そんなつもりじゃない名前

なんともない名前なのに、特定の文脈上でちょっと呼びにくい名前というのがある。


昔、部活に志村という後輩がいた。
たまに部活の何人かで一緒に帰っていたのだが、校庭の横を通る際に、いつも不安に思うことがあった。



志村の後ろからボールが飛んできたらどうしよう。


志村の後ろからボールが飛んできたとして、私は間違いなく呼び掛けるのをためらってしまう。
だって言うとしたら「志村、後ろ!」になるじゃないか。

真面目に発した言葉でも、志村側からしたら「それって......」と思うかもしれない。大抵有名人と同じ名字の人は、過去にいじられ過ぎて名字ネタ察知能力がカンストしているのだ。
へたすると坂田先輩に変なあだ名をつけている可能性まで疑われかねない。

志村がお笑いに厳しかった場合、「古典ネタかよ」と鼻で笑われることもあり得る。
(後頭部にボールが当たったらそれどころじゃないのでは......?)

しかし他に良い言い方がない。
「志村!ボール!」だと方向が伝わらない。それがボールであることよりも後ろに注意を向けさせるのが大事である。
「後ろ!」じゃ志村も自分に言われてるんだかわからないし、かといって「後ろ!志村!」は発音しづらい。言おうとしたら確実に噛む。「うしむら!」とか「うしろま!」とか言う。

これはもう、最悪無言で志村を突き飛ばすしかないな、と真面目に覚悟を決めていた。


今思えば、ボールの方を止めろという話である。



余談

いるかどうかわからないが(多分たくさんいる)、「こばやしせいや」という名前の人は、友達に見つかる度に「あっ、こばやしせいやくん」と言われたりしていてるのだろうか。
とんだとばっちりだ(とばっちりの間違った使い方)。


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