見出し画像

自殺ラーメン

「別れよう」
一年記念日を目前にして、私は彼氏にあっけなく振られた。
もう街灯もまばらになった帰り道、テナントのガラスに映る自分を見る。
綺麗に伸ばして巻いた髪も、炭水化物を摂らずに凹ませたお腹も、寒いのに無理して履いたスカートも、全部あなたのためのものだったのに。
白い光に寒々しく照らされた私は、悲しいくらい完璧な女の子だった。
愛されないなら死んでしまおう。コンビニでカッターでも買って帰ろう。
カッターナイフの包装を握りしめ、ふと「最後の晩餐食べなくちゃ」と思い至った。
そういえばとてもお腹が空いている。
深夜のコンビニの棚にはもうあまり商品が無かったが、私はラーメンを選んだ。
黄色いパッケージにでかでかと「ワシワシ麺 煮豚 野菜 背脂ニンニク」と書かれている。
普段なら恥ずかしくて絶対にレジに持って行けないけれど、これから死ぬと決めた私は無敵だった。
レジで温めてもらって、駐車場の車止めに腰かけて蓋を開けた。
湯気が頬にあたたかい。
塩分と油分にまみれた麺をすする。
こんな身体に悪い食べ物、いつぶりだろう。
彼と付き合いはじめてから避けてきた養分は、意味がわからないくらい美味しかった。
「そっか、私今日からラーメン食べれるんだ」
泣いたあとのしゃっくりが喉に残っている。
少しだけ空が明るくなった。
もうすぐ夜が開ける。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?