見出し画像

私のお財布

レザークラフト製品の販売をはじめて10年が過ぎた。
全て一人の手で作っていて、作り手としてはまだまだ未熟ではあるが誠心誠意なんとか買い手にお届けしている。

販売を始めたのは、この長財布を作りたかったから。
構造はシンプルで、蓋のない箱形状を折りたたんでお財布にしている。
だから開くと中身が一目瞭然で見やすい。
10年前はスマホも今ほど便利ではなく、電子マネーもないし、ポイントカードがどんどんたまってお財布に入りきれなかったので、カードを沢山詰め込める設計にした。

懸念したのは革の柔らかさ。
一般的な革のお財布は内側に布を貼っている。補強や延び止め、型崩れを防ぐなど重要な役割があるのだが、このお財布は裏布を貼っていない。これは貼れる技術がなかったからという理由が一番だが、個人的にこれまで市販のお財布を使っていて、内側の綺麗な布がだんだん汚れていくのが嫌だったという理由もある。どうせ汚れるなら革の裏側のままの方がずっとましだ。

そして、中にしっかり物が入ることで柔らかい革でも型崩れせず使えるお財布として販売した。柔らかくて頼りないけど、そこそこ高価なお財布だから、当初は不安が大きかった。けれど、この柔らかさがいいと言ってくださるお客様が思いの外いらっしゃって、少しずつ自信につながった。

あるお客様から、この半分の形のお財布は作れないかとリクエストをいただいた。実は私も作ってみたかったのだ。いろいろ試行錯誤して作ったのがハーフウォレット。

これには大きなデメリットがある。お札の入れ方だ。二つ折で入れる。折らずに入れることもできるが、長財布の出し入れのスムーズさに比べたら格段に出し入れしにくい。

作った頃は、まだまだ長財布全盛で、ハーフタイプは男性が衣類のポケットに入れて使うお財布というイメージが強かった。だから、財布の特徴的な留め金具の凸は弊害にもなる。作ってみたけど、さほど流通せず作るのやめようかと思い始めたのが3年ほど前。

そんな矢先、夜遅くに突然インスタやらオンラインショップから注文や問い合わせが相次いだ。以前購入してくれたお客様がYouTubeで紹介してくださったのだ。その紹介するお財布の姿は、なかなかの使い込まれ具合でくたくたなフォルムなのだが、これを見て欲しいと思ってくださる人たちに驚くと同時に、使い込む楽しさを理解する人たちがいてくれているようで嬉しくもあった。

あれからも、世のお財布事情は急速に変わり、必要なくなる日ももう目の前に来ている。それでも、先日も、柔らかくて使いやすいから人にプレゼントしたいと問い合わせをいただいた。こうして、再購入、再々購入をしてくださるお客様が少なからずいることが、作っていて良いんだと思わせてもらっている。ずっと欲しいと思ってお金貯めてやっと買えた!と言ってくださる人も何人もいる。とてもありがたく身が引き締まる。

このお客様のおかげで製品を作ることに少しずつ自信を持てるようになった。全くもって安価ではない価格を認めてくださるお客様にやっぱり選んで良かったと思ってもらえるように、これからも自身で作り、使いながら魅力を見出し製品に還元させていきたい。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?