水面に映る月を欲しがる

月を欲しがる話、月からの来訪者、月への移住者との話はよくありますね。

月というのは目に映るもので一番遠くて一番うつくしい、触れられないけど触れたいものの印象があるのでしょうね。(もっと遠い星もあるけど、特別感がある。)

最近まんがサイエンスの『ロケットの作り方おしえます』を再読して、人類が月に、宇宙旅行に抱いた夢、その軌跡、死を伴い得る未知の空間への挑戦などを思ってめちゃくちゃ泣いてしまいました。科学まんがなのに。

月の中でも「水面に映る月」はちょっと毛色が違って、伸ばせば手が届く水面にあること、鏡ではなく不定形で水面より底がある水というもの、形がいびつさ、あと水に手を伸ばす危険性を考えると色々面白いですね。


猿猴捉月(中国の故事)

友人の可不可さんが教えてくれましたが中国にある故事で、字の通り「水面に映った月を捉えようとして破滅する猿」から、身の程を弁えず大望を抱き身を亡ぼすことの例えです。

犬とか狐じゃなくて猿なのは「手を伸ばせる」というのと「食べ物や仲間じゃないものに心を動かす知能はあるが浅知恵である」というのがポイントなのかな。

よく絵画のモチーフにもなっているみたいで、切ない故事の割に絵の方は可愛くてユーモラスです。特に若冲のが可愛すぎる。こぐまちゃんのパンケーキみたいなの。あと若冲が好んだ相似の構図になっているのにも注目したい。『美の巨人たち』でみたな。

是非「伊藤若冲 猿猴捉月」調べてみてください。


海底撈月

麻雀大好き!麻雀!好き!

麻雀では王牌の1つ手前の牌、海底牌をツモであがることを海底撈月と言います。(説明あってるかしら…。)ネットゲームではあがったことあるけど生麻雀ではないな。海底撈月は猿猴捉月と同様に海の底に浮かび上がる満月をすくい取る、出来ないことの例えです。

撈が掬うか。麻雀用語ではこれと独釣寒江雪が奇麗で好きです。


作詞作曲:松本俊明 歌:手嶌葵『エレファン』

小象が母に「月が食べたい」とねだったら、湖面に映る月をとろうとしてハンターに撃たれた母の遺体を目にするという歌。特に教訓もないしよくわからんのだよな…。


猫のダヤンのレシピ本

水面月引き出し暗いのが多いですが唯一ロマンチックな引き出しです。

猫のダヤンの世界で起こった短いエピソードと料理のレシピが載っている本の中に月入りのスープを食べるというのがありました。

寒い月夜、スープの入った皿を庭において待っていると、スープに映った月が凍りついて食べられるよ、という話(現物が手元になくて正確じゃないかもしれません。)。レシピでは月は卵でした。ポーチドエッグ?違うかも。

ダヤンの料理本は作中のキャラやモチーフが再現されることもあり影のブラウニーなど幻想的なメニューが多いです。そしてもっと注目すべきは「登場動物同様に意思疏通できる物を食する」料理も多いところ。馬のハビーがしつこくなぞなぞを出してくるひよこの坊やをミートパイにしたり、ワニのイワンが世間知らずの鱒のお嬢さんをことば巧みに誘って鱒フライにしたり。主人公の猫ダヤンも友人のネズミをうっかり食べないよう、ネズミ型のパンを焼いて食べて食欲を発散させたりしています。倫理観と弱肉強食と理性のバランスがシビアで魅力ですね。


九井諒子『ひきだしにテラリウム』でも『湖底の春』という話がありましたね。

『ひきだしにテラリウム』本当に面白い掌編集でおすすめです。



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