韓国人男性射殺に対する北側の釈明書簡
9月22日、勤務中の船から失踪した韓国の公務員の男性が北側の水域に侵入し、射殺されたとみられる事件が発生した。これについて韓国メディアでは様々な情報が飛び交っているが、25日、北朝鮮はこの事件について釈明し、また金正恩の謝罪の意を込めた書簡を韓国に送った。以下はその全文を訳したものである。
青瓦台(韓国大統領府)宛て
貴国(正確には「貴側」。南北は相手を国と認めていない)が報道した通り、去る22日夕、黄海南道康翎郡金洞里沿岸水域で正体不明の人員1名がわれわれ側の領海に深く不法侵入し、われわれの軍人らによって射殺(推定=原注)された事件が発生しました。
事件の経緯を調査したところによると、われわれ側の当該水域の警備担当軍部隊が、漁労作業中のわが(北朝鮮の)水産事業所副業船から、正体不明の男性1名が発見されたという申告を受けて出動し、康翎半島沖のわれわれ側沿岸に浮遊物に乗って不法侵入した者に80メートルまで接近して身分確認を要求したが、最初は1、2度「大韓民国」の某とごまかして返答しなかったといいます。
われわれ側の軍人らの取り締まり命令に口を閉ざし続け、応えないため、さらに接近して2発の空弾を撃つと、身を伏せて正体不明の対象(韓国人男性を指す)が逃走するかのような状況になったといいます。一部の軍人らの陳述によると、伏せながらなにかを被ろうとするような行動をしたのを見たとも述べました。
われわれの軍人らは、艦長の決心の下、海上警戒勤務規定が承認した行動準則に従って10発余りの銃弾を不法侵入者に向かって射撃し、このときの距離は40〜50メートルだったといいます。
射撃後、なんの動きも音もないため、10メートル余りまで接近して確認、捜索したが、正体不明の侵入者は浮遊物の上にはおらず、大量の血痕が確認されたといいます。われわれの軍人らは不法侵入者が射殺されたものと判断し、侵入者が乗っていた浮遊物は国家非常防疫規定(新型コロナウイルスの発生に伴い、北朝鮮で取られている防疫規定)に従い、海上現地で焼却したといいます。
現在までにわれわれの指導部に報告された事件の顛末に対する調査結果は上の通りです。
われわれは、貴国軍部がなんの証拠を元に、われわれに不法侵入者の取り締まりと取り締まり過程の解明に対する要求もなく、一方的に憶測で「蛮行」「相応の代価」といった不届きで対決的カラーの濃い表現を選んで使っているのか、大きな遺憾を表さずにはいられません。われわれ指導部は、起こってはならないことが発生したと評しつつ、このような不祥事が再発しないよう海上警戒・監視および勤務を強化し、取り締まり過程で些細なミスが大きな誤解を呼ぶことがないよう、今後は海上での取り締まりの全過程を収録する体系(取り締まりの過程を録画するということか)を確立せよと指示しました。
わが方は北南間の関係に明らかに面白くない作用を起こす出来事が、われわれ側の水域で発生したことについて、貴国に申し訳ないという気持ちを伝えます。われわれの指導部は、このような遺憾な事件によって、最近、多少なりとも積み上げてきた北南間の信頼と尊重の関係が壊れないよう、一層緊張感を持って警戒し、必要な安全対策を講じるべきだということについて繰り返し強調しました。
国務委員長金正恩同志は、ただでさえ悪性ウイルスの病魔の脅威に苦しんでいる南側同胞を支援するどころか、われわれ側水域において思わぬ不始末が発生し、文在寅大統領と南側同胞らに大きな失望感を与えたことについて、とても申し訳なく思うとの意志を伝えよとおっしゃいました。
発生した事件に対する貴側の正確な理解を望みます。
朝鮮労働党中央委員会統一戦線部
2020年9月25日
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2008年に金剛山観光のツアーに参加していた女性が軍事区域に侵入して射殺された際には、北朝鮮は謝罪をしていないものと記憶している。
今回は北側水域に侵入した(これは韓国側からも確認されている)丸腰の一般人を射殺するという明らかに過剰な反応をしたとはいえ、金正恩の謝罪の言葉と今後の対策について言及した書簡が送られてきたというのは、大きな変化であるといえる。
ただし、韓国メディアの記事だけを読むと「謝罪の手紙」という印象だったが、全文を通して読むと、「なんの連絡もよこさずに勝手な推測でものをいうな」というイラつきのような感情も読み取れる。
「どうせ北朝鮮は話が通じない」「問いただしても無駄だ」という諦念が韓国(そして日本をはじめとする他の国に)にあるのは確かだ。しかし、北朝鮮を異常な国としてのみ見るのではなく、国際社会の一員として扱う姿勢が、もしかしたら今後の対北朝鮮政策のキーとなるのかもしれない。
ちなみにこの書簡は、26日午前3時現在、北朝鮮メディアでは伝えられていない。
青瓦台のサイトに掲載された原文はこちら
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