おしゃれなお馬さんたち

ばんえい競馬を見たことがある。青森の祖父母の家に遊びに行った時、明日ばんえい競馬があるらしいよおじいちゃん行くんだってと父親が教えてくれた。えっ行く!!! と答えると、えぇ朝早いよ起きれる? と言われた。
起きると答えて、まあ6時くらいに起きればいいだろうと父親と話したが、私が起きるより早く祖父は会場に向かってしまって既にいなくて、私たちが着いた頃には、たくさんの馬が 森より林 の中にある草原の、明らかにこのために作られたのだろう砂地を闊歩していたし、青森にきてからは見たことがないくらいのたくさんの人、おじいちゃんが集まっていた。予想はしていたけどやっぱりカジュアルな雰囲気で、みんなのお楽しみ会、という感じだった。名称としても馬力競馬と呼ばれているようだった。みんなお金かけてなかったのかな? わからない。
農家の朝は信じられないくらい早いけど、調子としてはのんびりしている。田んぼに行く時、祖父に軽トラックの荷台に乗せてくれとせがんでも、危ないからと却下されて荷台には祖母が乗った(それはええんかい)。田んぼは森の近くにあって、私は農作業がわからないのでとんぼを眺めて過ごした。全然退屈しなかった。祖母の作る煮しめも、よもぎだんごもとてもおいしくて大好きだった。
今思えば父親はこんな場所で育って暮らしていたのに、仙台と言えど青森よりは都会で働いて、とてもつかれていたんじゃないかと思う。

馬たちは筋肉隆々としていて競馬中継で見るサラブレッドより断然たくましく、なんでこんな強そうな(実際に人間よりめちゃくちゃ強い)が人間の言うことを聞いてくれるんだろうと感動していた。どの馬の長いたてがみもしっぽも、三つ編みや編み込みをされた上で飾りがつけられていた。
ムキムキマッチョなこの馬たちは、おとなしくされるがままになって人間に飾りつけらて、大きなトラックに乗せられてここにやってきたのだ。競技が始まれば人間は、自分では1ミリも運べない、信じられないくらい重たい荷(1tとかあるらしい)を馬に曳かせて、鞭で打つ。でも、馬たちのたてがみを飾りつけているのも人間の手だ。平静に馬を家畜として見ながら、でももちろん感謝して慈しんでいる。なんて切なくて、なんて美しい所業だろうと思った。進み始めた馬が第一の障害を越えて、第二の障害の前で武者震えながらにらみ合って立ち止まり、そしてまた走り出す。目が離せなかった。

走る馬を見たのはもう10年以上前になる。でもよく思い出す。あの頃使っていた携帯のバックアップを取り損ねて、今手元に馬たちの写真はない。またあのやさしい目をした、力強く美しくて大きな馬たちが、真剣な面持ちで駆けていく姿を見たい。

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