「物語のつくり方」で読み解く「書く技術・考える技術」
ビジネス文書と「物語のつくり方」
ビジネス文書を上手に書くための勉強として、バーバラ・ミント著「考える技術・書く技術」を読みました。
「話の内容をピラミッド構造で整理し、それを物語として書くのだ!」というのが本著の主旨ですが、実践するのは難しいと感じます。
「考える技術・書く技術」の中では、ストーリーは大きく4つのパターンに分類されると説明されています。理屈はわかります。しかし文章を作る時、目の前にある複雑な状況をこの4パターンに押し込めるのはやや窮屈です。もう少しわかりやすくいえば文章に自信が持てず、本当にこれでいいのか?という不安と戦いながら文章を作っていました。
現実は複雑でこの4パターンにきれいに収まることはあまりなく、無理やり収めようとすると大事なものを削ぎ落としてしまう気分になります。なぜストーリーを4パターンに落とし込めるのか、落とし込めるのなら個別の話をストーリーにするのは難しいのではないか?と、ずっともやもやしていました。
こうした不安を解消してくれたのが「物語のつくり方」でした。物語を構成する要素とそれぞれの役割を理解することで、ビジネス文書を書く時の迷いがなくなりました。
シナリオ・センター式物語のつくり方とは、日本のシナリオライター養成スクールであるシナリオ・センターの講師 新井一樹氏が書いた本で、作家を目指す人に向けて書かれています。私は作家を目指しているわけではありません。人にものを伝える書き方の参考になったらいいなと思って読んだら参考になったので、物語のつくり方を通して考える技術・書く技術の内容について考えたことを残しておきます。
物語のつくり方①:ストーリーではなくドラマを描く
物語においてストーリーとは出来事の羅列を指します。世の中にあるストーリーは有限のパターンに分類されます。例えば、桃太郎は「最初は未熟な主人公が困難を乗り越えて成長し巨悪を倒す」という、"ヒーローズ・ジャーニー"と呼ばれるパターンです。ジャンプをはじめとする少年漫画を初めとして、”ヒーローズ・ジャーニー”に当てはまるストーリーは世の中に溢れています。しかし個別の作品にはそれぞれ違った魅力があります。ストーリーは同じでも、物語はドラマを描いているからです。
ストーリーは具体的な場面を切り取ったシーンで構成されています。それぞれのシーンで登場人物のアクションやリアクションによって生まれるのがドラマです。ドラマでは登場人物のアクション・リアクションに注目しており、感情移入を助けます。感情移入できれば読者の心を打ちます。ストーリーが有限のパターンに分類されるとしても、シーン x 登場人物 x アクション・リアクションで構成されるドラマは無限大になります。
優れた物語はドラマが魅力的に描かれています。「書く技術・考える技術」で主張されていた「ストーリーで伝える」とは、本書でいう「ドラマを描く」ということだったのです。
物語のつくり方②:自分や話を伝える相手が登場人物と考える
物語が魅力的であるためには、登場人物のアクション・リアクションに感情移入できる必要があります。舞台や場面設定は違っていても、登場人物が魅力的で、性格や悩みに共感できれば感情移入できるでしょう。
ビジネス文書を書く目的は、読者に行動や意思決定を促すためにあります。ビジネス文書における登場人物は、自分を含む関係者です。関係者がストーリーの中でどのようなアクション・リアクションをすることで結果に結びつくのかを魅力的に描くことで、読み手に伝わりやすくなるでしょう。
物語のつくり方③:起承転結で最も大事なのは転で、転を一番先に考えるべきだ
物語の展開のセオリーは「起承転結」と言われます。起承転結はそれぞれに機能があり、この機能を果たすように文章を書くべきです。
起承転結の中で最も重要なのは「転」です。「転」の機能はその物語のテーマであり、クライマックスです。すべての話は転を中心になされるので、まずは「転」を考えます。
転の次に大事なものは結です。結の機能は転のテーマを定着させることにあります。転で設定したテーマが解決された後の世界を伝えることが結の役割です。
起で伝えるべきことはたくさんあります。物語の5W1Hや解決すべき課題の背景といった、読み手に伝えるための前提条件をすべて書きます。最後に承です。
承の役割は主人公に降りかかる発生する事件や困難と、それらの解決です。4つの中では承の重要度がもっとも低いですが、クライマックスに繋がるまでの事件やイベントはすべて承となるので、分量は起承転結の中で最も多くなります。
ビジネス文書で書くべき「物語」は、読み手を主人公にした起承転結のドラマだ!
ビジネス文書は読み手に何かしらの意思決定や行動の促しを行うことを目的としています。ここまで見てきた「物語のつくり方」を通して、「書く技術・考える技術」にある「ストーリー形式で伝える」内容を追ってみます。
物語の力を借りるなら、共感しやすいように文書内に読み手を登場人物とした文章にするのが良いでしょう。共感してもらうためにはゲーム「ドラゴンクエスト」のように、目的や課題を持った人物像を想像するのが良さそうです。ビジネス文書においては物語のように具体的なキャラクター作りは難しいです。
「書く技術・考える技術」では、導入部のストーリー形式をSCQAで書くべきとあります。Sは状況(Situation)、Cは複雑化(Complication)、Qは疑問(Question)、Aは答え(Answer)です。これらの要素はそのまま物語の「起承転結」と置き換えられます。先程の起承転結をSCQAに置き換えて追ってみるとすっきりします。SQAはそのまま起・転・結と読みかえることができます。
問題は物語の承、つまりC(複雑化)です。私は「書く技術・考える技術」を読んだ時、SCQAをすべて同じくらいの重みで受け取っていました。
物語における承は「起から転結に向かうまでの布石であり、分量はあるが重要度は低い」要素でした。承は起から転に向かうまでの困難やイベントであり、課題や結論に至るまでの検討内容がすべて含まれます。つまりSCQAの重みが同じだと思っていたことが間違いで、承はピラミッドで整理した内容が書かれているべきところだということが腹から納得できました。
意思決定や行動の促しをするためには共感が必要なので、書くべきはストーリーではなくドラマであるべきです。ストーリーを整理したうえでシーンとして切り取り、それを読み手に合わせてドラマとして書けばよいのでした。
おわりに
物語のつくり方を読んで、ビジネス文書で書くべき「物語」は読み手を主人公にした起承転結のドラマを書けばよいということを学びました。
実践するには訓練が必要ですが、少なくとも「書く技術・考える技術」を読んだときに感じた迷いはなく書くことができるようになりました。
これからも精進してゆきます!
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