うらかたり 第16話
裏方が語る舞台の裏側の物語『うらかたり』と題して、どらま館制作部技術班が制作部週間内で毎日更新するnote記事企画。
今回の制作部週間では、第13話~第18話を公開します。
初めまして!劇団くるめるシアター3年代の弌葉英晃(ひとはえいこう)です。
クリエイターとしては、劇団で役者や脚演などで活動させてもらいながらソロユニットでも映像やら音楽の真似事やらをやっていますが、演劇界隈における私の最も強いイメージはというと「音響の前髪長い人」でしょうか。「でかい人」ですか?知りませんが。
そういうわけでお呼びを頂きましたので、僭越ながら音響スタッフについて色々書いてみたいと思います。前後編です。
前編では、過去に私が音響を担当した公演(補佐含む)の中で印象深かったお仕事について振り返ります。
システマ・アンジェリカ
『エイリアンが来る!』(2019.12)
(©️ 猪股大輝様)
これは私にとって初めての操作現場でした。今でこそ偉そうにしていますが、他劇団の方も多い公演で落ち着けずひたすらキョロキョロ。おっかなびっくりボタンを押す手が震えたことを覚えています。
(©️ 猪股大輝様)
ドアのノック音や開閉音など、アクトに合わせる操作が多くありました。空間表現を大切にする方法は主宰さんそれぞれ。「ここにドアがある」こと1つを取っても、その空間を完成させるためには様々なアプローチが在り得るわけです。その選択の1つとして「全ての音を鳴らす」という挑戦をした公演だったと感じていますが、プレッシャーは相当でした。
劇団夜鐘と錦鯉『扁桃と虚天球』(2020.12)
(©️ 沖田大悟様)
学内施設以外の小屋でのチーフとしては2つ目の現場でした。時系列は飛びますが、繋がる話としてこの公演を挙げたいと思います。
(©️ 沖田大悟様)
この舞台の「世界」にも扉がありました。物語中でもかなり重要な要素として用いられた扉でしたが、この存在は役者さんのアクトによってのみ示され、開閉音などは付きませんでした。ただし、とある重要なシーンで「開けると外界の音が漏れ聞こえてくる」という演出があり、音による空間表現の選択肢の広さというか深さを実感できた気がします。全て鳴らすも挑戦、鳴らさないも挑戦、選んで鳴らすのはもっと挑戦なのかもしれません。それらのメッセージを主宰さんからしっかり受け取り、寄り添い応えることができる音響スタッフで在りたいと思います。
劇団森『寿限無寿限無後藤のウチ綺麗!徘徊久美子の不死鳥薬幽界薬春雷薬造れる心に臥す子供ラクダ料理のロバ料理うんこうんこうんこのボルケーノシャークボルケーノシャークのコーインダイコーインダイのпонедельник понедельникの以上九名の長助』(2020.2)
(©️ 犬みそか🐕🐩🐶様)
真面目な話をしたので、趣向を変えて。
補佐として関わらせて頂きましたが、あまり前面でお仕事をすることはありませんでした。が、その中で、強烈に印象深いのが
(©️ 犬みそか🐕🐩🐶様)
コイツ🦈の音声を録音したことです。仕込みや操作以外にも、こんなお仕事も稀にあります。ていうかコイツ喋るんですね。話を聞いたときは大爆笑しました。
👨 はーい、じゃあお願いしまーす。
🦈 🎙 シャァァァァアアアアア‥‥ク
👨 じゃあ次、ちょっと違うパターンでお願いしまーす。
🦈 🎙 シィィイイヤァァァァァァアアアアア‥‥ク
(©️ 犬みそか🐕🐩🐶様)
サメ、歌ったりもしてましたね。私の笑い声が入ってしまって録り直し、みたいなこともありまして。すみませんでした。
劇団くるめるシアター
『ワールドライン・アクト・ライト』(2020.12)
(©️ 沖田大悟様)
これは私が主宰でした。エイちゃん(第11話・第12話の記事を執筆した藤本エイスケさん)の手前言いにくいですが「映像と演劇の二刀流」を自称している私ですので、そういった意味での挑戦がメインになっている作品です。ただそのアイデアを形にできたのは、私が音響スタッフとして「できること」の引き出しがあったことが大きいと思っています。
(本編映像より)
このシーンでは、同じ役者が舞台上で向かい合って喋っています。もちろん画面を左右半分に割った合成映像ですが、かなりアナログな撮り方をしています。ちなみに、ネタバラシは初めてです。
まず上手側のよく喋る方のキャラの演技を撮影・録音します。このとき、下手側の方のキャラによる受け答えはプロンプ(正しい意味ではないですが)として投げてもらう。その場ですぐにその録音データからプロンプターの声を消す作業を行い、編集後の音声をスピーカーから流します。すると、スピーカーから流れてくる自分の声と喋るという形で、下手側のキャラの撮影・録音ができるというわけです。大変でしたね。
みんなぼ¬ち『明けない夜はない』(2020.12)
(©️ コトデラシオン様)
自分の映像作品など以外では初めてオリジナルの音作りをさせて頂きました。
(©️ コトデラシオン様)
フリー音源では理想のものが見つからないようなBGMやSEを用意できるのは、音楽系から音響の道に進んだ人間の強みだと思います。音響のお仕事をするようになってから作曲等にチャレンジされている方も私の近くにはいらっしゃいます。この公演では「iPhoneの着信音みたいなメロディーの無機質なBGM」と依頼され、結構悩みました。
舞台美術研究会『SENSE』(2021.7)
(©️ コトデラシオン様)
最後に、面白い試みを自分から持ちかけてみた例としてこの公演を挙げさせて頂きます。約半年ぶりの学館チーフ現場でしたが、実は1年代の頃からぶたびさんの研究公演でチーフを務めることを密かに目標にしていたこともありまして、とても充実した小屋入りをさせて頂きました。
(©️ コトデラシオン様)
上の写真のキャラクターは見ての通りロックンローラーですが、小道具としてスピーカーに繋いだ本物のマイクを使用しました。ミキサーのエフェクターでエコーとディレイをかけ、素敵な照明とともに本当にライブ会場さながらの演出になったと満足しています。
元々はスピーカーに繋いだりしない本当にただの小道具としてのマイクの予定だったんですが、作品の雰囲気やこの最高に熱いキャラクターを見て脚演さんに「スピーカーに繋げるマイクにしてみない?」と提案してみました。今回は脚演の柳瀬とは気軽に話せる仲だったからということもありますが、ときには自分が感じた工夫の余地や主宰さんらの想定の「少し上」を提案できる引き出しを持てると、スタッフとしても視野が広がってくる気がしますね。
以上、パッと思いついたものを挙げるだけで楽しくなってしまいました。次回もよろしくお願いします。
弌葉英晃
劇団くるめるシアター3年代
役者・脚本/演出・音響スタッフ。add9-RAYというソロユニットでは映像作品なども制作しており、12月にはユニット初の演劇作品『ob-(Re)-vious』をプロデュース予定。
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