冬晴れのコーンスープ
「あ、ある…!」
ようやく、ようやくこの季節が来たのだ。
1列増えた「あたたか〜い」コーナー。
そのすみっこに、私の待ちわびた缶が鎮座していた。
じっくりコトコトとろ〜りコーン。
いそいそと財布をあけて小銭を取り出す。
ガコンと音を立てて、小ぶりな缶が落ちてきた。
コーンが偏らないように、よく振ってからプルタブを引く。
なめらかなスープ、甘いコーン。
これが冬の出勤前の幸福というものである。
ゆっくりスープを飲み干して、缶を覗く。
あれだけ振ったのに、4粒も取り残してしまった。
口を開けて上を向き、缶の底を叩く。
歯に缶が当たって間抜けな音がした。
「加藤さんだ、おはようございます」
ひゃ と声が出た。同僚の小野寺さんだった。
最後のコーンに必死な姿を見られてしまっただろうか。
「おはようございます」
「加藤さん、こんなはやくに出られてるんすね」
「いえ、今日ははやく行って昨日残したぶんやろうと思って」
「あーなるほどっす」
彼は流れるように自販機にSuicaをかざし、コーンスープのボタンを押した。
「加藤さん、コーンスープはね、振るんじゃなくて回すんスよ」
小野寺さんはスナップを効かせて缶をグルグル回し、プルタブを引いてひと息に飲んだ。
シャクシャクシャク、と全てのコーンを噛み砕き、片目を瞑って缶を覗く。
「ね?」
突き出された缶は、見事に空っぽである。
「お見事です」
よく晴れた冬の空の下、スープでぬくもった二人の息が白く光った。
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