見出し画像

NSCLCに対するAPPB(Atezo+CBDCA+PEM+Bev)療法(APPLE, WJOG11218L試験)

JAMA Oncol. Published online December 21, 2023. doi:10.1001/jamaoncol.2023.5258

NSCLCに対するICI+Bev含有レジメンとしてIMpower150レジメン: ABCP(Atezo+CBDCA+PTX+Bev)やTASUKI-52レジメン: Nivo+CBDCA+PTX+Bevの有効性が報告されている。IMpower150試験はACP vs ABCP vs BCPの3群試験だが統計学的にはAtezoの上乗せを見るデザインであった。そのためICIベースのレジメンにBevの上乗せを見た試験は無く、今回が初めての試みとなる。

本試験ではAtezo+CBDCA+PEMへのBev上乗せの効果が検証された。結果から言うとprimary endpointはnegativeであったが、Driver遺伝子変異陽性患者には良さそうな結果であった。今回supplementaryを取得できておらず理解が不十分かもしれないが、一応概要と私見をメモする。


適格患者は切除不能(III~IV期)の化学療法未治療のNSCLC患者。Driver遺伝子変異例はTKI治療後のentryが許可されている。APPB vs APPの1:1割付で当初350例の予定であったが、途中で統計学的理由から400例に変更。
APPB, APPともに3週1サイクルで4サイクルの導入後、各々Atezo+PEM+Bev, Atezo+PEMでPDまでメンテナンスされた。主要評価項目は中央判定によるITT-PFS, 副次評価項目はOS, 担当医PFS, RR, 安全性。

結果

各々206例ずつ集積された。患者背景は男性 66%, 年齢中央値 67歳, Stage IVおよび再発例が98%, 組織型は腺癌96%, Driver遺伝子変異陽性例 30%でEGFR変異例が25%であった。PD-L1 TPSは<1%が35%, 1-49, >50%, 不明が各々20%ずつ程度。肝転移 約10%, 脳転移約20%であった。治療サイクル数中央値はABBP 10サイクル, APP 9サイクルであった。

主要評価項目のITT-PFSはAPPB 9.6m vs APP 7.7m (HR 0.86, P=0.92), OSは 29.4m vs 25.3mであった。事前に設定されたsubgroup解析において、Driver遺伝子変異陽性例ではPFS 9.7m vs 5.8m (HR 0.67), OS 32.0m vs 20.8m (HR 0.63)。陰性あるいは不明例ではPFS 9.3m vs 9.4m (HR 0.97), OS 28.0m vs 26.9m (HR 0.99)でありDriver遺伝子変異陽性例で良い傾向にあった。

A: APPBとAPPのITT-PFS, OS
B: Driver遺伝子陽性例のPFS, SO
C: Driver遺伝子陰性例のPFS, OS

有害事象はBev特有のAE (鼻出血・高血圧・蛋白尿)がAPPB群に多い傾向があったが、その他のAEは概ね両群で差は無かった。(貧血がAPP群で多かった)


今回の結果では主要評価項目のPFSで明らかなBev上乗せのbenefitは認められず試験はnegativeであった。しかし得られたものは多いように思う。振り返ってみるとIMpower150関連の論文はいずれもABCP vs BCPの比較は示されているが、ACP vs ABCPの比較はされていない (元々ABCP vs BCPの試験なので当たり前なのだが) そこでIMpower150試験の最終解析 (J Thorac Oncol. 2021;16:1909-1924)のデータを借りて、ACP vs ABCP vs BCPのKaplan-Meierを並べてみるとこんな感じになる。

IMpower150試験のITT集団のOS (J Thorac Oncol. 2021;16:1909-1924より引用改変)

見ての通りACPとABCPの差はわずかであり、Bevの上乗せ(言い換えるとAtezoとBevの相乗)効果は、この集団ではほぼ無いということが分かる。つまり本試験の結果がnegativeだったのはAPPBが悪い治療だったからというわけではなく、APPと比較したら差が出なかったというだけであり、効果的にはPFSを見てもABCPと同等程度のpotentialを持っていると私は思う。

本試験で最も価値の高いデータはやはりDriver変異陽性症例における効果であろう。IMpower150試験の後解析でも同様の結果は示されているが、Nが各々20例と少なかった。本試験では各々60例の症例数で再現性のある結果を得ており、Driver陽性例ではICIとBevの相乗効果が認められることが改めて確認された。Discussionでも語られているORIENT-31試験も含め、Driver依存で免疫的にはcoldな肺がんにおいて、VEGFによる腫瘍免疫防御機構をBevがある程度解除しhot tumorにする可能性を確認できたことは非常に重要であり、今後の治療開発に活かせる知見である。一臨床医の意見としては、Driver陽性NSCLCはほとんどがTTF-1陽性であり、ABCPよりPEMベースのAPPBの方がより効果が出そうな気もするので使いたい気持ちはある。本試験のTR研究の結果も期待しよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?