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結婚披露宴にて

この歳になると、もう何度、結婚披露宴に参列してきたかわからない

わりと友人も親戚も多い方なので結婚式に参加する機会も多い

それだけにやらかしてしまった経験も多い・・・ほうだと思う

社会人になって、初めて友人の結婚式というものに参列したときのこと


それは夏だった。

確か8月も終わり頃の残暑の厳しい頃だったように思う


私は友人代表のスピーチを頼まれていた
いかにもスピーチができそうなタイプに思われるのだが、
見せかけだけで本当は緊張して声が震えるタイプだ

でもこういうお祝いの席の依頼は
断ってはいけないような気がして引き受けてしまう。

・・・もしかしたら、本心はやりたいのかも⁈


その頃、私は東京に住んでいて、
専門学校卒業からそのまま東京の会社に就職していて
一人暮らしをしていた


専門学校時代の友人の結婚式だ

その日の為にちょっとできる女風のミニタイトの黒のワンピースを購入した。

ノースリーブだが袖口(今では決して着れない二の腕露出タイプ)には

さりげなくフリルがついていて、夏の黒といってもレース入りで可愛げもある。


着るものは決まったところで、スピーチを考え始めた。

前夜である。

全てが一夜漬けだ。得意技だ。


でも、クーラーもない一人暮らしの部屋で考えていると
あまりにもとりとめのつかない内容しか浮かばずイライラしてきた

何か感動することを言おうと必死になっている自分がいる
そんなこんなを考えてると緊張で晩ご飯も喉を通らない

でもビールは通る。

冷蔵庫からビールを取り出し飲んだ
あと、何かしら胃袋に入れておかないと!


冷蔵庫にもう一つ光が!
勤めている会社の関係で頂いていた
メキシコ産のマンゴーだ。

これなら喉を通る

マンゴーの皮をめくり、
夏休みにヤンチャな子供がスイカにかぶりつくように
マンゴーにかぶりついた

美味しい! よく熟してる!

一人暮らしの部屋。
誰も見てない
そんな上品に食べる必要はない

かぶりつきまくった
しまいには種まで、しゃぶった

行儀が悪かろうがかまうもんか。
種のまわりがこれまた美味しいのだ。


結局、スピーチの原稿などどうでもよくなり、
どうにかなるさと寝入ってしまった。


真夜中、全身に感じたことのない痒みが襲ってきた。
痒い!残暑の暑さによる汗とあいまってとにかく痒い!


あんまり寝付けないまま、結婚式の朝を迎えた。

鏡を見た私は愕然とした


体中が斑模様になっていた
腕がペーズリー柄になっている


全身蕁麻疹だ。
顔は幸いあまり痒くはなかった

少し救われた。
と思ったのも束の間、口の回りが痒い
視力の弱い私、、、鏡をもう一度よく見てみる

おいおい!


黒ひげ危機一髪ゲームで飛び出てくる海賊みたいに
口の周りが黒ずんでいるではないか⁉

まるで泥棒ひげのように・・・
まるで志村けんの変なおじさんのように・・・


前日に熟したマンゴーの種にしゃぶりつき
口の周りに汁を垂らしまくっていた自分の卑しさを反省した


泣きそうになりながら結婚式準備を始めた
腕も足もペーズリー柄になってしまった私にもはや、
できる女風のミニタイトなワンピースは着れない


母から買ってもらった、私に全く似合わない黄色地に小花柄のワンピースに切り替えた

なぜならば、薄い生地の長袖だったから
腕のペーズリーを隠せたから


足はストッキングでどうにか
首はスカーフを巻いた

暑かった

顔もしっかりファンデーションを塗ってごまかした
痒いけど、そこは我慢

デカいイヤリングをして皆の目線が口まわりになるべくいかないようにした。


バタバタだった。
髪などセットできる余裕はない
爆発ショートヘアーのまま会場へ急いだ


痒くて汗だくで最悪だ


でも会場内はエアコンが効いて涼しかった。
嬉しかった。
汗がひくと痒みも心なしか引いた。


久しぶりに再会した友人らは私の似合わないワンピースにも
不自然な濃い化粧とストッキングにも触れなかった。


しかし
あまりのせわしさに忘れていた部分には触れてきた。

「今日のスピーチ楽しみにしてるよ!頑張ってね」


しまった!

そこからはあまり記憶がない。

緊張しているという私に友人らがビールをがんがん飲ませたからだ。


そして、私のスピーチの番がまわってきた。


「○○ちゃん、ご結婚おめでとう」

なぜか、会場中に笑いが起きた。


ん?  何がおこった?


私は、記念すべき初めての友人代表スピーチで

「○○ちゃん、お誕生日おめでとう」


と言ってしまっていた。


そこには化粧のおちかけた、変なおじさんが顔を出していた


これは私が数々の結婚式でしでかしてきた出来事の序章にすぎない。

そして、私は今でもマンゴーが大好物だ。

でも種はしゃぶらない。


唯一学んだのはそれだけか。


救いようがない。



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