わかっとる奴しか聞いとらん

夏の暑さで「茹で脳」が作れる!


今年も、語弊はあるがおおよそそんなような話題が話題になっていた。
「話題が話題」などと気色の悪い文を打つくらいには、実際に脳がやられている実感がある。

「茹で脳」とは少し違うが、昔母がよく「暑すぎて脳細胞死ぬわあ」と口にしていた。
冗談がわからなかったので、「私ら夏の度に物がわからんくなってきとるんか。シベリアの人達なんか頭ええんやろうな」と思っていた。


タンパク質はたしかに高温で変性するが、ゆで卵と違って脳のタンパク質は新たに作られ続ける。
「熱中症はむしろ、アレルギーのように免疫系の暴走が危険なのだ」とは伝え聞いただけの話であるが、少なくともゆで卵ほど絶望的に不可逆なことにはならないだろう。


上記のような説明をした後でも、美容師Yさんはまだ怖がっていた。
Yさんは健康管理をしっかりするタイプなのだが、神経症的な域に片足を突っ込んでいる。
「そういう話聞いちゃうと、ちょっと暑い所いただけで頭が変質してる気がしてきちゃうんですよ」
私の頭部の毛を熱で変形させながらYさんが嘆く。それを聞きながら、私はかつての進路指導教諭の言葉を思い出していた。


「学生のうちは楽だぞ。社会は中学生のお前達が思ってるよりずっと厳しい世界だ」


さんざん言われてうんざりしたものだ。
複数回言われることにもうんざりしたし、初心者版ヴァルハラのような中学校にも増して厳しいという社会にもうんざりした。

おそらくだが、進路指導教諭はその言葉を主にちゃらんぽらん(エスケープしたり机を投げたり自習時間に愛を囁きあったりする人々)に向けていたのではないかと思う。

しかし、クラス全体に向けた教師の苦言は得てして問題児には響かないし、優等生には響きすぎる。
ちゃらんぽらんは結局卒業後もバイクで母校の周りを回るなどしていた。

教師の苦言に限らず、注意喚起や警告は「わからせたい相手」には気にされず、「言われるまでもなく心がけてる人々」の「心がけ」を無駄に加速させるんじゃないかと思う。
(「茹で脳」に関しては、真偽は別として内容が怖すぎるので、そこそこ鈍い人にも効き目はあるかもしれないが)

そう考えると、ツイッターでたまに見る、
「この注意喚起を読んで『どうしよう、私のことかな......』と思った人はまず当てはまってないので大丈夫!」
はとても真理を突いた補足だ。
同時に「この注意喚起には意味がない」という、主題を虚無に叩き返す発言でもあるわけなのだが......。

ワカランチン相手に本当に注意や警告を聞かせようと思ったら、生身の本人を取っ捕まえて一日中横でわめくしかないかもしれない。

言うことを聞いてもらえるかぶん殴られるかは、まあ五分といったところだろうか。

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