春眠暁を覚えず
「春眠暁を覚えず」とはよく言ったものだ。
ぽかぽか陽気で気持ちいい。
まさにうとうと・・・
私はどこででも寝れる。
電車やバスは私にとってはゆりかご、いや、羊水だ。
そして、その眠りは深い。起きないのだ。
これがお酒でも飲んで乗ると最悪だ。
東京時代も新宿から中野の自宅に帰るのに
5分くらいで着くはずが、何故か、高尾山口に着いていたこともある。
不思議なのは、私は三鷹でいったん降りたのを覚えている。そしてそこから中野に戻る電車に乗ったのだが、
また寝入って中野を通り過ぎ、気づけば東京駅だった。
そこでまた中野に向かったはずが、通り越して高尾までの睡眠旅行だ。
中野駅に嫌われてでもいるのか。
降りることなく何往復もの中央線睡眠旅行をした。
東京で星が見える⁈
高尾で降り立ち、星の美しさに眠気がとんだのを覚えている。(飛ぶのが遅すぎる)
その時はすでに帰る電車はなく、
ネクタイをハチマキにしている酔っ払いのオッサン達とともにカプセルホテルの受付に並んだ。
1回や2回の睡眠旅行ではない。
電車の車庫までも行ったこともある。
決して自慢ではないが。
ある日、電車の中で目を覚ますと、
私は肩くらいまであった髪の毛の左耳あたりを左手で掴んでいた。
自分の髪の毛を引っ張っているのだ。
しかもここはどこだ?
その確認をしたいのだが左手が髪の毛から離れない。
髪の毛を掴んだままキョロキョロした。
どうやらまた寝過ごしてる。
どの駅だか覚えていないが、
私は左手で髪の毛をつかんだまま、
右手にはバッグというバランスの悪い状態でホームに降りた。
そして乗り換えるのに左手固定のまま
これまたバランス悪いまま階段を登り、
向い側のホームに行ったような気がする。
周りの人も振り返って見ていた。
そりゃ、そうだろ。
右手にバッグを持ち、左手はこぶしを作って顔の横にある。まるで、左手で自分の顔をパンチしてるようなポーズだ。
そして、向い側のホームの陰でゆっくりと手を開いた。
嫌な感触がした。
私の左手にガムがねばっこくくっついていて、髪の毛に絡んでいる。
ガムはとれない。
私は仕方なく、手のひらのべっちょりガムと
それに絡まった髪の毛をまた握りしめ、
そのままの、変な身動きの出来ないポーズで帰宅した。
駅のホームで切符を通すときが大変だったような気がする。
酔っ払ってるのでよく覚えていない。
どうにか帰宅した。
そして私はこの左手に包まれているものをどうにかしたいし、この不便な体勢もどうにかせねばと、酔っぱらってる脳みそフル回転。
で、何を思ったか、
ハサミを取り出し、こぶしの上の部分の髪をバッサリとカットした。
次の日は学校だ。
ひとまず、寝よう。
翌朝、、、
左手に僅かに残る違和感が昨晩の出来事を思いださせた。
髪はどうなってる?
鏡を見た。
そこには怖ろしいまでの段カットの私がいた。
当時、テクノカットヘアの人がまだいるにはいたが、
そんなレベルではなかった。
左サイドの髪がない。
左耳の上当たりでバッサリ切られ、
耳にかける髪の毛すら残っていなかったのだ。
今ならアシンメトリーとか許されるかもしれないが、
当時は山口小夜子ぐらいにしか許されなかった。
しかも私はクセ毛がひどくて、ストレートヘアではないので、
どうあがいてもお洒落でしてるヘアスタイルにもっていくことができなかった。
お笑い芸人の罰ゲームのようなヘアスタイルだった。
そのまま、登校した。
今思うとその勇気をたたえよう。
友人らは「どうしたの?」と言ってはくるが心配はしていない。
笑っている。
笑いをこらえている。
ずっと左手を左耳にくっつけたまま、
まるで鶴田浩二が歌うときのようなポーズで一日を過ごした。
学校が終わると一目散に美容院に行った。
成人式までは伸ばす予定だった髪をショートカットにした。というか、この訳のわからないヘアスタイルをごまかしてもらった。
もちろん美容師さんにも笑われた。
それは冬の出来事だ。
私は春眠に限らず、春夏秋冬、暁を覚えないらしい。
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