特殊条件で死や致命傷を踏み倒していたが完全に死んで焦る

※今回は複数作品のネタバレがあります。
作品によっては「誰かが完全に死ぬ」だけで結構ネタバレになるので何の作品のネタバレかすら知りたくない方はこの先も読まないほうがいいかもです。

フィクションでは不死、(本人もしくはサポートメンバーの)超回復能力で半不死、時間や現象巻き戻しによる死の無効化など様々な死及び致命傷の回避条件があります。
それを利用して様々な危機を逃れたりちょっと無茶したり死にながら戦ったりが面白いんですがその分読み手に「どうせ死なないしな、なんとかなるだろ」という気の緩みが生じかねません。
そこで条件をすり抜ける、適用範囲外、根本的に使えなくなるなどでやり直せない確定の死がくるときゅっと緊まるので面白いんですよね。

点線以下は今回扱う書籍です。
重ねて、ネタバレを含みますのでご注意ください。
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『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』
『タコピーの原罪』
『Thisコミュニケーション』
『レディ&オールドマン』
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荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』
特殊条件:ジョルノのスタンド、ゴールド・エクスペリエンスによる自他への超回復
死者:アバッキオ、ナランチャ
死因:ボスによる攻撃
条件の無効要因:パーツの置き換えや傷の回復はできるが死んでからだと手が施せない(能力適用範囲外)

ジョジョ5部は超回復キャラが出てきて欠損貫通ばっちこいなんですが特に5部後半の指やら腕やら欠けまくるとこはすごいですよね。イルーゾォもびっくりだよ。
だから生き返せるんじゃないの?とも思うんだけどあくまで傷を治すの超強化版だから生きてないと無理なんですよね。
アバッキオが死んだ時ナランチャが「生き返らせろ」→死体にぶつかり、「物」になったと感じる→「置いていくのは嫌だ」
に切り替わる感じ凄く苦しくて好きです。
ナランチャの死があっけなさすぎるのも切ない。


タイザン5『タコピーの原罪』

死んだ?

特殊条件:ハッピーカメラにより任意の地点への時間巻き戻しが可能(死を含む現象の帳消)
死者:雲母坂まりな
死因:ハッピーカメラによる撲殺(タコピー)
条件の無効要因:撲殺時の衝撃もしくは血液で濡れたことでハッピーカメラが故障する(特殊条件が使えなくなる)
※2021/12/31更新時点の登場人物の判断による情報のため完全な死、完全な故障かは未確定

ジャンプラで『ハイパーインフレーション』と並んで更新が楽しみな作品です。めちゃくちゃいい。ドラマにまぎれがちですが演出や細かい描き込み、アクションにも注目です。短期連載なのは悲しいけど嬉しいですね、きちんと終わることが決まっているので。
ハッピー星からハッピーを広めるため地球に訪れたハッピー星人タコピーはそこで出会った暗い表情の少女しずかちゃんにハッピーを分け与えるべく奮闘します。その過程で突然自殺してしまうしずかちゃん。なぜ?何があったの?どうすればふせげるの?写真を撮った時に戻れるハッピーカメラを使ってしずかちゃんの死を防ぐためタコピーのループが始まり…という話です。かなりざっくりですが。

何度目かのループ。しずかちゃんへの壮絶ないじめの主犯のまりなちゃんがしずかちゃんを森に呼び出して暴力を振るう場面にタコピーも居合わせます。まりなちゃんを止めて話し合うため飛び出したタコピーは勢い余ってハッピーカメラでまりなちゃんを殴打してしまいます。額から血を流し横たわるまりなちゃんを見てやり直そうとハッピーカメラを操作しても動かない、まりなちゃんも動かない、それを見てしずかちゃんは「魔法みたい!」と今までで最高の笑みを見せるのでした…。

めちゃくちゃよいですね、一話のタコピーね「死んだ?(やばい、なんで、どうしよう)」としずかちゃんの「死んだ?(本当に?やった!魔法みたい!)」がリンクしてるが演出の妙。すごく好き。
ループがここで(恐らく)使えなくなりますか「しずかちゃんが死なないようにする」はいじめの主犯を取り除けばほぼ解決するから実はもう不要かも?というのも味わい深い。次が気になりますね。


六内円栄『Thisコミュニケーション』

デルウハはその後一時間考え続けたが思い付く答は一つであった

特殊条件:改造人間ハントレスは死んでも8時間後に死の1時間前の肉体で蘇る。記憶も1時間前に戻る。(超回復、不死)
死者:7番目のハントレス
死因:ナイフによる刺殺(デルウハ)
条件の無効要因:7番目は不死ではない(推定)
※単行本5巻時点の登場人物の判断による情報、死んだと思われたがその後遺体の傍に髪形が違うが髪飾りと顔が同じ人物?が立つコマがあり詳細は不明

細かいあらすじは省きますが、ざっくりいうと地球外生命体に侵略された地球で超合理的な軍隊長が不死身の改造少女兵・ハントレス6人を都合が悪くなる度に殺して記憶消去でやり直し、より良い兵隊を仕上げる特殊ループもの。回を経るごとに単純やり直しではなく殺しのごまかし、時間制限、6人の関係性と隊長への信頼、新種の敵など非常に複雑な条件が絡み、毎回様々な事件が起きます。作者めちゃくちゃ頭いいんだろうなと思わせる。

ある日実験中に脱走したという別種のハントレスを連れ戻そうとしたデルウハ。発見した少女に締め殺されかけ咄嗟に殺してしまいます。7時間が過ぎて死体をみると一向に回復した様子がない、まさかこの個体は不死ではないのか…?という惨事。どうするデルウハ。

殺したら普通に死んだ、というのは「取り返しがつかないこと」に特殊設定で取り返しがつくことに慣れてしまっていてからのどうしよう、なので超面白いですね。
この作品は一話ごとに作者コメントがあり「ネーム難航しました」とか「演出が上手くいきました」とか書いてあり楽しいんですが、この回では「生き返ると思って殺したら死んでしまった話は連載前からやりたかった」と述べていてまさに今回の趣旨ですね。
このコメント、先述の通り複雑な特殊ループ陰謀サスペンスなので、気さくな制作秘話で作者の超然性や神秘性は薄れる感じありますが裏話的なのはいくらあってもよいですよね。
『Thisコミュニケーション』本当に面白いので是非。
地味に好きな設定、エスペラントが浸透してること。カパーオ(エスペラント語で河童)。


オノ・ナツメ『レディ&オールドマン』

君…やってくれたね

特殊条件:不老超回復能力
死者:紳士
死因:ナイフによる刺殺(ラス)
条件の無効要因:正確には不老不死ではなく不老超回復のため、即死や死が訪れる前に回復が間に合わない場合は死ぬ(能力適用範囲外)

オノ・ナツメの初の特殊能力ものですがまじで面白いしかっこいいし台詞も演出もキレキレですごい。特にシリアスパートの影の濃さが良い。

青年ラスが友人の紳士から飲めば不老不死になれるという彼の血液を渡され飲む(紳士も不老不死)。紳士から腕にナイフを当てられても傷は瞬時に治った。老いないふたりで旅に出ようと誘われるがまだ信じていないと告げると、紳士はラスにナイフを渡し「もっとインパクトがいるかな。私の腕を上から刺してごらん、ただのショーだよ」と唆す。その後の展開で紳士が煽った結果、ラスは「腕じゃなくてもいいんだよね?」と紳士の胸元を突く。紳士は昏倒しながら「不死ではない、死が訪れる前に回復が間に合わない場合は死ぬ」と告げ、思わぬ事態に自嘲と諦めを交えた笑みを浮かべラスに遺品とメッセージをのこすのであった。
細かい部分割愛してて、ここで一番重要なのはラスと双子の兄ロブ、彼らの関係性なんですが気になったら本編読んでね。あらすじより断然深みがあるので…。
文章にすると冗長なんですが感情の動きとか緊張感を絵と少ない台詞で表すのがうますぎる、作中でも屈指の技巧が効いたシーンです。暗い部屋の光と影、血液の描き分けの画面構成も凄い。
経験豊富で余裕綽々な紳士がラスを煽ったら想像以上の行動をされて自嘲しながら永久の命を手放すシーン本当にいいですよ、色気がある。


やはり不死や超回復は慢心というかなんとかなるでしょう感が読み手よりも作中人物にあり、その余裕が崩れて慌てふためくとこがいいんですよね。

『ダンジョン飯』も「ダンジョンの中では魂と肉体が離れにくいので肉体があれば蘇生可能」という条件があるけど炭化や細分化では蘇生できず、そもそも蘇生を行うためには発見されなければならないため、「これはやばい…!」という死に方があってスリリングですね。

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