非常コント

「セン」がなくなっている。

千尋の逆パターンである。


「非常コンセント」
つるつるした素材でできた、赤い立体の文字だ。一文字は成人男性の手のひらくらいの大きさで、結構目立つ。

建物の全階同じ位置に取り付けられているのだが、10階と11階のものは共に「非常コント」になっている。
経年劣化でありがちなパターンだ。パチンコ店の「パ」だけ消えるようなものである(「パ」が消えやすいのは急カーブの曲線で構成された「〇」部分が死にやすいからと聞いたことがある)。

なにも2階連続で同じ取れ方をしなくてもよいだろうと思ったが、作りの問題で取れやすいだとか、あるのかもしれない。
そうすると二つあるうち一つの「ン」が残っているのがちょっと不思議だが、落ちる「セ」に道連れにされたのだろうか。
よく見ると「ンセン」部の各文字が見ている方向は「ン」→「セ」→「ン」という感じだし、そういう三角関係とも考えられる。

落ちてゆく「セ」が右の「ン」を道連れにしたとすると、左の「ン」は、
"私には振り向かなかったくせに、私とよく似た「ン」(それも「ト」に片思いしていた)にしつこくせまったあげく、むりやり道連れにして一緒に落ちていったあのバカな「セ」……"
みたいな複雑な心境かもしれない。

かわいそうだ。
非常というか非情だし、コントしている場合ではない。非コントである。

「セン」の抜けた穴を埋めるのにふさわしいのはなんだろう。
「チェル」とか「タク」とか「サー」とか、いいかもしれない。

「チェル」はまずいな。子持ちの夫婦「チ」と「ル」は経済感覚の違いから仲たがいしている。「ン」と「チ」はお互い気になる存在となり、「ル」は「ト」に片思いをする構図になる。
子供の「ェ」がかわいそうである。それに三文字だとちょっと狭い。

「タク」もいまいちだ。「ン」と「タ」がいい感じになるが、「ク」が兄の「タ」からより一層かまってもらえなくなって悲しむのでよろしくない。

「サー」がいいだろう。「ン」と「サ」はお似合いだし、「サ」には現状恋人はいない。いるのはペットの「-」くらいである。
決まりだ。


10階、11階の非常コンセントは、明日から非常コンサートになります。

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