が空いていた。おお~これだ!とすぐに予約をする。あとはパスポートがそれまでにプラハ空港に届くのを待つのみ。

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           (プラハ空港で飲んだスムージー)

 落ち着かなくて何度もメールをチェックする。17時少し前になってやっとウィーン空港からメールが届く。

「お客様のパスポートを以下の通りお送りしました。
  OS711/20SEP/PRGOS (フライト番号)
  NM MARIMOTO
  XT OS091497 (荷物番号)」

 おお!これでバスに間に合う!でも名前のスペルが違うけど大丈夫か?などと嬉しさと緊張が混じった気持ちになる。するとまたメールが。「念のためお知らせします。お客様のパスポートは赤い靴箱に入れてお送りしました。」まあ、なんと親切な。入れるものが靴箱しかなかったのかな?でも中身が無事なら何でもいい♪ チェックインカウンターに行き、その便の到着時間を聞く。パスポートが送られてくることも伝えると、「x時ごろもう一度来てください」とのこと。
 時計を穴が開くほどにらみつけ、言われた時間ぴったりにカウンターへ行く。すると「その便は到着が1時間ほど遅れます」・・・なんでそんなにハラハラさせるのか!頼むよ、頼むから急いでくれよ・・・

 1時間経った。カウンターへ行くと、お姉さんが機内へ電話してくれる。そして「機内にはそれらしきものはないようです。」と言う。んなわけあるかー!赤い靴箱、赤い靴箱に入ってるから!ほら、これ荷物番号!ともう一度力を込めて説明すると、また電話してくれた。「あ、あったみたい、ちょっと待ってて」というと、お姉さん飛行機まで走っていった。
 ドキドキしながら待つ間、そこに立っていた彼女の同僚らしき男性職員さんが「見つかってよかったですね」と言ってくれる。ホントだよ、ありがとう!
 するとお姉さんがまた駆け足で戻ってくるのが見えた。片手に赤い靴箱を抱えている。「開けて中身確認してみて」と言う。待ちに待った誕生日だかクリスマスのプレゼントを開ける子供みたいな興奮状態でがさがさと箱を開けてみると、あった!(当たり前だけど)靴を包む薄紙の間に。
 わ~!!と喜んで思わずお姉さんと固いハグ。お姉さんも笑顔でよかったわね!と言ってくれる。同僚の男性も「この赤い箱は思い出の品だね」などと言ってくれた(私は邪魔だからどっかで捨てていきたいと思ったんだけども)。

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     (これがその靴箱。RUSH(急ぎ)と書いてある)

 プラハ市内から高速バスに乗るんだというと、どこまでも親切なお姉さん、夜は地下鉄の本数が少ないから、と行き先をメモしてくれた。感動しまくって再度お礼を言い、バス乗り場に向かった。
 バス乗り場は奥まっていて見つけるのに苦労したけれどちゃんと間に合った。バスに乗ると一気に安堵の気持ちが押し寄せ、長い1日を振り返る間もなく眠りに落ちた。ミュンヘンのホテルは空港の近くなので、空港で降り、タクシーでホテルへ向かう。まだ朝の5時くらいでレセプションや入口は閉まっていた。タクシーの運転手さんが入り口にあった番号に電話してくれ、ドアを開けてもらえた。スーツケースを受け取って部屋に入り、朝食の時間まで少し休む。
 朝食の部屋へ降りていくとIご夫妻が入ってきた。お二人ともおめでとう、よかったね!と喜んでくれる。I社長はこれで会社のみんなに土産話ができた、などと言って笑っていた。

 ・・・その数時間後、私たちは秋晴れのミュンヘンの空の下、オクトーバーフェストの会場にいた。1リットルジョッキのビールを片手に。なんだかとっても祝福されているような気分だった。

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