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高度催吐性リスク抗がん剤投与における低用量オランザピンの標準用量に対する非劣性の検証 第3相非盲検化試験

Lancet Oncol 2024, Published Online January 12, 2024
https://doi.org/10.1016/S1470-2045(23)00628-9

オランザピンは最近改訂された制吐剤適正使用ガイドライン第3版(2023年10月発行)で、高度催吐性リスク抗がん剤(Highly Emetogenic Chemotherapy; HEC) のアルゴリズムに標準的な治療として掲載された。
海外の標準量は10mgであったが、傾眠・ふらつきなどの副作用が多く日本ではJ-FORCE試験 (Lancet Oncol.2020;21:242-249.)で用量が5mgに設定され一般臨床に浸透している。J-FORCE試験はプラセボ対照だったが、今回の論文では標準量である10mgに対して2.5mgという用量での非劣性が検証された。
本研究者の所属であるTata Memorial CentreはASCOにもバンバンデータを出しているインドの施設であるがPhase IIIを単施設で行えるキャパには毎回驚かされる。


試験対象は乳がんAC療法あるいは高用量CDDPを投与されている患者。通常の化学療法にオランザピン2.5mg or 10mgをday1-4 1日1回眠前に内服するプロトコール。ステロイドは8mgを1日目のみ(low dose steroid)とした。適格患者は275人。女性が約95%でほぼ乳がんの患者。レジメンは約90%がAC療法で残りが高用量CDDPであった。評価項目は以下の通り。
① Total control:    嘔吐/レスキュー/悪心無し
② Complete control:  嘔吐/レスキュー無し・悪心は軽度以下
③ Complete response: 嘔吐/レスキュー無し ・悪心はany
日中の傾眠は4ポイントのcategorical symptom scaleで評価した。
各々急性期(0-24h), 遅発期 (25-120h), 全期間 (0-120h)で評価。
主要評価項目は全期間における②割合。
既報では①が37%であったが、今回はlow dose steroidで治療を設計したため、統計学的には③を37%と仮定し非劣性マージン10%として設定された。
医療者は治療割付をmaskされたが、患者はmaskされなかった。

結果

結果図表より改変

結果は上記で赤い部分が主要評価項目で割合差は -1.0% (片側95%CI: -100 to 9.0% p=0.87)で非劣性マージンの10%を下回り統計学的にmetした。探索的に行った食欲不振患者の割合はday2-5において2.5mg群で有意に少なかった。

食欲不振患者の割合

post-hoc解析で施行したcategorical scaleによる悪心スコアも同様の結果であった。対して傾眠スコアは2.5mgが有意に少なかった。

Categorical scaleによる悪心スコアの推移
Categorical scaleによる傾眠スコアの推移

制吐剤の試験は患者背景やchemoの内容でリスクが違うため、過去の試験を参考に統計学的仮説を練ろうとすると結構難しい。本試験では本文中にもある通り多少"保守的"な設定だったが、Discussionにもある通りオランザピン10mgが検証された既報とは様々な患者背景が異なる(例えば既報は女性が7割程度)ため違和感はない。
本試験では患者側が非盲検で、評価項目が患者の主観という点においてバイアスが懸念されるが、量を減らしていると分かっていてもこの結果という事であればまあ許容されるだろうか。しかし1/4量の2.5mgでも効果が変わらないという点はちょっと驚きである。

一点気になるオランザピン10mgの食欲低下は、眠気のため食事量が落ちたせいではないかと考察されている。もちろんその可能性は高いが、この点はステロイド減量とも関連している気がする。ステロイドを少なくしたことについては副作用を減らすためとあったが、減らしたことが食欲不振や傾眠に繋がった可能性はある。被験者の9割が乳がんAC療法でコース数も限られている。そしてそもそも女性は嘔吐のリスクが高い、かつpCRを目指すのに重要な周術期というsettingでステロイドを減らし忍容性を下げるのは腑に落ちない。通常はchemoの継続性・忍容性を優先することがセオリーと考えるが。穿った見方をすれば、本試験では副作用関連でより差をつけたかったからそう設計したのかもしれない。

いずれにせよ、本結果からオランザピンの制吐作用は低用量でも十分認められることが分かった。体の大きい欧米人にも適応できるかは不明だが、インド人と背格好が似ている日本人であれば応用できそうな結果ではあると思う。特に高齢者などはむしろ2.5mgが安全かも知れない。

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