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学園アイマスが話題の今こそ、原点に触れてみませんか(アイマス ONE FOR ALL 感想)

はじめに

 世はアイドル戦国時代。技術の進歩によって80代のおばあちゃんも、既婚者もアイドルをする推しも推されぬ群雄割拠の様相である。バーチャルアイドルの先駆者であるアイドルマスターもついにver3.0を数え、満を持して発表された「学園アイマス」は「唱/Ado」の記憶も新しい日本を代表するトラックメイカー Giga 氏の楽曲によって覇権の予感しかしないPVが発表された。拙くも不敵で妖艶な花海 咲季【はなみ さき】(CV: 長月あおい)のボーカルが Giga 氏の硬質な音と絡み合い最高にクールだ。

 このまま人類の技術が進歩しやることがなくなったら、大人も子供もおねーさんも全員アイドルになるような時代が来るかもしれない。常に人は誰かを推し、そして推される。そんな時代に乗り遅れる前に意識の高い諸兄は、学園アイマスをプレイする前にアイドルマスターの原点ーー「765プロ」を予習したい、と思ったりしないだろうか。いや、思うだろう。

 しかし、アイドルマスターシリーズは決して平坦な道のりを歩いてきたゲームではない。竜宮小町の仲間外れ、男アイドルの出現による炎上、ポケモンライクなバージョン分け商法と星井美希の謎の移籍、いつだって、先駆者の道のりは険しく、今となっては地雷と呼ばれる作品がいくつもある。

 そんな中、今765プロを学ぶとすれば、XBOX 360 の「アイドルマスター」か、炎上の酸いも甘いも経験した後に落ち着いた、アニマス勢に親切なPS3の「アイドルマスター ONE FOR ALL」なのではないだろうか。 確かにより意識高くいくならば XBOX 360 をこのためだけに新規購入して(実際、そういう人は多かったらしい)無印をやるべきではあると思うのだが、僕はアニマスからアイマスに入ったこともあり、「アイドルマスター ONE FOR ALL」を選んだ。

 結論としては、結構よいチョイスだったのではないかと思う。というわけで、今回は「アイドルマスター ONE FOR ALL」 の感想を書いていく。

 以降、ネタバレを含む。


ストーリー

全般

 いかなるゲームにも物語は大事、とはいえ、アイドルはアイドルだ。基本的には小さい事務所(学校)から出発し、大きなステージに飛び出していくサクセスストーリーになるだろうし、そうあるべきだとも思う。ONE FOR ALL も例に漏れずそうなっている。

 しかし、そんな王道なはずの ONE FOR ALL のシナリオは、正直言って粗削りで電波である。アイドルマスターのシナリオは独特で癖があり、途中出てくる選択肢も正解を選ぶのは難しい、とは聞いていたが、これほどとは。

 一つ例を出そう。これは男の子が怖くて引っ込み思案で清楚な「萩原雪歩」の最後の触れ合い(コミュ)における選択肢である。

河原で偶然出会った雪歩 何故か頬を赤らめて待っている
え、タッチコミュニケーションなの!? どうしろと

 さて、ここでどこを触るのが正解かわかった方はいるだろうか。いかにもキス待ちっぽいし、まあ、大体アイドル育成ゲーはプロデューサーに惚れるものだから、口にちょんと触れるぐらいが正解だと考える人が99.99%だと思う。……正解は、胸に触るである。

いやそれは意味が分からないよ

 画像で胸にタッチカーソルが当たっていたのは初期位置でもセクハラでもなんでもなく、正解ポイントを示したというわけだ。……いや、こんなの今のポリコレ基準ならアウトでしょ(そもそも触るという選び方自体が排除されそうである)。雪歩の応答も意味が分からず、これ、ただ胸に触ることを正解にする、からスタートしてシナリオを考えたとしか思えない。

 まあただ、このコミュだけ切り取るならば、文脈は多分ある。無印版でカルト的な人気をほこり初期のアイマス人気の火付け役となった(らしい)星井美希の伝説的コミュ、「セクハラP」のライト版、である。
 ※視聴の際は普通にちょいエロ注意

 「あのバンダイナムコがこんな軟派なシナリオを書くのか」とニコニコ動画で話題になったというこのシナリオだが「セクハラを防ぐ練習したいの」って、強引にもほどがある。今は覇権のコンテンツも初期は粗削りでエロを飛び道具にしていたんだな(Fate だって最初はエロゲだったし)……なんて微笑ましく映らなくもないが、しかし、別にシナリオやプレイヤーに選ばせる選択肢が粗削りで飛んでいるのは雪歩のコミュに限った話ではない。

 例えば水瀬伊織シナリオの選択肢で、いかにもな「765ぷろのみんなのこと」を選ぶと「それもあるけど……」みたいに濁されたり。

表情から大体シナリオは察してほしい。この選択肢で「765プロのみんな」じゃないなんてある?

 例えば我那覇響コミュの謎の高難度選択肢だったり(さんぴん茶用の粉を何に混ぜるかという選択肢。なんと、自販機を何も押さないのが正解)。

 例えば星井美希シナリオで突然美希が「アイドルやめるね」なんて言ったりする。いや、それだけなら良くあるドラマだと思うが、挫折からくるのではなく、ランクが上位になり手ごたえを感じてきたタイミングで「アイドルをやって真剣に物事に向き合うということを学んだ。だから、今まで向き合わなかった勉強とか部活とかにちゃんと向き合いたいと思ったの。」というもっともらしいことを言い始めるのだ。

 確かに美希はアイマスの世界でも上位の美人で、かつ大体なんでもできる才能ゆえに熱中することができないというアイシールド21の阿含のようなキャラなのだが……こんなことを言われてはこちらも簡単にはとめられない。そこでプロデューサーたる僕が「うーん」とうなっているとさらっと「ウソ、大ウソなの!」と言ってくるのだ。

 いくら不真面目さと気まぐれさが魅力の美希でもそれはさすがにないでしょ、と僕は普通に怒ってしまった。この後のランクアップでは、プロデューサーが好きという気持ちが実は大きなモチベになっているようなことを言い始めるので、プロデューサー(好きな人)が本気で困ってる姿を見て安心してアイドルを頑張ると決めた、という解釈が正しいんだろうけど、唐突さはやはり否めないなと思う。

 アニマスではこのあたりが、恐らくプロデューサーが自分の分身ではなく赤羽根Pという一人のキャラに明確になったことによって、大分マイルドになっていたんだろうなあと思う。このちょい飛んだシナリオと、好みや過去のやり取りを覚えてるぐらいでは到底正解を選べない、ギャルゲーにしてはやたら難しい選択肢こそが、初期のアイマスらしさだったのかもしれない。名作とは、どこか尖っているものなのだ。

 最後に、全キャラのランクアップエピソードをここに並べてみる。アイドルはランクがあり、E→D→C→B→A→Sと上がって、Bぐらいで大体ひと悶着ある構成になっている。13人全員プロデュース可能が売りだけあって、脇道エピソードの分量はかなりの量があるし、ちゃんと所属アイドルが誕生日の日は誕生日を祝うホワイトボードになっていたり小ネタも満載だ。

こういう小ネタはうれしい

 トロコンした僕も到底全部見切れていないので、物量は申し分ない。気になる方はぜひやってみて欲しい。

天海春香

 ファンをこよなく愛す少し自信がない普通の女の子が、海外のアイドルフェスに推薦され、世界に羽ばたく。王道シナリオだが、ファンミーティング中に勝手にマスコミが入ってきて、ファンミーティングができなくなるという展開には若干の強引さを感じた。そんなことあるんだろうか……。そんなことあったら春香も落ち込むよね。

如月千早

 暗めの生い立ちもあり、歌以外に興味がないストイックな彼女に対して「歌にこだわらない」プロデュースをすると決める。そして幸せになった彼女は歌えなくなるが、そこがスタート地点だと励ます。これは特に非のない良シナリオだった。

星井美希

 なんでもできてしまうし天性の美貌で常に褒められているがゆえにやる気のない彼女が、だんだんアイドルに熱中し始めて、プロデューサーのことが好きになって、それをモチベにトップアイドルになる。上述の通り、シナリオの気持ちの落とし方が極端で少し振り落とされたが納得はしている。なお、雪歩と似たコミュがあるが、雪歩と違って美希はちゃんと口にタッチするのが正解である(む~なんで指なの、とか言われる。まあ、普通こういうシナリオになりますよね……)。

萩原雪歩

 道端の捨て犬(苦手)を飼うことで自信をつけて羽ばたいていく話。きちんと飼ってくれるか心配だったが、そこは流石にしっかり世話をしてくれたみたいだし、元の持ち主も見つかってハッピーエンド。綺麗なシナリオだが、最後の最後で胸にタッチするコミュで突然ぶっとんだ。本当に正解がわからなかったよ……。

高槻やよい

 家族のために働くのが当たり前の彼女が、自分を大切にすることに気づく話。真面目でまっすぐなやよいが、まっすぐゆえに高校に行かずアイドルだけをやるという選択をしそうになって嗜めるのは、珍しく大人なプロデューサーと言える。これも普通に良シナリオだった。

秋月律子

 自分はプロデューサーが本職といいつつ、主人公に乗せられてトップアイドルになっていき、その稀有な経験をプロデューサーに生かしていきます、という話。王道だが、珍しく少しインパクトが薄かったかも。

三浦あずさ

 包容力があるがゆえに、お母さんと言われて悩む。今の時代なら、むしろママみはアイドルとしての強みになったかもしれないが、本作は2015年。約10年前だ。アイドルになるためにプロデューサーに男の人のことを教えてほしいと頼む。……健全な意味で(?)。まあ、CERO:C(15歳以上対象)だし、これぐらいはいいか。

水瀬伊織

 名家の出で自分を認めてもらうために奮闘する。最後には父親から「仲間ができたんだな」と電話で認められる。悪くはないが、突然ワンピースのキャラみたいなことを言い出した父親は何がしたかったんだろうと、少し説明不足ではあるなと思う。

菊池真

 これは真君の王道。男の子に見られるけど、本当は女の子に見られたい、という葛藤のお話。なんとプロデューサーがファンを装って手紙を送ることで強引に解決する。一つ間違うと信頼を失いかねない手段を取るプロデューサー、やってることがかなり危うい……真くんが素直に受け取ってくれる子でよかったね。

双海亜美

 双子の妹。双子としてのデビューが一番話題になって、そこから低迷という結構冗談にならない悩みを抱え、双子という属性に頼らずにトップアイドルを目指すために、大好きな姉と離れ時に迷走しつつも、最後は真美のサポートもあって自身のアイデンティティを確立する。かなりシリアスで、唐突さもなく、屈指の両エピソードだと思う。

双海真美

 基本的に悩みは亜美と同じで「アチマカ計画(亜美とは違う真美、カッコイイ! 計画)」を立案するのだが、なんやかんやあって亜美のことを切り離せない自分のことを冷静にとらえなおす。亜美よりどこかあっけらかんとして堂々としており、自分自身で考えて立ち直る。流石姉である。

四条貴音

 謎の使命とやらに奮闘し、使命なんてやめてもいいんだぞ、とプロデューサーが声をかけることで、逆に覚悟を決める。いや、全然わからないので雰囲気で読みました。彼女に関しては存在が割と電波である。アニマスですらつかみどころがなかったからな。実はあえて、彼女のバックグラウンドを詳細に決めていないそうで、想像に任せたということだろうが、普通「……という思い込みの激しい女の子」というキャラに落とし込みそうなもので、このキャラ造形自体が結構攻めているなあと思う。

我那覇響

 これも屈指の良エピソード。沖縄から出てきて地元との別れを経験した彼女は、途中までバイトと掛け持ちをしているのだが、忙しくなっても、バイトのメンバーと別れたくなくてやめられない。しかしバイト側もそれを理解していて……というシナリオで、ペットを飼いまくっているという設定をさらに深堀りする、心温まる物語だった。彼女は寂しがり屋なんだね。

 千早、亜美、響が特によかった。なんかこうやって並べてみるとシナリオは堅実で丁寧な良エピソードも多いなと思う。765プロのメンバーは、アイマスの文化の始まりだけあってキャラがとても立っている。シンデレラなど後発のシリーズは、この初期メンバーの確固たるキャラとの差別化に奮闘した歴史なのかもしれない。

システム

 これは非常に面白かった。育成はオーディション・ライブ・フェスとあるがどれも基本的に音ゲーのようなスタイルで行われる。しかし、ノーツが流れてくるわけではなく、リズムに従って「VOCAL、VISUAL、DANCE」のどこを強調するかを指示していく、というものだ。

 「プロデューサーなのだからステージでは指示を出すはず」というアイドル育成シミュレーションとしてのこだわりを強く感じるものになっている。音ゲーが嫌いなわけではないのだが、このこだわりはとても好きである。

一定のリズムのため、アイドルのパフォーマンスを見ることに割と集中できる

 ずっと同じリズムのため、音ゲーより作業感は増してしまうものの、じゃまなノーツがない分、自分で選んだ多種多様な衣装でアイドル達が踊る姿に注目しやすい。また、ベストスコアを出すには、アイドルのスキル(とそれに伴う能力値、例えば美希はVISUALが一番高い)と楽曲の持つ得意ジャンル(歌を聴かせるのか、ダンサブルなのか、可愛さなのか、と、これも面白い。なぜかあずささんの「隣に……」が VISUAL 特化曲だったり)との相性を考えたりしなければならず意外と奥が深い。

 アーケード時代や無印(XBOX 360)はもっと「指示」が全開となっていてリズミカルな部分がなさすぎるなと思うし、最近は普通に音ゲーになっているところもあるので、この ONE FOR ALL のゲーム性と作業のちょうど間を取るシステムはかなり良くできているのではないかと思う。

音楽

 当然アイマスなのでプロデュース楽曲が選べるのだが、「エージェント夜を往く」がなかったりと、原初の有名曲よりもアニマス勢が満足するように揃えたというラインナップ。アニマスの「READY!!」「CHANGE!!!」「M@STERPIECE」がしっかり押さえられており、特に「M@STERPIECE」はテンポもゆったり目なのでここちよく育成ができた。

 なお、一定のテンポで指示を出す関係上バラードはあまり収録されていないのだが、「隣に……」だけなぜか倍速テンポで指示をすることを前提に収録されている。倍速で指示させられるのは、課金コンテンツではない全楽曲のなかで「隣に……」だけである。アニマス勢が名前を聞いただけで涙を流す「約束」も「眠り姫」も収録されていない千早と比較して、歌い上げる系のあずささん持ち曲「隣に……」の異彩。誰か、この曲が大好きな人が製作陣にいたのだろうか。このゲーム最後の謎である。

おわりに

 というわけで、遅ればせながらのコンシュマーゲーム版アイマス体験だったのだが、粗削りで電波なところもありつつなんだかんだ上手くまとまってる気がするシナリオ、音ゲーと作業ゲーの中間で、アイドルを眺めるのにちょうどいいゲームシステム、アニマス勢に配慮した楽曲群など、ONE FOR ALL はかなりの良作で、かなり楽しいゲーム体験だった。

 これからも「学園アイマス」など「3.0」を冠したアイマスプロジェクトは発展を重ねていくし、魅力的なアイドルはこれからも増え続ける。でもその熱量に少しだけ疲れた時には、名作であるアニマスを見返して、本作「ONE FOR ALL」で初心に帰るのもいいんじゃないだろうか。

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