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江戸っ子

ゴリゴリの九州男性の九州弁を聞いて育った私は、
上京したすぐの頃、電車の中で男性が

「○○でしょ」とか
「△△なの?」とかって、

話してるのを聞いて真剣に皆がオカマだと思った。


とても柔らかい響きに驚いた。

でも、東京も下町に住むようになって、
時代劇から抜け出したような話し方の人がいるのに感動した。

「するってぇとなんだい?」とか

「おめえさん、こりゃあよぉ」とか、

本当に使う人がいるんだ!と。


たぶん、今ではかなり希少だと思うが。
これがまさにだねってやつだ!

カッコいいじゃんと思った。
ただ難題があった。

江戸っ子は
「し」「ひ」が逆なのだ。

聞いてはいたが。


私が上京して、情報系の専門学校に入ったが
その中で一つだけ簿記の資格がとれなかった。


言い訳に思われるかもしれないが
簿記の先生が江戸っ子のおじいちゃん先生だった。

授業の内容がさっぱりわからなかった。

外国語を聞いているようだった。


簿記の授業で「し」「ひ」が逆になることは致命的である。


「費用」「経費」「試算表」「貸方」は、

ヨウ」「ケイ」「サンョウ」「カカタ」という。


ひどいのは「貸借対照表」だ!

タイャクタイョウョウになってしまうのだ。

見事なまでに逆になる。

もう全く何を言ってるのか聞き取れなかった。


上京してすぐにアルバイトを始めた。
ちょっと老舗の飲食店。

そのバイト先で私の指導係になったおばちゃんはロマンティックな江戸っ子だった。


「あたはね、【マワリ】って洋画が好きで何度も観に行ったんだよぉ」


「どうようもこうようもどいはなだねぇ」


こうやって、耳で慣れながら留学生もその国に慣れていくのだろうか。


まぁ、九州弁も他県からくると外国語のようなものだろうが。

でもまさか東京の人が!


そのおばちゃんに最初に言われたのが
「あんた、たいがカッコいいじゃないの」

まさか私の額(たい)を褒められてるなんて、思いもしなかった。


この人はなんてことを言うんだ!

肢体がカッコいいのか、
まさか死体をカッコいいと言ってるわけではあるまい。

初対面の私に何を言っているのだろうかと思ったものだ。


「近藤マサコと田原トシシコなら、あたは近藤マサコが好きだね」

アイドルもがっかりだろう。


でも粋な江戸っ子文化として残っていて欲しいな。


そして、いつの間にか、東京の男性が話すのを聞いてオカマだと思わなくなっている自分がいた。



ちなみに私は「田原トシシコ」派だ。



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