だったらよかった

職場で細い女の人が、幅が自分の二倍くらいある重そうな段ボールを抱えていた。
大分腕が疲れていそうだったので、持ちましょうかと声をかけた。
女の人は、お願いしますと言って段ボールを一旦床に置いた。

持ち上げようと手をかける。
中身は紙がわさわさ入っていて、思ったよりも重そうだ。思わず、よいしょいー、とよくわからない掛け声が漏れ出る。

持ちあがらない。

再び持ち上げんとす。


持ち上がらない。


結局見かねた上司が持ってくれた。
年配の上司が段ボールを運ぶ横を歩きながら、女の人はひどく恐縮していた。

私はただ謎の掛け声を出したただけの人間となった。


ところで昨日、風呂の電球が切れた。
のを忘れていて替えの電球を買って帰らなかったので、今日は電気をつけずに入るはめになった。

脱衣所の電気を着けておけば大丈夫かと思っていたが、やってみるとこれが意外に大丈夫ではない。

昼からずっと本を読んでいたら外が暗くなってきて、ギリギリ電気をつけなくても読めるか読めないかくらいになってそろそろつけないと無理かもなーどうしようかなー立ち上がりたくないなー、と、思う時くらいの明るさ。

仕方がないのでそのまま風呂に入った。
ふと鏡を見たとき、半逆光になった自分が何かに似ているな、と思った。この状況でのデジャブはさすがに初である。

しばらく考えてわかった。
こういうグラビア写真、ある。

見たことある。ちょうどいい強さの光で輪郭がいい感じに柔らかーく光っている。
ちなみに半逆光は皮膚のムラやシワなんかを目立たなくすると聞いたことがある。天然のPhotoshopである。

ただ肝心のモデルの方が、三本集まっても折れるひのきのぼうみたいな体格なので、光の表現以外は似ても似つかない。
照明の妙がもったいないというか、完全に無駄である。


ああ、ムキムキだったらよかった。

ムキムキだったら腕が疲れた女の人の手助けが出来たかもしれない。
そして、ムキムキは段ボールを持ち上げるときに変な掛け声も出さない。出すとしてもきっと「セイッ」とかそういう感じだ。

ムキムキは、風呂の電球が切れていても半逆光の中で己の肉体美に見とれることができる。
ムキムキはひのきの棒に例えられることはないし、多分三本集まったひのきの棒でも折る。

いいなあ。
ムキムキ。

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