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アメリカにおけるUFO問題への取り組みの変化(1)

以下は、この記事を参考に、事実関係などを加えて再構成したものです。

2001年5月9日、ヴァージニア州の救急医スティーヴン・M・グリアは、ワシントンD.C.にあるナショナル・プレス・クラブで記者会見を行い、「ディスクロージャー・プロジェクト概要説明書」と題した492ページに及ぶ資料を配付した。

そこには、数十人の政府関係者や、クリフォード・ストーン軍曹を含む軍関係者によるUFO回収、リバースエンジニアリング、異星人の遺体の目撃といった証言が並べられていた。

カーター政権で「プロジェクト・ブルーブック」の機密資料を調査した経験のある弁護士ダニエル・シーハンがグリアの「ディスクロージャー・プロジェクト」の顧問弁護士を務めた。

独立系の調査研究ジャーナリスト、レスリー・キーンもこの記者会見の会場にいた。彼女はその少し前にボストン・グローブ紙にUFOに関する記事を書いていた。それまでUFO問題には関心を持っていなかったが、知人から送られてきたフランスのUFOに関する公的な調査報告書を読んで、アメリカでの扱いとの違いに驚き、この問題を真剣に考えるべきではないかと考えたからだった。

グリアの記者会見を見たキーンは、なぜ講演者たちは確かなデータについて話すこともできるのに宇宙人の死体についての不確かな主張ばかりするのかと疑問に思った。

宇宙人についてどう思うかとは関係なく、本当に不可解な報告は科学的に精査すべきだとキーンは考えていた。「あの会議にはいい人もいましたが、なかには常軌を逸した大げさなことばかり言っている人もいました」と彼女は言う。「だからわたしは立ち去るべきだと思ったのです」。

グリアは、メディアがこのイヴェントを取り上げてくれることを期待し、議会が公聴会を開くことも期待していたが、結局そのような動きはなかった。

キーンはこう述べている。
「グリアが言ったことが誤りだとは限りません──おそらく1947年以来、異星人の来訪は続いていたのでしょう。ただ、真面目に受け取ってもらうためには、戦略的でなければなりません。宇宙人の体について話す人を、たとえそれが真実かもしれなくても、表に出してはいけません。受け入れる準備ができていないからです。人々はUFOが実在することさえ知らないのですから」

キーンは、彼女自身の調査を続け、2010年には『UFOs 世界の軍・政府関係者たちの証言録』(原題:UFOs: Generals, Pilots and Government Officials Go On the Record、2010年。邦訳:二見書房、2022年)という著書を書いた。この序文には、ビル・クリントン政権2期目のアメリカ合衆国大統領首席補佐官を務めたジョン・ポデスタの推薦文が掲載されており、この本の影響によりその後のアメリカ政府のUFO問題に対する取り組みが変わったと言われる。

この本の中でキーンは、「アメリカ政府は、常態的にUFOを無視し、追及されると誤った説明をする。その無関心または否定は、無責任であり、信頼に足る、多くの場合専門家でもある目撃者を軽視しているばかりか危険を招く可能性もある」と主張した。

キーンは、2017年12月16日、ニューヨーク・タイムズ紙の一面トップ記事で、同紙の二人の記者と共に、ペンタゴン(国防総省)が10年間にわたってUFO関連のプログラムを密かに実行していたことを明らかにした。記事には海軍が撮影した、公式には「未確認空中現象」(UAP)とされる2本の動画についても言及されていた。

UFO研究家たちの間では「2017年12月」が、アメリカがUFOタブーに踏み込んだ日として認知されるようになった。ポッドキャストの人気司会者ジョー・ローガンは、しばしばこの記事に言及し、キーンの仕事を急激な文化的変化をもたらしたとして高く評価している。

「これは人によっては危険なテーマだ。笑いものにされるかもしれないからね。(でもいまでは)あなたも『待て、これはもうばかにしていられることじゃないぞ――ここには何か重要なことがある』と言うことができるようになったんだ」

ジョー・ローガンのポッドキャストでの発言

この記事の後、政府高官たちは続々と公にUAPについて言及し始めた。2020年7月、米上院情報問題特別委員会の前委員長代理だったマルコ・ルビオ上院議員は、CBSニュースで米国の制限空域内の謎の飛行物体について、「それが何であるかはわれわれにもわかりません。わが国のものでないことは確かです」と語った。

12月、元CIA長官ジョン・ブレナンは経済学者タイラー・コーエンとのビデオインタヴューで、彼自身もどう考えればいいのかよくわからないと遠回しに認めた。「これからわれわれが見る現象のなかには引き続き説明不能のままのものもあるでしょう。それは実際には、われわれがまだ理解できない何らかの結果としてもたらされた類いの現象で、生命の異なる形を構成すると言う人もいるような、何らかの活動と関係しているかもしれません」

2020年の夏に国防副長官デヴィッド・ノーキストは、「未確認空中現象(UAP)タスクフォース」が正式に存在することを発表した。同年12月に署名された情報機関授権法には、政府が180日以内にさまざまな機関からデータを集めて分析することが明記され、2021年6月25日に国家情報長官室は報告書を公開し、04年から21年にかけて目撃・観測されたUAPの事例144件の内143件はデータ不足から解明に至らなかったとした。

元国家情報長官ジョン・ラトクリフは、フォックス・ニュースとのインタヴューで、この問題がもはや軽視できないことを強調した。「われわれが目撃情報と言うときは、海軍や空軍のパイロットの目撃や衛星画像によるもので、説明困難な行動や、われわれのテクノロジーでは再現不可能な動きをしていたり、ソニックブームなしで超音速で移動していたりする物体のことです」

グリアがなし得なかったUFOディスクロージャーの大きな前進をもたらしたジャーナリスト、レスリー・キーンとは一体いかなる人物なのだろうか。

つづく

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