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なくなったお面

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文:立花実咲


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わたしの母は、福岡県糸島市出身だ。

今でこそ、移住やまちづくりの文脈で注目されている地域だけれど、わたしにとっては「毎年夏休みになると遊びに行く、おじいちゃんとおばあちゃんの家があるところ」だ。

その糸島にある祖父母の家は、平屋の一軒家で、田んぼに囲まれたところにぽん、とあった。

大きな石や灯籠がある広い庭は絶好の遊び場だったし、祖父が時々何か作業をしていた倉庫は中に何があるのか気になっていたけれど怒られるのが怖くて結局入れなかったし、ひょうたんや玉ねぎがぶら下がる渡り廊下は夜になるとひんやりして虫の声がよく聞こえた。


中でも、居間へ続く廊下に飾ってある、いくつかの能のお面は、当時のわたしにとって怖くて興味深い対象だった。

夜、トイレに行きたくて目がさめると、般若のお面と目が合って怖くてギリギリまでトイレを我慢したり、翁の能の笑顔は父方の祖父に似ているなと思って見上げたり。

怖いけれど気になる、じっと見つめていると魂を吸い取られそうな、糸島の家の守り神のように、わたしには見えていた。

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