宇宙銀行

私の座右の銘は、
「踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損」だ。

というわけで、今までけっこう踊ってきた。
いろんなお誘いや、コレやってみればと言われれば、
やらないよりやってみようと素直にやってきた。

自分でも驚くほど素直に、そしてスピーディーに…。

でも、これから話すことだけは、
やらんほうがよかったと確信を持って言える。

誰だって、綺麗事ではなく、豊かさを手に入れたいと思っているはずだ。

もちろん私もそうだ。

いろんな人のブログやユーチューブを見ては
豊かになる近道はないかと模索しまくっていた時期がある。

イメージトレーニングみたいなこともした。
寝る前にその日一日の感謝できることを思いうかべたりするのだ。

簡単にすぐ取り入れられることは、すぐにやった。

しつこいようだが、私はいろいろやってみた。

その中に、ネット情報から得たのか、
それを見た知人から聞いたのか、
もう覚えてはいないが、すぐにやってみた、
とある「豊かさを手に入れる方法」がある。

５、６年くらい前かな・・・

それは、
「通帳にお金はある！」
と思わせるのだ。

やり方は簡単だ。

自分の銀行の通帳の残高欄に好きなだけの金額を書き込むのだ。

コレは面白そうだと思ってしまったのだ。

しかも簡単にすぐ出来る。

私はトコトンお金がある気持ちになりたかった。

いい歳こいて本当にイタイ奴だ。

私は自分の通帳の残高欄に鉛筆で、印刷文字さながらに、丁寧に数字を書き込んだ。

その金額は、、、

五億円

やるならビッグにいかなきゃね。
と言いつつ本音はちょっと遠慮がちな額だ。

どうやら私の辞書には「身の丈に合う」という言葉がないようだ。

そして、それは、「宇宙銀行」から振り込まれたのだ。

天から授かった恵みってやつだ。

だから、五億円の適用欄には

「ウチュウギンコウ」と、

これまた器械で印刷されたような文字で丁寧に書き込んだのだ。

どうか、頭のおかしい人と思わないで欲しい。

私はただの踊る阿呆なのだ。

そうすると、お金があるのだという余裕のある錯覚状態になり、
同類のお金のある人達を引き寄せるというのが、この手法の狙いだろう。

今、思うと同類の人達が集まるとヤバい集団だっただろう。

確かに通帳を見るのは楽しかった。

五億円も私は持っている。

大事に使い道を妄想した。

綺麗に改装された自宅と、たくさんの人が集う店、
猫が楽しく遊びまわってる明るい部屋などなど、妄想した。
旅行にも行ったし、そう贅沢ではないが、服も買ったり、
エステにも行った。

もちろん妄想であることをお忘れなく。

より具体的に妄想しすぎて、税金のことまで考えていた。

何日間か妄想ごっこをさんざん楽しみ終えた私は、通帳を放っておいた。

・・・・・

数日後、いろんな払いものの引き落としがされたかどうか
銀行に通帳記入に行った。

ＡＴＭで通帳記入を選び、通帳を機械に差し入れた。

何も記帳されず機械からスルーっと通帳が戻ってきた。

そんなはずはないのだけれど。

もう一度、入れた。

戻ってきた。

踊る阿呆は、もう一度入れた。

戻ってきた。

以前にも通帳の磁気の故障でこんなことがあったから動揺はしなかった。

最近は携帯電話やバッグの留め部分が磁石だったりして、磁気を発するものが多い。

そこに通帳を入れてたりすると、通帳の磁気の読み取りが壊れて反応しなくなるという。

何のためらいもなく銀行の窓口に行った。

通帳の磁気を正常にしてもらえばなんのことはない。

私…「すみません、通帳の磁気が壊れてるせいか、記帳の読み取りができずに戻ってくるんですよ」

窓口の女性…「申し訳ございません、すぐ確認しますね。おかけになってお待ちください」

しばらくして、窓口に呼ばれた。

ちょっと首をかしげている窓口の女性を見て、
ハッとした。

何かを不思議がってる。

やっべー

　

逃げ出したい！

案の定、、、

窓口の女性…
「あの～これは何かおわかりですか？？？」

見覚えのある（正確には書き覚えのある）文字が私の目の前につきつけられた。

ウチュウギンコウ

５００,０００,０００

私…
「あら、ヤダ！ なんでだろ？」

バレバレのくさい芝居をして銀行の人達にくすくす笑われながら、

「記帳はできましたが、通帳は新しくしておきますね」と、

新たな通帳に繰り越し残高だけが記された通帳を渡された。

古い通帳には新通帳へ繰越と記されていた。

私の新たな通帳の残高はリアルな数字に戻っていた。

そして、一人になってこっそり古い通帳をみると、

ウチュウギンコウの行に思いっきり上から太い線が引かれていた。

ウチュウギンコウ　　　500，000，000

踊る阿呆もほどほどに。