カップアイスが溶けるフィクション
棒アイスやコーンのソフトクリームが溶けてだらだら手に垂れる、落としてしまうというフィクションについて以前引き出しに書きました。一部カップアイスも入っていた。
昔の引き出しただただ羅列してて読みにくいな!
今回はカップアイスです。棒アイスらとの違いはカップアイスはある程度、最悪全部溶けても被害が少ないという点です。液体はカップが受け止めてくれるし味は落ちるけど飲んで食べられる。
それで生まれないドラマも生まれるドラマもあるんだろうなと思います。
・溶けたアイスの属性
どろっとしている、味が落ちている、汚れる、濡れる、液状、時間が経っている、だらしなさの結果、もう戻れない、時間をかけてそうなった、勿体無いなどなど
北村薫『溶けていく』
軟体動物がにじり出るように白いクリームが溢れ出た。
全体はアイスの話ではなく、数回アイテムとして出てくるのですが徐々に変わっていく主人公と重なり溶けていく、というタイトルが響きます。北村薫らしくなんでもないシーンを比喩や心情描写で不穏に、鮮やかに表している短編でおすすめです。
特に主人公が電話に出るためあっさりとアイスを床に投げるシーンが「あ、この人はもう…」と感じさせる描写で好きです。
『あたしはあたしの映像の中にいる』古川日出男(『gift』収録)
カップ入りのバニラアイスが溶けるように理解する。
『gift』は全作品がめちゃくちゃ良い掌編集で何回か人にプレゼントしています。上の台詞は現実の範囲ではあるけれど非日常的な気づきを得たときの主人公の少女の心情で、実際のアイスではないのですがカップアイスが溶けることを印象的に使っていたので採りました。カップのアイスがじわーっと溶けていくように理解が広がる感じなのかな。棒アイスやソフトクリームだと「落ちる」イメージが挟まりノイズになるからカップアイスなんでしょうね。
「疑問が氷解した」とも言いますよね。
『追われる男』basso(『クマとインテリ』収録)
溶けてる
basso(オノ・ナツメ)の作品は本当に漫画がうまくて台詞でも台詞の外の全てでも様々なことが語られていてかっこいいですね。大好きだ。
ことに掌編漫画では台詞のないコマが雄弁で、『追われる男』も表情や体の動き、引きの絵が男の心情を細かに描いていてとてもいいです。
この作品では溶けたジェラートを指ですくって情人の前に差し出し、相手がそれをゆっくりなめとるという描写があります。物理的にも比喩的にも艶めかしいシーンをサイレントで描いて二人の緊張感と想いを表現していてとてもいい…。
お菓子とかクリームをポルノに使うフェチ的なのが現実でもフィクションでもあるらしい(あまり詳しくない)ですが、アイスも溶ければそれに使えるかもしれないですね。あんまり詳しくないからわからない、的外れかもしれない。冷てぇし!
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